報告書74「ホンガワ」
放たれた“情報噴流”により再編派司令部が壊滅し、“首輪”の制御を外れたのか、レヴィアタンの行動はより大胆になり、もはや高層ビルを避けようともしない。巨体がぶつかったせいで、ビルの上層部と停車していたモノレールが落下、下層に甚大な物理的被害を及ぼす惨状を目の当たりにした今、一刻も早くあの化け鯨を止めないと!
「あいつにデータを喰われた今、動けるのは私達3人だけ。援軍は期待できない……それでもやるっきゃないわ。このエキチカシティこそが私達の故郷なんだから。イクノ、あいつの弱点は分かる?」
「何分、伝説のリソーサーじゃから情報は少なくての……とにかくあの巨体じゃ、わしらの手持ちの武器では外面からいくら攻撃しても決定打を与えるのは無理じゃ。ただ……」
「ただ?」
「再編派からいただいた情報によると、あのレヴィアタン、内部にはかなりの空間があるらしく、どうやら人間サイズでも侵入できるようなのじゃ。内部構造はさすがの再編派も不明としておるが……」
「しかし、内部から攻撃して倒せたとしても、あんなん落ちて来たら、それこそエキチカシティ壊滅だぜ」
「そうね……イクノ、再編派から“首輪”も頂戴することは可能?」
「可能じゃが……そういう事かの!」
「私とイワミであの化け鯨の内部に侵入、端末から首輪を再度装着。それでエキチカシティの外に誘導するの。首輪はまたすぐに外されるでしょうけど、その間に倒せれば……奴を止められるわ!」
「ひぇっ、あの化け鯨に食われに行くって訳か……ありだな!」
「……ダメじゃ」
「ダメって……」
「わしも行く!首輪をはめるのも制御するのも、二人じゃ無理じゃ!わしが必要じゃろう!じゃからわしも行く!」
「……オッケー!死んでも私がイクノを守る!それじゃあ状況開始!」
準備のために慌ただしく動く二人。俺も急いで準備を……としたところで、元気なさげに項垂れるバーゲストが見えた。
「どうしたバーゲスト。鯨に喰われるのが怖いのか?」
<<……あの化け鯨……レヴィアタンを倒す……あいつは何か、普通の機械生物とは違う気がするんだワン……本当に倒していいのかワン……>>
「普通じゃ無いのは確かだが……」
神経連鎖してるため、バーゲストの迷いがこちらにも流れてくる。しかしあのバーゲストが“迷う”とはな。すっかり人間らしくなりやがって。
「なら倒さなければいい。俺たちとしては、あの化け鯨にはエキチカシティから退去してもらえればいいんだからな。首輪で演算核に導管が生まれれば、後はそこからお前の闇黒伝播を流してお引き取り願えばいいんだ」
<<本当かワン!?お前も協力してくれのかワン?>>
「もちろんだ。だがこの作戦の鍵を握るのは……」
<<やってやるワン!……イワミ!>>
「なんだ?」
<<……ありがとワン>>
顔を俯かせながら、ヒコーキ耳でボソッとこぼすように言うバーゲスト。思わず頭を撫でる。
<<でも骨はやらんからなワン!>>
「わーてるよ、それじゃあ行こうか!」
<<ワンワン!>>
コーギー号を走らせ、レヴィアタンの進行方向にある高層ビルへと向かう。新OS <Oinu-Sama>を入れたせいか、起動時にワンワン吠えるようになったのは御愛嬌か。
機器が使えなくなり、へたり込む住人に避難を呼びかけつつ、高層ビルの屋上へと立つ。眼下にはちょうどこちらに向かってくるレヴィアタンの姿が。
「全くイカれてるぜ……」
高層ビルの屋上から落下傘で降下してレヴィアタンに乗り移るなんてな。チトセの立てる作戦はいつもそう……だが、その作戦が外れた事が無いのも事実だから、文句も言えんな。
「私はイクノと先に降りるから、あんたは後から同じルートで来なさい。ハグれた場合でも状況継続、中で合流よ!」
「おっ、おぅ……うまく降りられる事を祈ってるぜ。もちろん俺自身にな……」
「イクノ、準備は!?」
「オッケーじゃ!」
「それじゃあ行くわよ!」
前にイクノさんを抱えてるからバランス取りも難しいはずなのに、難なく風を捉えてレヴィアタンの背中へと飛んでいくチトセ。さては自衛軍時代に訓練してやがったな。
「よーし行くぞ……行くったら行くぞ……」
イクノさんが即席で作成してくれたソフトのお陰で、機動鎧甲がある程度は自動で操作してくれるとは言え、この高さから飛び降りるのは……勘弁して欲しいぜ。
<<何モタモタしてるワン!チトセご主人らはもうレヴィアタンの背中、ホンガワに到着してるワン!>>
「わーてるよ!よっしゃ行く……のわあああ!」
突然の激しい揺れに思わず転倒してしまう。見るとレヴィアタンが急旋回したせいで俺たちのいる高層ビルの中層に尾が直撃、しかもそれがかなり深く入ったのか、上層部が倒れ始めやがった!
「ちょちょちょ、待ってって!」
こうなったらもう落下傘どころじゃねぇ……ただの落下だ!俺を乗せたまま崩れる上層部。必死にしがみつくが、このままじゃ地面に真っ逆さまだ!
<<こっちだワン!死ぬ気で走るワン!>>
「はっ、走るって!?」
<<早くしろワン!>>
駆け出すバーゲストの後に着いて、右に左と曲がり、一緒に落ちる大きな瓦礫を足場にして飛び移って行く。て、この先は何も……
<<ラストは大ジャンプだワン!>>
「ひぇっ!!?」
先には何もないはずの足場を飛んだ先には、丁度レヴィアタンの背中が。まるで落下する瓦礫の場所も速度も測ったかのような正確さだった。
<<ふう、いい汗かいたワン>>
「マジで死ぬかと思ったぜ……」
最近の犬の散歩は命懸けでいけねぇ……




