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報告書7「六本木駅ダンジョン」

 クソ犬のせいで様変わりしてしまった機動鎧甲を仕方なく装着するが、こんなシタマチを荒らし回ったジェボーダン丸出しの意匠で出歩くなんて、石や卵でも投げつけられたりしないだろうな。


<<ワンワン!だから01はシタマチのウェイスターはただの1人も殺してないワン!持ってたテックに宿る骨コードを集めていただけワン!それに01の固有識別名はジェボーダンなんて名前では無いワン!''バーゲスト"だワン!>>


「だからその"テック"ってのは情報端末デバイスやらの機械の事だろうが!充分はた迷惑……バーゲスト?それがお前の名前なのか?」


<<“ORT-01Xバーゲスト”だワン!>>


 バーゲスト……確か死の予兆である霊犬だったか。全く不吉な名前だ。大体Xって何だよ、試作品か何かか?もうこんなメタな事ばかり言うメタルな犬は、メタ犬の方がぴったりだろ。いつか滅多切りにしてやる。あ〜あ、こんなのが憑いてる機動鎧甲を身に付けて大丈夫なのか?不安しかない。


「その機動鎧甲の調整はこちらでしておいたんじゃが、実戦は初めてじゃからな。何か不具合等あったらすぐに言うんじゃぞ」


「はい……」


 俺の身体を乗っ取ろうと企んでるに違いないクソ犬の思いどおりに全てが進んでいるようで全く気が進まないが、代えの機動鎧甲を請求したところでケチなチトセに却下されるのは目に見えてるからな、致し方あるまい……せいぜい後でお札でも貼っておくか。


「それじゃ準備いいわね!しゅぱーつ!」


「了解じゃ」


「お〜……」


<<ワンワン!お外だワン!>>


 気乗りしない俺とは逆に尻尾全開ノリノリなメタ犬。こいつめ、散歩か何かと勘違いしてやがるな。


 それからコーギー号に揺られること十数分、かつて大都会であっただろう、高層ビルの廃墟に囲まれた六本木駅ダンジョンに到着した。隔離区域の中心、辛うじて3番と読める壊れた看板が垂れ下がる駅ダンジョンの入り口は、周りに比べて随分と小ぢんまりとしたものだった。


「ここが入り口か?下に降りる階段があるだけじゃないか。こりゃ中も相当狭いな」


「あんたね、トーキョー地区のメトロ駅ダンジョンは迷宮と呼ばれている事を知らないようね。中はそれこそ網の目のように鉄道トンネルやら地図に無い補助トンネルやらが走っていて、迷路になっているのよ」


「……もし迷ったら?」


「さぁね、リソーサーの餌食か、そのお仲間入りじゃないかしら?いいからアタッカーなんだからさっさと前を歩く!」


「ちょっ、ちょっと待ってくれ。実は俺、低所恐怖症で……」


「バカなこと言ってないの!これが終われば夏休み取らせてあげるから気張って行きなさい!」


 チトセに半ば強引に背中を押され、仕方なく階段を降りて行く。壁面が随分と崩れているが、こりゃ天井が崩落でもしようものなら一巻の終わりじゃないか。


 そして階段を降りて降りてひたすら降りて、ようやく到着した。もはや地上の光なんて一切届かない、スキャナーの暗視機能だけが頼りの闇の世界に。


「ここが最下層か。お目当てのリソーサー・ノブスマなんてのはここら辺に出るのか?毎度の事だが探すのも一苦労だなこりゃ」


<<そこはまだ……中層……ガ……ガ……聞こえておるか……ガガピー……>>


「もしもしイクノ?……ダメね。この深さで地上と通信不能だなんて、どうやらリソーサーが何か悪さをしているようね」


「マジか。イクノさんのバックアップが受けられないとなると、こりゃキツいぜ」


「そうね、一旦戻って……と言いたいところだけど、納期も迫っているし、このまま行くしかないわ。前後左右に足下よく見て進みましょう」


「りょーかい……」


<<この匂いは……上だワン!>>


 メタ犬の吠え声で上を見ると、何かが翼を広げてまさにこちらに襲い掛からんとするところであった。咄嗟にキ影を一閃、それ以上の接近を防いだが、そこにいたのは一匹ではなく、音もなく空を飛ぶもの、天井を這うものと、リソーサー数体にいつの間にか囲まれてしまっていた。


「ここの住人はサプライズがお好きなようだな!」


「出たわね、リソーサー・バット。どうやら通常種ばかりのようだけど、大人しく通してはくれないようね……ここは明るく行きましょうか?」


「ピカっと眩しいのを頼むぜ」


 スキャナーの視覚と聴覚機能を切断、ほんの数秒の暗闇の間にチトセの投げた閃光手榴弾が炸裂、リソーサー・バットがボトボト落ちてくる音が聞こえたら、後はこっちのもの。視覚機能を再起動、チトセと2人で片っ端から斬って突いて撃って踏んづけた。


「ふぅ、これで最後か。道中ずっとこいつらの奇襲に怯えなきゃいけないとなると、楽じゃないな」


「仕方ないわ。地下鉄系駅ダンジョンにリソーサー・バットはつきものよ。それにしてもさっきは無音の奇襲によく気がついたわね。次もあんな感じで前後左右に足元、それから上も警戒でお願いね」


「あっあぁ、任せ……」


<<任せるワン!こんだけ沢山の骨コードを貰ったんだワン、恩返しにチトセご主人は01が守るワン!>>


 何やらモグモグ食べながら吠えるメタ犬。チトセご主人だぁ?こいつめ、調子のいい奴だぜ。とは言え、さっきの奇襲に対応できたのもメタ犬のお陰だからな。それにしても、リソーサー同士で争うことなんてこいつは平気なのか?


<<01ら機械生物は群にして個、それぞれの存在目的に適えば協力し、相反すれば排除する。それだけだワン!>>


「何だ、随分と冷たいんだなリソーサーってのは」


<<他者を利用し浪費するだけのウェイスターに言われたくないワン!この身体がやられたら01も存続できなくなるから、仕方なく助けてるんだワン!ワンワンワン!>>


「分かった!分かったからそう吠えまくるな」


 リソーサーというのは、生物と機械が融合した不気味な怪物で、人間社会とは相容れない、相互理解なんて決してできない存在……それが常識だ。それがある日突然、その常識に挑戦してくる存在が現れるなんてな。しかも大分やかましいと来た……

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