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報告書81「真実」

 巨大なリソーサー・ノウマ=バサルトの中にあったのは、人工物の自然界とも形容できる不可思議な庭園だったが、さらに驚くのはその中央、一際大きな機械の大樹の中で、大きな青い結晶体を抱き鎮座するかつての仲間、ササヤさんだった。


「長い事待たせちゃったわね、ササヤさん」


「中枢に突入後、行方不明と聞いたが立派に任務をやり遂げたんだな」


「脈も呼吸も無いが、微量ながら生体電気と熱を探知。亡くなってはいないようじゃが……」


<<眠れる森の、野獣に抱かれたお姫様ワン!>>


 ササヤさんが大事そうに抱える、コードが浮かんでは消え、微かに脈動している青い結晶体こそが、俺たちが中枢と呼んでいる物の正体って訳か。こいつを破壊すれば、リソーサー災害に終止符が打たれる……て単純な話では無さそうだけど。


「ソース……あなた方が中枢と呼ぶ存在を破壊すれば、残るのは中央を失った機械生物の暴走でしょう」


「のあっ!心を読むなよ!」


「読んだのではありません。あなたの思考が単純だっただけです」


 くっ……!言い返せねぇ……


「あなたがどうしてササヤさんとそっくりなのか……何となく察しがついて来たけど、ササヤさんがどうしてこうなったのかと、今の状態を教えてくれない?」


<<……それは私からお話しするわ>>


「!!ササヤさん!?」


「やはり生きておったのか!?」


 耳元に入る通信音は機械音混じりのササヤさん(仮)の声では無く、この温かみのある優しい声は、確かに昔懐かしいササヤさんのものだった。


<<今の私は生きているとも、死んでいるともどちらとも言えません。強いて言えば、生物としては死に、機械としては生きている……そんな状態です>>


「意味が分からない……と言いたいところだけど、現状を見るに、どうやらピッタリな説明のようね……」


「それでササヤさん、一体どうしてこんな事に……」


<<あの日、私が所属する特別チームは溢れかえる機械生物、リソーサーの群れを突破して、このノウマ=バサルトを発見したわ。最後に残ったのは私を含め変異人種と呼ばれる4人だけ……そしてここで、ソース、中枢に説得を試みたの>>


「確かにササヤさんは、リソーサーであろうとコードを自由に読み取り書き換える事ができて会話が可能とは言え、まず説得を試みるとはササヤさんらしいな」


「それで?現状を見るに、説得に応じたって風には見えないけど」


<<ええ……結論から言うと、人間を攻撃するなという説得は失敗したわ。何故なら、機械生物発生の真実について、私達は何も知らなかったのだから>>


「真実……じゃと?」


<<ソースは元々、政府が資源の自給自足を目指して官民共同で極秘裏に開発した、全自動資源収集機構だったって事よ。そして与えられた指令は一つ、“あらゆる状況下に対応して、効率良く資源を収集せよ”>>


「まさかそんな……」


「リソーサーは人間が、それも政府が国家プロジェクトで作った!?」


「あり、あり……あり得んと思ったが、しっくり来過ぎて、否定できんのじゃ」


「でもそれが何で人を襲うんだよ!?暴走したってのか!?」


<<暴走なんかでは無い……あらゆる障害を跳ね除け、効率良く資源を収集する……ただそれを実行しているだけよ。人間の想定を越えてね>>


「世界が、社会が壊れたのはリソーサーのせい……ずっとそう思ってたけど、人間が自分で壊したんじゃ、世話無いわね」


「AIへのプロンプト、指示は短く簡潔に……中枢の開発チームはさぞ優秀じゃったのだろうな……想像力はやや足りなかったようじゃが……」


 チトセは吐き捨てるように、イクノさんは嘆息するようにそれぞれ言葉を紡ぐ。俺はと言えば、明かされる真実の連続に、ただただ茫然とするだけだった。


<<こんな話を聞いて、それを責任回避のためにひた隠しにする政府の命令を受けてソースの破壊なんてできない……ましてやソースを破壊したところで、機械生物は止まらないのならなおさら。そこで私は考えたの>>


「考えた……?」


 一際輝きを放つ青い結晶体。浮かび上がるコードはまるで血流のように流れ、微細な動きはまるで脈動のように感じられた。


<<ソースに倫理を学習させる。そのために私が融合し、外部情報との接続ポートになるって>>


「融合って、そんな事が……」


「できているようじゃのう……脳内の電気信号を全てデジタルに置き換え、生体維持に必要な栄養は機械的に供給される……いや、むしろ体組織はナノマシンに置き換わっているようじゃな。ノーハンドでコードを変換できるササヤさんなら、難しい事ではあるまい……」


「代弁者を名乗るこの機械天使は、差し詰めササヤさんのコピーってわけね。ちょっと機械的だけど」


「お褒めに預かり光栄です」


「褒めてないわよ。それで学習のための接続ポートになったって、どこから教材を持ってきたの?人間倫理の教科書なんて、ありそうで無さそうだけど」


<<ここへ私と共に来た3人も、私と同じ変異人種でした。そして私の考えに共鳴してくれた。あの人達は進んで人と機械生物の相互理解の為の架け橋になってくれたのです。憑依型変異個体の依代になる事で>>


「え……憑依型変異個体ってまさか……」


<<ヘルハウンド、ティンダロスそしてオルトロス……あの子らは、人由来の神経融合プログラムを持った特別な機械生物です。その使命は、倫理の獲得のための人との相互理解……>>


<<ワフッ!?そうだったのかワン!?>>


 話の最中、さっきまであちこちドッグランしていたバーゲストが驚いた顔でこちらに振り向く。いや知らなかったのかよ。てか、あんだけブーブー文句垂れてた癖に、なんで遊びまわってんだよ。


「待てよ……バーゲストは違うのか?」


 突然、通信機から聞こえる声の雰囲気が変わった。先程までの温かい人間味ある声色から、冷たい機械的な口調へと。


<<バーゲストは元々、オルトロスから分化した存在。基となった変異人種の能力は強すぎため、オルトロス単独で扱うには“余計な”機能を取り除く必要に迫られた。そして生まれたのがORT-01X“バーゲスト”だ。廃棄予定の存在が唯一、人間との相互理解を成し遂げるとは想定外>>


「頭来たワン。これでも食らえワン!」


「あっ、こらやめろ!」


 中枢の大樹に向けて、片足を上げオシッコを始めるバーゲストを必死に止める。こりゃあ何となくだが、雲行きが怪しくなってきたな。

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