テンプレートをはたき落とす夫人
「あなたのような地味な女、ルシウス様にはふさわしくないのよ!」
ビシィッ!と指を差して高らかに宣言した令嬢を見つめ。
私はひとつため息をついた。
テンプレート来たる。
ペース早い。
◇◇◇◇◇◇◇◇
胸の辺りは鮮やかなライトブルー。
そこから裾に向かうまでの間に金色の刺繍とグラデーションが混じり合い、キラキラ輝くストーンを見せながら紫に染まるドレス。
身に纏ったそれをフワリと浮かせながら軽く回ると、周囲の侍女やメイドがワッと声をあげた。
「若奥様!素敵です!」
「本当にお美しい…!」
「見事に着こなしてらっしゃいます!」
ふむ。良さそうね。
満足してニッコリ笑うとさらに盛り上がってる。
うんうん、半年の苦労が報われたよね。
残りを仕上げるために再度鏡台の前に座らされると、背後に立つサリーがしみじみと言う。
「無事に完成して良かったです…。本当、一時はどうなることかと…!」
「同感です」
サリーの手助けをするナンシーも、無表情ながらに同意を示す。
さらにその後ろの総監督メリッサも頷く。
…まぁ、そうね……想定外の問題が起きたからね……。
責任はないとは言えバッチリ当事者の身としては、謝るのもなんだか変だしかと言って無関係でもないしなぁ、と苦笑いするしかない。
私達の超スピード政略結婚は、式をあげてから一ヶ月後に開かれる王宮夜会にて夫婦揃って出席し、お披露目とすることでミッションコンプリートとなる。
当然、夜会に向けての準備もその期間で終わらす必要がある訳で。
その集大成が夜会での装いなので、デザイナーや針子や仕立て屋らが全力投球をして臨んだのだ。
夫婦仲の良さを示す意匠、両家の特産品・技術を用いた装飾品…。
ありとあらゆる方面からお願いやら注意点やらを受け、体のラインを1ミリたりとも変えるな!とのお達しで料理長たちも献立をものすっごく検討してた。
おかげで美味しいのにローカロリーな料理が何種も発明され、実家の近くにローカロリー料理店まで出店してた。棚ぼた。
どうにか無事に式をあげ、さぁ最後の夜会に向けてラストスパート!と両家が意気込んだ所で。
思いがけない問題が発生した。
夫婦の仲が良くなり過ぎた。
いやー想定外。
元々知り合いではないし、そこまでコミュ強と言う訳ではない私達。
多少の不仲が生じても夜会でくらいは体面を保つだろうと、壮大なプロジェクトの中では微々たる問題ともされてなかったんだけど。
思いの外相性が良過ぎた。
さすがに初夜から一ヶ月じゃ、妊娠などの影響もないとは想定されていたが。
…要は、ルシウス様がやらかしたのだ。
初夜から一週間経っても夜の営みが収まらん。
それくらいの仲の良さは普通の夫婦なら大歓迎なんだろうけど…自己申告にもあった通り、初めてにして嵌まったので手加減てもんを知らない。
さらに言えば、オフショルダードレス・鎖骨。ついでに背中も。
痕を付けるな!と一応文句を付けるが、興奮状態の時には覚えてらんないよね。そりゃそうだ。
疲労でぐったりしてる私の入浴を介助してたサリー(実家からついてきた侍女)とナンシー(アイゼンバーグ家が付けた若奥様専任メイド)が惨状に気付き、メリッサ(キングオブメイド長)に報告し、セザール(参謀執事)に伝わった。
そこから指令を受け、ノア(ルシウス様の侍従兼乳母兄弟)がルシウス様へ、閨の教育的指導が入った。
以下、指導をしている執務室前の廊下を通ったサリーが聞いてしまった、ノアの口上。
「だから!がっつくなって最初に言ってあっただろ?!お前と若奥様じゃ体力が違うんだよ!労らなくてどうする!痕もつけまくるんじゃねぇ、あのドレスが着れなくなったら周りからめっちゃ苦情が来るだろうが!は?何?何をぶつぶつ呟いて…『可愛いが過ぎるのが悪い』?ーーっ!(何かを叩く音)アホか!俺の仕事内容にお前の惚気を聞く業務はねぇっ!……おい、目を潤ませて睨むのはやめろっつっただろ?またのし掛かられたらどうすんだ。おう、いつも助けが間に合うとはかぎらねえんだから自衛はしろよ?とにかくだな…」
ここからトーンダウンして聞こえなくなったらしい。
気になるワードがあったけど、そこで「今の所詳しく!」と乱入しなかったサリーは偉かったね、と頭を撫でておいた。
とにかく。
ノアの熱意ある指導のおかげでなんとかルシウス様はセーブできるようになってきた。
これで効果がなければ、セザール→メリッサ→最終指導:ご両親 となるらしい。
…最後は地獄か。
「ミュリエルさんもご一緒する?」とか誘われないよう、スケジュール管理はしっかりしよう。
そんなこんなで、晴れて夜会当日である。
ヘアメイクもアクセサリーもメイクも完成。
完璧!と皆が深く頷いたところで扉がノックされる。
「ミュー!うわぁ、すごく綺麗だ!!」
予想通りの天使な夫が乱入。
前髪をあげて耳にカフスをつけて、両家渾身の正装を身に纏って嬉しそうに近付いてくる。
…大丈夫?キラキラ度が負けてない??
「ルシウス様、玄関ホールで待ってる予定では?」
「待てなかった。」キッパリ。
「……そうですか」
「あとうろうろしてたら落ち着かなくて鬱陶しい、どこかに引っ掛けでもしたら大惨事だからいっそお迎えに行ってこいってノアが」
「…………そう」
触るな!絶対触るな!との周囲の圧を受け、両手を広げつつも抱きしめてはこない。
躾が行き届いてる。
「ドレスのデザインは関わってなかったし、口出しするなちゃんとプロが考えるからいい子に待っとけ!て言われて全然見せてもらえなかったんだけど。ミューの目の色から僕の色に変わってくのがいいね!染まってる途中って感じで」
「まぁその意図ですからね」
「刺繍とアクセサリーも金色がいっぱいだし、僕の色のミューだ」
大変嬉しそうなルシウス様。
いつもより男前な仕上がりなのに、いつもより表情が緩んでる。
「ルシウス様も黒い衣装に差し色がライトブルーですから。わたくしの色まんまですわね」
刺繍の糸だけ私の目の色で、模様は完全に同じ。
ふむ、こうして見ると…。
「わたくしのルシウス様、という気がして気分が良いですわ」
「……っ、ミュー!」
いっけね、テンション上げ過ぎちゃった。
感極まって抱きついて来ようとしたルシウス様を、どうにか最小限の乱しで止めようとセザールとノアが苦戦してるのを、メイドたちにかばわれた後ろから反省しながら見守った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
出掛けの騒動はお約束。
お義父様とお義母様が腕を組んで歩く後ろから、同じようにエスコートを受けて入場する。
……すっごい注目の的だなぁ。
超スピード政略結婚!てここ半年話題だったし。
そうでなくても、王宮で一二を争う美貌の役人がついに結婚した!てセンセーショナルな話題になったし。
チラ、と目線を向けるとすぐに気付き、ニコ、と微笑みを向けてくる。
それだけで周囲はざわざわだ。
なんでも、ルシウス様は天使な容貌のわりに愛想は良くないらしい。
受け答えはちゃんとするけど、笑顔は少ないんだとか。
…自衛?自衛か?
それを聞いたときは「誰のこと?私の夫、めっちゃ笑うんだけど?」とノアに素で答えてしまったが、この反応を見る限り本当のようだ。
そうか…それはなかなか…。
なんてつらつら考えてるとサクサク夜会は進行し、アイゼンバーグ家揃って王家にご挨拶の時間。
口上はお義父様にお任せして、貴族スマイルでルシウス様と並んでればいいだけだ。
…視線がうるさい。主に前方斜め右二人。
何気に左サイドも含みを持った視線向けてくるし。
「……?」
ルシウス様も何かは感じ取ったらしいが、ここで言及できることでもないので無視。
御前から下がる時には、よりにこやかに夫へ笑い掛けとく。
一気に嬉しそうにする旦那様。うむうむ、仲良しアピールは大事だもんね。
背後からの視線がよりうるさくなってるけど、ガン無視だから!
挨拶が終われば社交開始。
開幕スタートは実家の両親だ。
「ミュリエルはきちんとやれてますか?アイゼンバーグ家の皆さんにご迷惑を掛けてないか、それだけが心配で…」(父)
「ミュー、我儘ばかり言ってはいけませんよ?それとサリーの手綱はしっかり握りなさいね??」(母)
「……(手綱握らなきゃならん侍女を付けないでよ…)」
「心配無用ですよ伯爵、この通り愚息とも仲良くしてくれてます」(義父)
「ええ、本当に。仲良し過ぎて少し引き離しましたわ」(義母)
「母上っ!」
実家との攻防が終わった後に来たのは、ルシウス様のお姉様夫婦。
「ミュー、そろそろ生活は落ち着いたかしら?お茶でもいかがかしらと思って、招待したいの」
「はいお義姉様、よろこんで」
「なぜっ…、姉上が、ミューと呼ぶのです…!?」
「あなたより早くミューと仲良くなったからよ?」
うん、ルシウス様よりも前にね。
姉弟のわちゃわちゃの結果、お義姉様が我が家に来ることになりました。
お義母様も同席、男性は送り迎えのみ。
さらに後日同じ場所でルシウス様と私も二人でお茶をするらしい。…なんで?
その後は色んな人との交流だ。
「ルシウス!良かったなぁ美人で若い嫁さんをもらえて」
「よく見つけたよなぁ、完全にルシウスの好み、モガッ!」
ルシウス様、友人の口を塞ぐのはやめれ。
それお義父様から聞いたし。
「ルシウスもついに結婚かぁ、肩の荷が降りただろうな、ノア」
…そこで労られるのはノアなのか……どんだけ?
「ミュリエル様、おめでとうございます!お美しい意匠ですわね、それにこのグラデーション!グリフィス領(私の実家)の技術でしょう?ちょっとご相談したい案件がございますわ!」
祝いから流れるように商談を始めるなや、後輩。
「ミュー、おめでとう。まさかあなたが一番最初に人妻になるなんてね……そこの所詳しく?」
完全に尋問する目つきだよ、友人。
ルシウス様が「怖っ…」て呟いてんぞ。
互いの友人、親戚、ルシウス様の同僚や上司、各方面に夫婦アピールを続ける。
元々家同士の繋がりがないし、年齢も離れてるので被る交友関係が少ない。
結果初対面の人に引き合せることを繰り返し、二人ともかなり消耗した。
「……大体、終わった……?」
「たぶん……」
「……ちょっと休憩を……」
「同感です……」
グデっといつものソファに寝そべりたい欲求を堪え、空いてるスペースに置かれた椅子にお行儀良く座る。
「飲み物いる?」
「いいんですか?ルシウス様もお疲れでしょ?」
「パッと行ってサッと取ってくるよ」
額にかすかに触れるキスを落とし、ルシウス様は颯爽と飲み物を取りに行ってくれた。
気遣いの出来る旦那様、ありがたやー。
後ろ姿を拝みそうになってる時。
「あなたね?ルシウス様に無理矢理結婚を申し込んだ恥知らずは」
仁王立ちになった令嬢が立ちはだかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
恥知らずって…言葉が強い…。
疲れきって億劫になってるが、悟られてはいけない。
貴族スマイルで対応する。
「……どなた?」
「わたくしを知らないの?!イマレ侯爵家のハリエットよ!」
怒られた。
いや、察するにあなたも私を知らなかったでしょう?
年の頃は私より少し上、金髪に青い目のスタンダードな令嬢だ。
「初めまして、イマレ侯爵令嬢。ミュリエル・フォン・アイゼンバーグですわ」
自己紹介に「次期公爵夫人です」とは付けないことにした。
今日のお披露目見てたらわかるだろう。つかそのために話しかけて来たのだろうけど。
身分的に私の方が上ってわかってるかなー…わかってるけど無視してる感じだなー…(遠い目)。
「ご用はなんでしょうか?」
「わかってるでしょう?!あなたが恥知らずにもルシウス様と結婚なんかするから、抗議に来たのよ!」
抗議、とはこれまた堂々と仰る。
つい目を瞠ってしまった。
「抗議?」
「ルシウス様はどなたとも結婚の意思はなかったのよ!それなのにあなたが無理矢理結婚なんてさせて……ルシウス様に悪いと思わないの?!」
ヒートアップしてくるご令嬢。
そのうち地団駄を踏み出すのではなかろうか?
見たことないな。見たい。
煽ればなんとか……いや煽っちゃ駄目だ。
いかん、疲れのせいで思考が面白さを選択しようとしてる。
貴族スマイルをより深めにしとこう。
「わたくしの力ごときでは結婚を強制できませんわ。ルシウス様も合意の上です」
なんとか穏やかにすませたいんだけど、
「嘘よ!合意なんてするはずがないわ!」
聞いちゃいねえー。
あんまし叫ぶと夫が駆け付けるよ?
「嘘、とは。言い切れるほど貴女はルシウス様と親しいんですの?そもそもどういうご関係?」
「わたくしはっ……、学園時代に同じ学年に在籍してたわ!」
「それだけ?」
つい言ってしまう。他人かい。
つかルシウス様と同年代なのか。私よりも5個上とな?
その割にだいぶ幼い…としげしげ見つめてしまった。
ご令嬢の顔がカッと赤くなる。
「何よ!あなたは学園にいた頃のルシウス様を知らないんでしょう?!生徒会でご活躍なさって、それは華やかに過ごされてたんだから!わたくしはずっと見てたのよ!」
キィィィッ、と擬態語がつきそうに聞こえるご令嬢。
ずっと見てたって……大丈夫かな、ストーカー事案になってない?
若干引き気味になった私を見て、彼女は我が意を得たり!と思ったのか、ビシィッ!と指を差した。
「あなたのような地味な女、ルシウス様にふさわしくないわ!」
言い放った。
わぁ、夜会テンプレート来たー(棒読み)。
一ヶ月前に初夜のテンプレ聞いたのに、ペース早くね?
ため息ひとつ、次に気合。
もう疲れたし。終わりにしよう。
座っていた椅子から優雅に立ち上がり、ルシウス様にも向けた貴族スマイル・極みをイマレ侯爵令嬢に見せる。
「ふさわしくない、と仰いますけど。どこの視点から
判断してますの?」
「え?」
「地味な女、でしたか。わたくしが地味かどうか判断するのはあなたの主観ですわよね。ということはイマレ侯爵令嬢の、ひいては侯爵家の見解なんですの?」
「こ、侯爵家は関係ないわ!」
「でしたらあなた個人のご意見かしら。わたくし、これでも次期公爵夫人ですのよ。一介の侯爵令嬢に判断される筋合いはありませんわ」
「わ、わたくしだけではなくて、皆が言ってるのよ!ふさわしくないって!」
「皆、とはまた曖昧ですわね。どの辺りの皆ですの?あなたのお友達?ご親戚?」
「それ、は……」
「申し上げますと、わたくしたちは真っ当な政略結婚ですわ。アイゼンバーグ公爵家とグリフィス伯爵家の総意で整えられた縁談です。あなたの言う『皆』は、公爵家と伯爵家の判断に異を唱えると?」
「そうじゃないわ、そうじゃなくて……」
「そして仲介をしたのはあそこにおわします王家の方々です。あら?そこに異を唱えるとは、まさか謀反……?」
「そんな訳ないでしょう?!」
「では何をもってふさわしくない、と?」
「だからっ、あなたは地味だから……!」
「ふふ、では派手な容貌の方ならわたくしの代わりにルシウス様と結婚してもいい、となりますね。王家の仲介を元にアイゼンバーグ家とグリフィス家双方にもたらす恩恵の数々を、容貌ひとつで賄えるなんて、まあ……恐ろしいこと。傾国の美貌だわ」
「………っ」
ついに言葉が出なくなったらしい。
ここら辺でやめとくか。
極み解除、普通の貴族スマイルで締める。
「ねぇ、イマレ侯爵令嬢。わたくしたちは政略結婚ですが、例え恋愛結婚で結ばれた縁だとしても、関係のない方にあれこれ言われる筋合いはありませんわよ?身分の問題ではなく、無責任な第三者に口出しされてやめるような結婚はありません」
「……」
「もしそれでも文句をつけたいのであれば、わたくしたちに全面戦争をふっ掛ける意気込みでいらしてね?売られた喧嘩は三倍の値で買うのがわたくしの信条ですの」
これでまた何か言ってきたら、その時は根性を認めよう。テンプレは困るけど。
立ち上がったそのままに彼女の横を通り過ぎ、戻ってこない旦那様を探しにいく。
……お義姉様の旦那さんに羽交い締めにされて暴れてた。何してんの?
「ルシウス様、お義姉様?」
「あらミュー。格好良かったわよ」
お義姉様、満面の笑み。ご満足ですか、そうですか。
ご丁寧に口まで塞がれてるルシウス様、涙目になってんじゃん。
「お義兄様、離してあげてくださいな」
「いいのか?」
頷くとパッとルシウス様が解き放たれた。
「ミュー!」
タックルを受けて倒れそうになるも、そこは妙に体幹の良いルシウス様が私を抱え込んだまま体勢を維持する。
「ミューが絡まれてるから助けに行きたかったのに……!姉上が!」
「だっていい所だったんだもの」
「良くない!」
耳元で叫ばないでよルシウス様。
背中をポンポンしてやるとどうにか落ち着いてきた。
「イマレ侯爵家か。一応釘を指しておくか?」
「わたくしは別に。きちんとやり返しましたし」
「そうだな…きちんと……以上に……」
なんですかお義兄様、目が遠いですよ。
「女同士の戦いですもの、手出しは野暮よルシウス。旦那様も」
のほほん、と言うお義姉様にルシウス様がまたヒートアップしそうになる。
なので、少し背伸びをして耳元で囁いた。
「ルゥ。ダンスは踊らないの?」
「…………踊る」
気分が上向いたらしい。
ちょっと力を緩めて顔を離し、はにかむように笑った。
新婚夫婦の第一回ダンスだものね!
過密スケジュールの中合間を縫ってした練習(セザールとメリッサの監修付き)を無駄にできない!
踊ってくる、と告げると義姉夫婦は快く送り出してくれた。
◇◇◇◇◇◇◇
練習の甲斐もあり、私達の踊りは息ピッタリで進む。
ルゥが嬉しそうに笑ってリフトをする。
……あんまり飛ばさないでほしいんだけど。
「ルゥ、女同士の戦いに介入しようとするなんて、怖くなかったの?」
踊りながら気になったことを聞いてみる。
女性慣れしてないルシウス様は、出来れば近寄りたくない派なんだとノアが言ってたし。
だいぶ機嫌が治ったルシウス様だけど、さっきのことを思い出すと眉を顰めた。
「女同士の戦い、って言ったって片方がミューなんじゃそれどころじゃないよ。早く駆け付けなきゃってすごい焦ったのに、途中で姉上に捕まったし」
とても不本意だったらしい。
拗ねた様子が可愛くてクスクス笑うと、ルシウス様の顔が耳元に近付いた。
「……ミューは地味なんかじゃないよ絶対」
「……そう?」
「黒い髪もサラサラで可愛いし、ライトブルーの瞳もキラキラしてて可愛い」
「……もうちょっと語彙を増やそうか、ルゥ」
そこはノアに援助してもらってくれ。
少し考えた風で、再度囁いた。
「……ものすごく、僕の好みど真ん中だ」
言い切ってにっこり笑われた。
さすがに顔が赤くなるのがわかった。
その変化に満足してさらに笑顔が増す。
ルシウス様の中で最大限の口説きだな……!
曲が終わり、フロアを抜ける途中で負けじと囁くことにした。
「夜会、終わりましたね」
「そうだね」
「もうしばらくの間は開かれませんよね?」
「うん」
「……それなら」
「?」
「……当分ドレスは着ないので、思うままにしても、いいですよ……」
「……?………っ!っ?!」
よしよし、伝わったな。真っ赤になった。
ただでさえ注目を集めてるのに、何してんのかな!
自分のことながら呆れつつ、反応に満足して家族の元に戻った。
◇◇◇◇◇◇◇
一週間後。
セザール主催、成人後の閨教育的指導が開かれてた。
連帯責任でノアも強制参加らしい。
その報告を、引き離されたお義母様の部屋のソファでメリッサから聞き、もうちょっと落ち着くといいなぁ……と遠い目になるのだった。
◇◇◇◇◇◇◇
「時にノアって、初夜はルシウス様についてなかったの?」
「直前までついてましたよ?ルシウス様の執務室で、心構えとか説いてました。セザールさんとメリッサさんが迎えに来たので、そのまま執務室で待機してましたけど」
「待機?」
「緊張のあまり泣いて戻ってくるかなって」
「戻りはしなかったわね」
「様子見のためドアを少し開けといたら、あのセリフが聞こえてきましたからね。頽れましたよ」
「でしょうね」
「もし戻ってきたらたぶん殴ってました。若奥様、よくぞ受け入れてくださいました!」
「受け入れるというか粉砕したけどね。でもまぁ、私も後から思ったわけよ」
「何をです?」
「ルシウス様、よくあのセリフを噛まずに言えたなぁって」
「……」
「もし『君を愛しゅることはにゃい!』とかなってたら、堪らず吹き出したでしょうねー。ドツボにはまったかも。あ、想像したら脳内ルシウス様が羞恥のあまり泣きだしちゃった」
「…………そうですか(若奥様の懐の深さに感謝するべきなんだが、やはりルシウス様が不憫……)」




