〜日常〜
「オイコラ加賀野、ちょっと面貸せや」
よくいる手合いだ。テメェの力じゃ何もできないクセに口先だけは一人前だ。そのくせ自分の気に入らないものはとことん拒絶する。表面だけ着飾って中身はグダグダ。 似合ってねぇぞその剃り込み・・・・・。
「テメェよくも俺の舎弟やってくれたな。高くつくぞ。あ?」
何が舎弟だ。一人前に年上ヅラしやがって。ロクなこと教えてやがらねぇクセに。その阿保の舎弟に勉強でも教えてやれや。お前らみたいな軽くて安っぽい人間のどこが高けぇんだよ。ほとんど無価値だっての。
「なんか言えや。ん?びびっちまってだんまりかぁ?謝るんなら今の」
グシャッ。肉が潰れた音がした。鼻も折れたか?あ、鼻血出てんぞ。
「アガッ!は、はにゃがぁ!ひきひょう!」
「ベラベラうるせぇ。その口閉じんの手伝ってやっからかかってこい。」
バカだな。そんな大振りのパンチ当たるかよ。てかこいつらバカだなぁ。せっかくたくさん居るのに全員正面から来てやんの。三流のアクション映画並だわ。
「テメ・・・加賀野、後悔す、ブハッ!」
「誰が喋っていいなんて言った?敗者が口聞いていいと思ってんのか?負けた時点でテメェは死んでんだよ。」
そうだ。敗者に語る権利はない。勝ったのは俺だ。弱者は従え。殺し合いなら死んでんだぞ?命があることに感謝しろ。口開くなんざ頭が高けぇんだよ。
俺の前に立つのはこういう手合いばっかだ。勝てなきゃつるんで立ち塞がる。俺の前に立つな。弱い。弱すぎだ。ハッキリ言って興ざめだ。意気がいいのは最初だけ。仕舞いにゃこっちも限界超えちまうって。死んでも文句言うなよ?
「コラァ!何やってる!加賀野!ちょっと職員室まで来い!」
・・・・・世の中こんなんばっかりか?・・・
「ねぇ聞いた?二年の加賀野、またやったらしいよ〜?斎藤たちメッタにしちゃったんだって〜」
「聞いた聞いた。でも加賀野くんてめちゃくちゃかっこよくない?成績優秀スポーツ万能おまけに喧嘩は最強だし!」
「料理とかもできるらしいよ〜。正に才色兼備ってやつ?いいな〜あんな子と一つ屋根の下だなんて。明里羨まし〜」
「どこがよ!あんな奴、喧嘩ばっかじゃない。調子に乗ってるのよ、暴力なんて最低じゃない」
「信じらんない〜あんなカッコイイ弟が居るのにさぁ〜。アタシだったら襲っちゃうかも♪」
あんな奴のどこがいいのよ。家にまで面倒持ち込むし!いくら頭良くても暴力振るうなんて最低よ。それに・・・・・・アイツは本当の弟なんかじゃないんだから・・・
ったく。つまんねぇ説教しやがって。教師ってのは気にくわねぇ。特にああいう頭ごなしにもの言うヤツは忠実な人間が欲しいだけじゃねぇか。苛立つ真司の背中を何者かが勢い良く叩いてきた。
「おう真司!またやらかしたんだろ?!お前も懲りねぇなぁ!」
「真ちゃん頭良いんだから勿体ないよ。」
この真逆の性格の二人は俺の親友だ。明るく豪快なのが木戸雅哉、おとなしく引っ込み思案なのが倉西勇気。二人とも同じ孤児院の出である。
そう。俺は孤児だったのだ。加賀野という名字も引き取られた家のものだ。俺達は偶然この学校で再会したのだ。
「そうそう。俺なんか進級できるかも危ういってのによ。」
「雅ちゃんまた赤点取ったの・・・?そろそろ真剣にマズイんじゃないの?」
「るせー!お前は勉強ばっかしすぎなんだよ!ひょろひょろじゃねぇか!肉食え肉!」
そんな二人のやり取りに俺は中々参加できずにいる。どうもワイワイじゃれるのは苦手だ。それに俺はこんな二人のやり取りを見てるのが好きだった。どうも俺は悲観的になる傾向があるみたいでいつも世の中に諦観してしまう。けれどなぜかこいつらといると心が落ち着いた。喧騒に明け暮れる俺を受け入れてくれたからだろうか。ここだけが俺の掛け替えのない居場所になっていた。
そんな風に考えながら今日も俺はこいつらと共に帰路を辿る。いつものように。この細やかな幸せを。