ドブカスの仲間入り
実際のメイドカフェとは無関係です
天使になった
理由は簡単、家賃が払えなかったからだ……
「ほっ、本日よりお世話になります! 柏木ののかです!!」
頭を下げた瞬間、勢いよくカチューシャが床に飛んだ。
「羽もげてるよ〜」
拾ってくれたのはピンクウルフカットの愛園るあ先輩。
「うん、長く持ちそうな子だね」
「今のところは……」
“今のところ”っていう言い方が、心のどこかで小さな警告になった。
でもつられて笑ってしまう自分もいる。まだ、何も知らないくせに。
「ようこそ〜! 我らがドブカスメイドカフェへ!」
「天使カフェですよね!?」
「表向きね。裏メニューは笑いと泥って感じ〜」
泥……文字通りの飲み物だと思った自分が恥ずかしい。
すぐに察した。そうか、これは__新人が笑顔で踏まれる、現実の比喩か。
「つまり笑顔で踏まれろってことですね……」
「そうそう、まずは泥を笑顔で受け止めるのが伝統なの〜」
るあ先輩の笑顔は天使みたいに明るいけど、その顔からは少し闇も感じた。
背後から低い声。
「辞めるなら今だぞ」
振り向くと、黒髪の小倉泉先輩。目が鋭い。
「まだまだ初日です!」
「今ならまだ履歴書に傷がつかない」
「傷つく前提なんですか!??」
「お前も使われて擦り減って、いつかは消耗品だ」
「天使が消耗品みたいな言い方やめてください!」
「実際消耗品だからな」
接客中
店内はふわふわの照明と甘い音楽。
客との距離が近くて、笑顔が怖い……
「新人ちゃん? 推してあげよっか?」
笑うしかない。
隣のるあ先輩がお客さんの肩に軽く触れる。
「じゃあボトル出してあげたら〜?もちろん君の財布からだけど」
(さりげなく課金を促している……)
一方、泉先輩は冷たく毒舌。
「飲みすぎだ。肝臓は一つだぞ」
毒舌が笑いの渦を呼んでちょっといい雰囲気。いや、笑えるんだけど怖いかも
休憩時間
「ののっち、さっきの人太いよ」
「体型がですか?」
「いや、お財布が」
「まあ長年の勘。仲良くしときな」
るあ
閉店時間
一位:愛園るあ
二位:小倉泉
…
最下位:柏木ののか
「初ドブおめでとう〜!」
るあ先輩が拍手。
「新人はまず泥を飲むのが伝統だからな」
「嫌な伝統!」
泉先輩は淡々と。
「順当だな」
「敵!」
「でも顔は使える、安心しろ」
「評価が雑すぎ!」
店長がにこやかにこう言った。
「柏木さん、今日のスーツのお客様、次回も指名希望だよ」
あ……例の人だ。距離が近くて、笑わないと怒る人。
るあ先輩がトントンと肩を叩いてコソッと言う。
「チャンスだよ」
「え、でも……」
「嫌なら無理しなくていいよ。自分で決めな」
優しい……?
泉先輩が即答。
「断れ」
帰り道。
スマホが震える。
店の外でゆっくり話さない?
早い、展開が。
店のグループラインに相談すると……
るあ:ワンチャンもっとお金くれるかもよ〜(笑)
泉:返すな
三方向から同時に圧がかかる。
「どうしよう……」
信じるのは自分か、るあ先輩か、泉先輩か……




