〜絶望〜
オオオオオォォ!!!振動する空気に思わずたじろぐ。やべぇ、やっぱり怖えぇ!失敗したら死ぬよな、やっぱ。ああ、駄目でもともと、当たって砕けろだ!
ゴリラがもう目の前まで来てる。もの凄い形相で襲ってくる。
今だ!
タイミングを見計らってその場から、落ちた。 驚いたゴリラは思わず踏みとどまろうとした、が。できなかった。足が滑ってその場に突っ伏した。真司の撒いた油だ!摩擦の働かない油の上で踏みとどまることはできなかった。どうすることもできずにただただ滑って行く。そのまま真司の後を追うように屋上から真っ逆さまに落ちていく。加速の付いた巨体は滑るように飛んだ。慌てて何かを掴もうとあがくが、彼の手が届くものは何もなかった。
巨体が小さくなるに連れて、彼の声も小さくなっていった。最後にズドンという音を遺して、闇夜は再び静寂を取り戻した。
あっ・・・ぶね〜、落ちたよな・・・?二度とこんな賭けしねぇぞ
真司は結んで於いたワイヤーを蔦って下の階層に降りていた。恐る恐る下を見ると紅い点がピクリとも動かず沈黙している。急いで階段を降りて奴のもとへと駆け付けた。
凄惨な光景だった。辺りには鮮血が飛び散り、その中心に紅い獣が横たわっていた。手足はおかしな方向に曲がっていて頭部からはおびただしい量の血が流れ出ていた。 死んだか?恐る恐る顔を覗き込んだ真司の顔を僅かに開いた瞳が見つめ返した。驚いて尻餅を付いた真司はとんでもないことを耳にした。
「・・・し・・・ん・・・ちゃ・・・ん・・・」
それっきり巨獣は動かなくなった。
「え?何だよ今の・・・今・・・俺の・・・・・名前を・・・?・・・勇・・・気・・・・・?ちょっと待てよ。待てって!どういう事だよ!なぁ!何でお前が・・・!」
震える手を目の前の遺体へ延ばす。真司の手が触れたその瞬間、遺体は灰となり崩れ落ちた。
もう何が何だか解らない。ただひとつ言えることは自らの手で親友を殺めたということだ。
涙が、溢れた。声にならない声を上げてその場に崩れ落ちた。むせ返って何度も何度も鳴咽した。勇気が・・・死んだ。あいつの笑顔は俺が奪ったんだ。
俺が・・・俺が・・・
何時間経っただろう。涙は枯れて、眼差しは光を失っていた。生気のないその目は絶望を写す鏡そのものだった。
友を殺した。それだけが頭の中を満たしていた。だが、ある事を思いだして指先に力を込めた。
そうだ。雅哉・・・雅哉はどうした・・・?
ゆっくりと立ち上がって回りを見回した。人影はない。名前を叫んでも虚しく響いただけだった。もしかして雅哉も勇気みたいに・・・。嫌な考えを振り払い、拳を固く握った。どこかへ逃れたのだろうか。
悩んでいても始まらない。今は雅哉の生存を信じることしかできなかった。信じなければこのまま朽ちてしまいそうだ。明るくなりはじめた空の下、自転車に跨がり雅哉の家へと向かう。もしかしたら帰ったかもしれない。力強くペダルを漕いだ。一握りの希望を抱いて友の死を後にした。
町に帰るとそこはまるで地獄絵図だった。道には無数のバラバラの死体が転がり、地面から壁まで一面を赤く染め上げていた。飛び散った肉片を見て思わず嘔吐した。
あまりにも酷い。何がどうなればこうなるんだ。空っぽになった胃袋を摩りながら再び歩み始める。雅哉を探さないと。 真司は死体の山をひたすら突き進んだ。友の遺体がないことを祈りながら・・・・・