報告書72「リソーサー・レヴィアタン」
バーゲストの闇黒伝播により、闇の中に恐怖を見た突入部隊は恐慌を来し撤退していった。破られた窓から外を見ると、肩を借りてる者、担架に乗せられてる者と負傷者多数なのは明らかだ。
「事務室はクリア。奴ら、完全に撤退したようだ。そちらはどうだチトセ?」
<<こちらもクリアよ。私もイクノも無事。コーギー号に傷付けられた時は頭来ちゃって、あいつらの装甲車ぶっ壊してやろうかと思ったけど、撤退していったから許してやったわ>>
相変わらずおっかねぇ女だ……常在戦場ならぬ、どこでも戦場にしちまいやがる。そこがまた良いんだが。
<<爆発音が聞こえた時はどうなる事かと思ったが……屋上もわし特製の警備システムとトラップを突破できずに撤退したようじゃ。とりあえずわしらも一旦そちらに戻るでの>>
これで終わり……なのか?いや……俺たちは連続企業テロ犯のレッテルを貼られちまってるんだ、こう派手に暴れちゃ状況は悪化したとも言える。くそっ、何とか再編派の陰謀の証拠を……
そこへバーゲストがテッテッテと歩いてきて、俺の足元に何やらポトリと落とし、尻尾をフリフリ、口からはヘッヘッヘッと息を吐きながら、お座りの姿勢で俺を見上げてきた。
「おっ、何だ何だ?お宝でも見つけて来たか?」
<<そのとおりだワン!御褒美くれだワン!>>
持ってきたのは……情報ファイルか。神経連鎖中だから、端末が無くてもそのまま読み取れるのは便利……何だこれ?“決定版!エキチカシティグルメマップ”?
<<突入してきた隊員が持ってたワン!こういうの好きだろワン?>>
「いや好きだけどさ!お前あの状況でこんなの探して……ん?何だその背中にある骨は?」
<<こ、これは違うワン!単なる01のおやつだワン!や、やめるワン!これは後で食べるんだワン!>>
「て、お前これは……!」
バーゲストに手を噛まれつつ骨の形をしたファイルを読み取ると、それは機密性・完全性・可用性にそれぞれ存在しないはずのLv.4が付与され、状況終了後即時廃棄の注まで付いた文書だった……こいつは只事じゃあない!大慌てでちょうどガレージから上がってきたイクノさんとチトセに見てもらったが……
「信じられん……これは極秘の指令書じゃ……暗号形式からしても本物で間違い無いじゃろう……一体これをどこで見つけてきたのじゃ……?」
「御丁寧に今時、決裁印まで押されて……名前は国防省にセブンシスターズの重鎮……再編派の主要メンバーがズラリね」
二人とも信じられないという顔で端末に映るファイルを見ているが、俺だって信じられん。この左義手に噛み付いたまま離さないバカ犬が、あの混乱の真っ只中にこんな大それたファイルを拾ってきたんだからな。
「とにかく、これで勝ったも同然よ!観察処はもちろん、マスコミからインターネットにまでこれを拡散すれば、再編派だろうがお終いよ!イクノ!」
「分かっておる!すぐにでも流せるぞ!」
その時、傍受していた突入部隊と司令部間の無線から、明らかに今までとは違うトーンの通信が流れてきた。
<<ガガ……ニッポニアに通達……ガガピー……“鯨を座礁”させる……部隊を直ちに撤退させろ……>>
<<ガガピー……鯨だと!?企業一つのために街一つ潰す気か……ガガ……気でも狂ったか?>>
<<ガガ……最重要機密の奪取が確認された……ガピー……拡散阻止を最優先……ピー……最高司令部からの指令……“鯨”を放つ……人命影響なし……ガガ……>>
<<くそっ!詭弁にもほどがある……ガガピー……ニッポニア了解……包囲を解いて撤退する……>>
通信が終わると同時に、事務所を包囲していた部隊は一目散に撤退していき、後には野次馬だけが残された。
「何にしても、拡散する情報を止められるものか。包囲も解かれたし、俺たちの勝ちだな」
「そうね……そうかしら……?“鯨を座礁”させる……?一体何をする気……?」
「……レーダーに反応!何やら馬鹿デカいものがこちらに向かってきておる!」
レーダーに映る巨大な影を確認、目でも見てやろうと俺たちは瓦礫散らばる屋上へと飛び出した。建物間に張り巡らされた透過型太陽電池から頭ひとつ抜けたここは、エキチカシティ下層で数少ない空が見える浮島……いや、“見えた”、か……空を覆い尽くすあれは何だ……?
300m以上はあろうか、それはそれは巨大な鯨と思しきリソーサーが、数機の大型トランスポーター“オオアタケブネ”に先導される形で、まるで宙を泳ぐかのように近付いてくるのが見えた。
「嘘でしょ……リソーサー・レヴィアタン……横須賀海軍基地を単独で壊滅させたという伝説のリソーサー……実在してたのね……」
「そのようじゃな……じゃが1番の驚きは、実在してた事よりも、再編派が捕獲していた事じゃ……」
「あんなの連れて来て、どうしようってんだ!?」
宙を悠々と泳ぐリソーサー・レヴィアタンは上半身はヒゲ鯨を思わせる丸々とした体をしているが、それに比べると幾つもヒレが付いた下半身は細長く、まるで鯨とフクロウナギを足してダンケルオステウスを掛けたような見た目だった。
「なんだ、ただ漂ってるだけなら無害……?」
「伝説が本当なら始まるのよ……横須賀海軍基地を一晩で機能不全にしたという、“情報濾食”が……!」
そして、レヴィアタンがその巨大な口を開けた途端、物凄い勢いの光の奔流が巻き起こり始めた。
「な、なんだぁ!?情報が……吸い込まれてる……?」
<<ワフッ!?すっ、吸い込まれるワンー!しっかり捕まえるワン!>>
電子データから骨コードまでありとあらゆるものがその巨大な口の中へと吸い込まれていき、後に残されたものは、あるゆる機器がダウンして機能停止した、死んだ街の一角だけだった……




