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〜故郷〜

 あの凄惨な事件から一ヶ月。事件は世界中で報道され、未だにテレビの華を飾っている。世界でも類を見ないこの事件に多くの専門家も首を傾げた。数時間のうちに街一つが無人の廃墟と化し、数の合わない肉片が辺りを深紅に染め上げた。


 まるで巨大な何かが人々を喰い漁ったように。


 真司はひたすら孤児院を目指した。人との関わりを出来るだけ避けるために徒歩での移動をとった。知人には自分が死んだと思わせと方が都合が良かったからだ。


 理由はそれだけではない。時折襲い掛かる体の激痛に伴って身体のあちらこちらが変質し始めたのだ。体力の向上や身体能力の上昇はむしろ喜ばしいことだったが眼に現れたそれは人に見せられるものではなかった。

 瞳は鷹のように細くなり、眼球は血走ったように赤く染まった。その醜く変質した眼を隠すようにサングラスをかけ帽子を被って人目を避けた。

 そんな逃げ隠れるような短い旅が終わりを迎えた。十年ぶりに訪れたにも関わらず、そこはあの時と変わらぬ姿だった。

 複雑な気分だ。慣れ親しんだ故郷のはずなのにどこか遠く近寄り難かった。それに真昼だというのに人影はおろか話し声すら聞こえなかった。

 郊外といえどこの静寂はあまりにも不気味だ。錆び付いた門が軋んだ音を起てながら口を開ける。よく手入れされた芝生にでこぼこした石畳、枯れた噴水に小さな鳥小屋。本当にあの時のままだった。


 真っ直ぐ庭を突き進んで宿舎の扉を叩いた。しばらくしても応答がなかったので仕方なく、勝手に入ることにした。

 中に入ると小さなエントランスがあり、両脇に二階へと続く階段があった。昔見た風景より小さく見えるのは自分が成長したことを表していた。

 本当に何も変わってねぇなぁ。ここを出たのも丁度同じ時期だったかなぁ。先生達元気かな、まだ皆いるのかな。本当、久しぶりだな・・・


 思いに耽りながらあちこちを歩き回った。昔の自分の部屋や食堂、院長室も覗いてみた。

 だがやはり何かがおかしい。もぬけの殻なのに致る所に今し方まで人がいた形跡がある。院内は全部探したはずだ。まだ探していないのは、


 「地下室か・・・」


 ここの地下室はかつて一度だけ訪れたことがある。危険だということで子どもたちは立入禁止になっていたが、好奇心に負けて夜中にこっそり忍び込んだ。

 数年ぶりに再び地下室に忍び込んだ。あの時と同じく施錠されていたが鍵を壊して無理矢理入った。中は真っ暗だったがちゃんと照明は付いてあった。中は小さくて、食糧が保管されていた。だが、その配置が妙に気になった。あの時は気にならなかったが、どうも部屋の一角を隠してるように見える。


 やっぱりなにかあるのか?人が全くいない割に何かおかしい。やっぱりここに来て正解だった。

 荷積みをひっくり返していくと案の定、小さな扉が現れた。中は小さな階段がひたすら続いていた。歩けど歩けど下は見えない。螺旋状になったその階段を5分程降りるとやっと出口が見えた。


 さて、中はなんだ?何かの実験室か?ショッカーでも創られてたりして。なんてな・・・・・


 そんなふざけた話で必死に気分を盛り上げようとした。何かは判らないが良からぬものがある気がしてならなかった。自分の愛したこの地が決して悪行を冒していないようにと心の中で叫んだ。


 だが現実はことごとく真司の期待を裏切ってくれた。中は小さな手術室のようで、真ん中には寝台が置かれついた。片隅の台には注射器やらメスやらが綺麗に並べられ、その隣には椅子に腰掛けた眼鏡の男が佇んでいた。ドキリとして思わず後ずさりをしてしまった。

 男は顔を上げてにっこり微笑んだ。その不気味な笑顔に、真司は冷たいものを覚えた。真司の動揺を悟ったような男はゆっくり口を開いた。


 「おかえり、真司君。遅かったね。ずっと待ってたんだよ」


 男の言葉に真司は言葉を失った。間違いない。間違えるワケがない。この人こそ真司の恩人であり孤児であった真司を拾った先生その人だった。

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