〜巨獣〜
何が・・・起きた?死んだのか? 頭が・・・いてぇ。何が起きた・・・・・?生きてるのか俺は・・・?
痛む頭を抱えながら、ゆっくりと痺れの残る身体を起こす。膝を付きながらもなんとか立ち上がることができた。
俺、どうなったんだっけ・・・・・確か雅哉達と喋ってて・・・それから・・・・・・
疑問の答は頭の痛みが教えてくれた。小さな揺れと突然の頭痛・・・。 思わずハッとして辺りを見回した。
雅哉と勇気はどうなったんだ?!
慌てて後ろを振り返った真司は視界に飛び込んできたものに絶句した。 紅い毛に被われた巨大な塊だった。
何だこれ・・・動物?・・・ゴリラか?!これえ?なんでこんなところに?でけぇ。3mはあるんじゃねぇのか?てかなんで紅いんだよ。こんなの見たことねぇよ・・・
それはまぎれもなく、巨大な紅いゴリラだった。ゴリラは倒れ伏していて動かない。眼は閉じていて眠ってるようにも見える。だが、こんなものが暴れ出したら間違いなく無傷では助からない。命の保証さえ危うい。
どうする?大丈夫なのかこれ・・・?暴れ出すんじゃねぇだろうな。
畜生、雅哉たちを捜さなきゃなんねぇってのによ。どうする・・・どうする・・・・・?!
戸惑う真司に最悪の事態が降り懸かった。真紅の巨獣が、動き出した。喉を鳴らしながらゆっくりと体を起こす。
やばいやばいやばい!起きやがった!どうする?!来るのか?!
起き上がったゴリラはゆっくりとこちらを見た。まずい、目が合った!ゴリラの顔が歪んだ。
グォアアアアアア!
吠えながらゴリラが飛び掛かって来た!速い!こんなデカい図体なのに異様な速度だ。走っては逃げ切れそいにない。
間一髪のところで横っ飛びに避けることができた。
何だ?今こいつの動きが読めたような・・・
体の異常に疑問を抱いたが考えてる暇はない。次が来る!
ゴリラは拳を振り上げると真っ直ぐに振り下ろした。これも何とか避ける。繰り返し殴り掛かって来たが全てかわしきってみせた。
やっぱりだ。こいつの動きが予想できる。どうなってるんだ俺の体は!
信じられないが、視力が凄まじく向上している。筋肉の動きや眼球の動きが手に取るように解るのだ!思わぬ武器を手に入れた真司の心は踊った。勝機が見えてきた。
だがどうする?!こんな馬鹿でかい生き物、殴り合っても勝ち目はないぞ。考えろ、考えろ!
必死に辺りを見回した真司は、ここが廃ビルだということに気がついた。ここの上から落とせばもしかしたら・・・・・ 考えるよりも体が先に動いていた。ゴリラの脇をくぐり抜け、上を目指して走り出した。すかさずゴリラも後を追ったが、狭い通路と障害のおかげで中々距離は縮まらない。そしてとうとう屋上に着いた。
勢いよく屋上のドアが吹き飛ぶ。衝撃に耐えれなかったコンクリートがパラパラと崩れ落ちる。 砂煙の中から、真紅の巨獣が現れた。唸りながら標的の姿を探して回った。
いた。あの男だ。屋上の際に立ちすくんでいる。馬鹿め。肉片も残すまい。勝利に捧げるために怒号という名の凱歌をあげた。男がニヤリと笑う。いい度胸だ。
静かだ。だが空気は痛い程に張り詰めていた。 沈黙を破ったのは巨獣の方だった。怒号をあげながら男目掛けて走り出す。もはやこの獣には男しか見えていない。男に巻かれたワイヤーも、足元を濡らす黒い液体も。
時間がゆっくり流れていく。獣の思考に目まぐるしい量の記憶が巡る。だがどの記憶もぼやけて何一つ理解できない。ただ一つ例外だった優しい男の笑顔も、もう思い出せなかった。