最終報告書「相棒」
リソーサー・ノウマ=バサルトから脱出してまた幾日かが経った。結局あれから、ササヤさん(仮)をメッセンジャーに、神経連鎖システムの普及版を製作する事で話はまとまったが、あのゲーミング天使、ド派手なライトアップのままここへ来るんだぜ。全く、量子テレポートするクリスマスツリーかよ。
逆に言えば、それ以外は何も変わってない。未だにリソーサーは人間社会を脅かし、そんなリソーサーを俺達は狩り、得た資源が文明を回している……
「全く、この請求書の山を見てよ。念願だった排水ライン全取っ替えしたらこのざまよ」
「お犬様OSが売れ行き好調なんだから、それくらい安いもんだろ」
「何が安いもんよ!ヨロイと武器の新調もするとなると、まだまだ足りないわ!」
事務室でディスクの箱詰めをしていると、相変わらず御機嫌斜めなチトセのボヤキが。敏腕社長よろしく、普及版お犬様OSこと“Oinu-Sama puppy”の販売ルートを次から次へと見つけてくるのは良いが、箱詰が間に合いやしない。
「あっ、それ終わったら今日は上がりで良いわよ」
「本当か!それじゃ、気分転換に散歩でも……」
<<散歩!?散歩って言ったワン!さっさと行くワン!>>
尻尾を物凄い勢いで振りながらカッ飛んでくるバーゲスト。ついさっきまで、ソファーの上でだらしなくへそ天で寝ながら鼻ちょうちん膨らましてたくせに、なんとも地獄耳な犬だぜ。
「外出るなら、ついでにクズ酒と鯉皮揚げ買ってきてね。あと水素製造機の出来高見て、溜まってたら交換よろしく」
「くそっ、はめたな?まあいい、分かったよ……」
<<水素製造機の出来高96%!イワミはカートリッジ回収の必要ありだワン!>>
「へいへい。全く、便利になりやがったなお前は」
部屋を出る時、チトセが言った言葉は確かに俺の耳に届いた。
「気張りなさいよ、我が社の守護霊犬のリードはあんたの手の内にあるんだから」
バーゲストを連れてガレージに降りて行くと、イクノさんが何やらぶつぶつ言いながら作業台に向かっているところだった。きっと神経連鎖システムの開発……
「うむむ。義手の掌を介して、相手から情報を吸い取る機構は手持ち武器と干渉するのう……いっその事、イワミにはステゴロで戦うよう薦めてみるかのう……」
やばそうな雰囲気だ……ここは何も見てない、何も聞いてないで通り過ぎよう。
<<ワンワン!中々面白そうだワン!キ影は右手一本で振れば解決ワン!>>
「簡単に言うなっての。今まで培ってきた流派を今更そう簡単に変えられるか」
<<剣術ソフトを入れ替えれば良いワン!>>
「生憎、俺の脳はまだ生身なんでね」
MM社社屋を出て街の中心に向かう。道中のしめ縄が巻かれ傍に小さな祠がある、街で一番大きく古いと言われる水素製造機から流れ出る水でバーゲストと共に手と口をゆすぐ。すっきりした所でいつの間にやら誰が置いたのかも分からぬ、鎮座する小さな犬の石像に小銭を供えた。
さらに歩き、路地裏から続く小道の先にある鳥居を潜り、長い石段を登る。たどり着いた小高い丘の上は、街が一望できる隠れた名所だ。そこから見下ろす街は、レヴィアタンに幾つかの高層ビルが壊されたが、既に復興は進んでいるようだった。陽が傾き、街中に張り巡らされた透過型太陽光パネルが夕日を反射すると、まるで水面のように煌めきだした。近くの石に腰掛け、それをじっくりと眺める。
<<この時間帯を狙ってきたワンね?バカイワミにしては中々やるワン>>
「へっ。ソファーでひっくり返って寝てるだけのバカ犬とは違うってわけよ」
<<それにしてもキレイだワン。街は人と機械が共にあって出来上がっているワン>>
「そうだな……」
<<それと蔓延る骨コードもだワン>>
「そう……何だと!?」
慌ててバーゲストの方に振り返る。するとこいつめ、寝てやがる。全く、俺まで眠たくなって……
<<イワミ!今どこほっつき歩いてるのよ!緊急依頼よ!30秒で戻ってきなさい!>>
「のわ!って、マジかよ!とにかくすぐ戻る!」
突然のチトセのバカでかい声に現実に引き戻される。とにかく、やらなきゃな。これまでしてきた、そしてこれからもするであろう生業を……
<<ワフッ!?01の骨はどこだワン!?……夢かワン>>
この相棒と一緒にな。




