報告書80「リソーサー・ノウマ=バサルト」
かつてブレードステーション作戦の名の下に、ササヤさん含む精鋭が突入し、多くの犠牲を出したという中枢。リソーサーを生み出す大元とも言える存在が、俺達を御招待とは、一体何を企んでいるのか。確かめる方法は一つ、先へ進む事だな。
「深淵の奥には何があるのやら。イワミ、先に降下して。私はイクノと後から行くわ」
「すまんのう。有線接続した中継機も一緒に下ろすから、通信に問題は無いはずじゃ」
「りょーかい。それじゃ、リソーサーがどこから来てどこへ行くのか、見届けに行こうじゃないか」
<<中枢……あんまりいい思い出は無いけど……行ってやるワン!>>
深淵に向かってダイブ!……なんてゲームみたいな事はできないので、ワイヤーを繋いでの降下を行う。大分降りて来たが、それでも光も届かず音も反響しないあたり、まだまだ先があるようだ。本当にこの先に中枢があるのか?てか、中枢ってそもそも何なんだ……?
<<来たワン!>>
「え?来たって何が……って、この揺れは何だ!?」
何か察知したか、ハーネスで背中にくっ付くバーゲストが唸るのと同時に辺りを強い振動が襲った。
「壁に張り付いて身体を固定するのよ!」
「熱感知に反応じゃ!こ、これは何か巨大な物が近づいて来てるのかのう……!?」
「ありゃなんだ!?」
下からぐんぐん迫って来る影が一つ。あれは……デカ口を開けた巨大な亀のリソーサーか!?だがよく見るとただの亀じゃない。レヴィアタン並みにデカく、その巨大な甲羅のような構造物にはこれまた巨大なケーブルか若しくは神経網を思わされる、それこそ蛇のような構造物が絡み付いているのだ。
「まさに玄武のようじゃな……こんな巨大なリソーサーが地中におったとは……」
「てっ、関心してる場合じゃないわよイクノ!急速巻き上げ、食われるわ!」
「ダメだ!間に合わない……!」
迫り来る口に丸ごと食われる……それが気を失う前の最後の記憶だった。次に目を覚ました時は、天井からはケーブルが垂れ下がり、壁には無数のパイプが這い回る部屋にいたのだから。
<<ワンワン!起きろワン!>>
「うーん……はっ!?ここはどこだ?まさかあの化け亀の胃袋の中か?」
「かもね。あんの偽物、罠だったりしたら承知しないわよ」
「どうやら、違うようじゃ……」
抑え気味ながら七色に光る翼を羽ばたかせながら、天井から出て来たのは、これで何度目かササヤさん(仮)だった。
「ようこそお越しくださいました。今回は驚かせないよう登場方法を変えてみましたが、いかがでしたでしょう?」
「折角のお計らい、感謝痛み入るぜ。もっと早くそうしてほしかったくらいだ」
「てことは、ここが中枢ってわけね。まさか中枢がデカい玄武型リソーサーだったなんて驚きね」
「いえ、正確にはこの個体はノウマ=バサルト。あなた方が中枢と呼ぶ存在はこの先におわします」
「リソーサー・ノウマ=バサルト……?変わった名前じゃのう……?何にせよ、今まで中枢が見つからなかったのはこれで合点がいくと言うものじゃ。まさか地中奥深くを移動しておったとはのう……」
「蛇が巻き付いたバカデカい亀が、都市の真下を這い回っていたとはねぇ……」
「こちらへどうぞ。御案内します」
低空を飛んで移動するササヤさん(仮)の後について行くと、通路上のいくつもの厳重に閉じられたゲートが開いた先にある、巨大な空間に辿り着いた。
そこは一見してまるで樹海のように思えたが、よく見ると全く違う事に気がついた。地面と思えたのは幾重にも重なる残骸……リソーサーに端末、自衛軍の装備や兵器などで、その残骸の間を根のようなものが伸びていのだ。そして所々にそびえ立つ、木のように見えたものは……
「木じゃないわ……中で新たなリソーサーが作られてる……レヴィアタンのように、ここもリソーサーの生成工場って訳ね」
「残骸の間に這っているのは、根じゃなくて光ファイバーじゃな……よく見るとこのファイバー、残骸に繋がってる辺り、情報という名の養分を抜き出しているんじゃな……」
<<そして情報が抜き取られた残骸は徐々に分解され、新たな構造体に変換されるワン。人工物の自然界……いつ見ても何とも歪な空間だワン>>
「ORT-01X“バーゲスト”、ここはあなたが脱走した時よりも、技術的にも構造的にも大きく進歩しており……」
<<うるさいワン!オル兄ぃの機能を純化させるためと言って、双頭の片割れだった01を分離して処分しようとしておいて、何が進歩だワン!>>
「お前、そんな過去が……」
オルトロスが自分を犠牲にしてまでバーゲストを逃したのは、そのためだったのか……そしてそこまでしたのは、恐らくオルトロスは演算したんだ……未来を。
「落ち着けバーゲスト。ここをどうするか、俺たちがどうなるか……とにかくまずは話を聞こうじゃないか。中枢……ソースとやらの」
<<分かってるワン……!>>
鼻息荒いバーゲストを一瞥し、ササヤさんが仰々しくフワリと浮いた。
「……こちらへどうぞ」
足元で微かに脈打つパイプ、体に触れると葉のように揺れる情報体、残骸が分解されていく音、風のように流れる温風……不自然な自然をかき分け、先導するササヤさん(仮)について行くと、一本の大きな御神木がそびえ立っていた……いや、違う。地面から生えた何本ものケーブルや光ファイバーが複雑に巻き付き、まるで大樹のような形をなし、その周囲をしめ縄のように情報が輪のようにゆっくりと回転しているのだ。
その幹の内側に、青く光る結晶体とそれを抱き抱えるように眠る、一人の人間……見知った顔の女性を見て、全員息を呑んだ。
それはかつて俺たちの仲間であり、今はリソーサーの声そのものとなった存在……ササヤさん本人そのものだった。




