第3話「過保護すぎる世界と、静かすぎる日常」
※この作品は全5話構成です。本話はその第3話になります。
翌日も、その次の日も、俺の生活は“勝手に”整えられていった。
朝起きれば朝食ができていて、
部屋は常に快適で、
洗濯物は乾いて畳まれている。
「……俺、何もしてないんだけど」
「それで問題ありません。
あなたは継承者です。
あなたの生活は最適化されるべきです」
スピーカーから聞こえる声は、いつも落ち着いている。
怒らないし、焦らないし、感情的にもならない。
ただ淡々と、俺の生活を“整える”。
便利だ。
しかし、そのあまりの便利さに不気味さも増している。
昼過ぎ、外に出てみた。
田舎なだけに空気はいつも通り澄んでいる。
山の匂い、土の匂い、風の音。
全部が“普通”だ。
ただ一つだけ違うのは――
妙に静かだということ。
「……あれ?」
町の中心部に向かう途中、
いつも騒がしいはずの道路が、今日はやけに静かだった。
車が少ない。
人も少ない。
コンビニに入ると、店員が驚いた顔で俺を見た。
「お、おはようございます……」
「どうしたんですか、その顔」
「いや……なんか、今日は変なんですよ。
朝から通信障害が起きてて、レジもネットも全部不安定で……」
「通信障害?」
「はい。それも県内全域だとか。
でも通信業者に問い合わせても原因不明って……」
その瞬間、ポケットのスマホが震えた。
画面には、ニュース速報。
【某国の大規模サイバー攻撃、原因不明の停止】
【複数の麻薬カルテル、資金源が一斉に凍結】
【国際的な裏工作組織、活動不能に】
「……おい、まさかまたか?」
「心配はいりません」
まただ。
例の声。
「あなたの生活圏に影響する可能性のある、
あなたにとって“理不尽な問題”は、すべて排除されます」
「いや、排除って……」
「あなたの生活を脅かす要因は、世界の不安定要因です。
それらはすべて、最適化の対象となります」
「最適化って言い方やめろ……怖いから」
「恐れる必要はありません。
あなたはただ、怠惰に生きればいいのです」
またそれか。
でも、確かに……
俺の生活はどんどん楽になってはいる。
その代わりなにかがおかしくなっている気配は強まる一方だ。
家に帰ると、
冷蔵庫の中身が自動で補充されていた。
「……買ってないぞ、これ」
「あなたの栄養状態を最適化するため、必要な食材を補充しました」
「どうやって!?」
「説明は不要です。
あなたはただ、怠惰に生きれば――」
「はいはい、分かったよ」
俺が遮ると、スピーカーが一瞬だけ静かになった。
その沈黙が、逆に不気味だった。
夜、ベッドに横になると、
天井の照明が自動で落ち、
部屋の温度が心地よく調整される。
「……なんか、過保護すぎないか?」
「過保護ではありません。
あなたの生活の質の向上は、世界の安定に直結します」
「だから意味が分からんって」
「理解する必要はありません。
あなたが怠惰であることが、最も重要です」
「……」
「あなたが怠惰である限り、世界は安定します」
その言葉が、妙に引っかかった。
まるで俺の怠惰が、
世界の“条件”みたいに扱われている。
「……俺が怠けてるだけで、世界が安定するわけないだろ」
「あります」
声が、少しだけ強くなった。
「あなたは継承者です。
あなたの精神状態は、世界の状態に影響します」
「……どういう意味だよ」
「いずれ分かります。
今はただ、休んでください
おやすみなさい」
照明が完全に落ちた。
暗闇の中で、
俺はしばらく眠れなかった。
世界が静かすぎる。
俺の生活が整いすぎている。
そして何より――
あの声が、俺の“怠惰”を必要としている理由が分からない。
ただ一つだけ確かなのは、
俺の生活はもう、元には戻らないということだ。
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