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報告書78「一犬落着」

 チトセの放った多目的ランチャー“クニクズシ”の弾頭が命中、さしものリソーサー・ケートスも体内での大爆発には耐えられなかったと見え、今やその巨体を横たえ、虫の息という状態になった。


「手こずらせてくれたわね……トドメを刺して、さっさとレビィアタンにプログラムを流しましょう」


「そうだな……」


 落としてしまっていたキ影を拾い、リソーサー・ケートスの頭に向けて振りかぶ……ったところで強烈な閃光!?この輝きは身に覚えがあるぞ!


「ちょっ、何なのよ!?」


「目がっ、目が眩むのじゃ!」


<<あっ、あいつが来たワン!>>


 突然現れ、ネーベル区画の霧がかる静かな夜の海を思わせる雰囲気をぶち壊す、七色に輝くド派手に光るゲーミング翼を羽ばたかせるこの傍迷惑な存在は間違いない……!


「ササヤさん(仮)……!久しぶりじゃないか!相変わらずの神々しさで直視できないから、すこし光量を下げてくれないか……!?」


「失礼。ですが、全ノード起動状態の解除は、あなた方MM社の面々の返答次第となります」


「返答次第……?」


 リソーサー・ケートスの前に降り立つ、機械天使ことササヤさん(仮)。その姿を腕で目元を覆いながら見るが、光り輝く翼と手には剣と、どうやら臨戦体制の構えのようだ。


「要望は一つです。このまま何もせず、引き返してください」


「久しぶりねササヤさん、随分探したのよ……と言いたいところだけど、その冷たい物言い、人違いかしら?」


「ササヤさん、わしらの故郷、エキチカシティの命運が掛かっているのじゃ!このまま引き返すなど……」


「レビィアタンは重要な個体群の一体です。その分身体であるケートスを倒せば、レビィアタンにも被害が及びます」


「オーケー、分かった。ケートスの資源は頂けないが、それは良い……ただ俺たちは、レビィアタンに“首輪”をはめてここから立ち退きしてもらわなければならない。このままでは、エキチカシティの情報が食い尽くされて、ゴーストタウンになっちまう」


 首輪という単語を聞いた瞬間、ササヤさん(仮)の片目がピクリと動く。“気に入らない”という内心が、外まで滲み出してくるのを感じる。


「レビィアタンは再編派により“首輪”をはめられてしまい、長らく行方不明になっていました……それをようやく見つけたのです。今また“首輪”をはめるなんて、到底容認できるものではありません」


「しかしそれでは、エキチカシティの情報が完全に干上がってしまうのじゃ!」


 今度は眉一つ動かさず、ササヤさん(仮)冷徹に言い放つ。


「そうですか。それでは他の都市への移住を薦めます」


「やっぱりササヤさん……の偽物かしら?随分と上から目線の傲慢な物言いじゃない?その無駄に派手な翼は飾りじゃないようね」


 両足を肩幅に開き、両腰のホルスターに納められたブラスターに手を掛けるチトセ。対するササヤさん(仮)も、広げた翼を中心とした周囲の空間が歪み始めた。


「私達は、この化け鯨を街から退かしたい……手段を選ばずね」


「レビィアタンを堕とせば、中枢は人間を明確な“敵”と定義するでしょう」


 まさに一触即発。リソーサーと人間はお互いの存在を脅かす利益相反の関係、やはり支配するか滅するかしか選択肢は無いのか!?


<<あー、はいはいワン。ケンカは犬も食わないからやめるワン>>


「この声は……!?」


「バーゲスト!?おま、姿が……!?」


 声の方を見ると、いつもはノイズの走るデータ犬でしか無かったバーゲストが、朧げながら周囲に漂うモヤが輪郭を型取り、ミニ柴サイズの赤目の黒犬として、確かにそこに実在していたのだ!


「こ、これは、このネーベル区画を満たす“情報の海”が、情報を実体化しているのじゃな!?しかしこの犬は一体……?」


「あー……何と言うかそのぉ……我が社の守護霊犬です……多分……」


<<ワンワン!サインは肉球でいいかワン?>>


 後ろ足で立ち上がり、前脚を上げておどけてみせるバーゲスト。こいつに緊張感って言葉は無いのか?


「下がりなさいORT-01X“バーゲスト”。ここはあなたの出る幕ではありません」


<<いいや、ここは犬が幕間に鼻を突っ込む場面だワン。オル兄ぃから貰った骨コードの欠片で分かったワン。01達、憑依型変異個体が造られた理由……それは、リソーサーと人間の相互理解を促進するためだワン>>


「えっ!?そうだったのか!?……その割には、そうとも思えん行動ばかりのバカ犬揃いだったが……」


<<うるさいワン!みんなそれぞれ個性があるんだワン!話の腰を折るなワン!>>


 全くっ……という感じで吠える、人間臭いったらありゃしないバーゲストに、チトセもイクノさんも呆気に取られ、立ち尽くしている。そりゃそうだ。何たって犬が喋ってるんだぜ?


「それで、一体何が言いたいのですか?ORT-01X“バーゲスト”」


<<つまり、中枢……あのいけ好かない中枢は、人間との相互理解を模索していたって事だワン。01が今ここにいるのがその証拠だワン!>>


 中枢って、あのリソーサーを生み出しているという、言わばリソーサーの親玉……人間の存在を脅かす中枢が、人間との相互理解を望んでるだと……?


<<そんな人間と全面戦争なんておっ始めるのは、本当に中枢の意思なのかワン〜中枢の“代弁者”……いや、“自称・代弁者”さんかワン〜?>>


「……一理あります。しかし、それでもレビィアタンを失う事を容認は……」


<<失わなくてもいいワン!このバカでかい図体した鯨を連れて、帰れと言ってるんだワン!こんなのに空を覆わられたら、蜀犬も日に吠えられないワン!>>


「……分かりました。レビィアタンを連れて退去します。それでよろしいですか?」


 バーゲストがクイっと首を曲げ、チトセとイクノさんの方を見る。


「えっ、えぇ……それで構わないわ。あなたは鯨を連れて退去する。私達は追わない」


「うっ、うむ……吸われた情報は既に消化吸収され戻らない以上、それが最良じゃて……」


<<これで一件落着……いや、一犬落着ワン!>>


「おっ、おう……!」


 一匹のバカ犬が、世界を救いやがった……!


 と思いきや、物凄い勢いで体当たりをしてきて、突然の事に思わず倒れる俺の顔を舐め回すバーゲスト。


<<やったワン!褒めろワン!!>>


「うぷっ、こら、やめろ!よくやった!偉いから!」


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