報告書71「バカ犬無双」
再編派の総力を挙げたMM社襲撃。社内ネットワークを狙った電子戦はバーゲストの活躍により防げたが、肝心の本人はと言うと……
<<フリスビー遊びはもう終わりかワン?つまらんワン……>>
ディスプレイから戻ってきて、残念そうに耳を垂らすバーゲスト。人間のマルウェア攻撃も、こいつにとっては“お遊び”て訳か。全く末恐ろしい犬だぜ。
「向こうさんの本部は“お犬様”のお陰で蜂の巣を突いた大騒ぎでしょうけど、突入部隊もこれで……」
「待つのじゃ、今ので突入部隊と本部のラインに枝が付いたようじゃ!向こうにバレた気配は無し……“お犬様”は本当にいるようじゃのう」
<<ワンワン!その“お犬様”てのは01の事かワン?01の事かワン!?>>
「あぁそうだから少し静かにしてろ。後でおやつやるから」
イクノさんが何やら端末を操作すると、包囲している企業の警察部隊の配置図に突入部隊のメンバー表、おまけに音声通信まで拾えたようだ。おいおい、相手は軍用レベルの暗号通信のはずだぜ?と、ちらりとバーゲストを見るが、どこ吹く風とばかりに座って耳をかいてやがる……
<<ガガガ……ピー……ニッポニアから各班に通達、マルウェアにより音声通信以外のネットワーク機能が破壊……ガガ……だが突入は予定どおり……ガガガ……ハッタイ班はA1ポイント……ガガ……ホドフィラクス班はB2ポイント……ピー……ホワイトレイ班はC1ポイントから突入……ガガガ……ピー……>>
「遅延も変更も無しか……上から相当の圧力を掛けられているってことかしら。それにしてもこの呼び出し符牒、新国風文化が極まり過ぎて、皮肉を感じるわね。イクノ、突入ポイントは分かる?」
「少し待っとれ……符牒そのものは無意味じゃが、さっきのマルウェア送信時のパケットの発信強度を見るのじゃ。一階ガレージ入り口脇の監視カメラ、2階事務室のディスプレイガラス、屋上の電子ロックにそれぞれ強く干渉しておる……という事は、突入箇所もそこじゃな」
「オーケイ!イクノは端末持ってガレージの備品格納庫に退避、あそこが一番頑丈よ!私はガレージ、イワミは事務室で待ち伏せ、派手に歓迎してやりましょう!」
「屋上はどうするんだ?」
「屋上にはトラップと、イクノ特製の警備システムがあるわ!それじゃ行動開始!私達は再編派の悪事を暴露し、ササヤさんを見つけるためにも、ここで終わるわけにはいかない。3人で全力を尽くし、あとは運をお犬様に任せましょう!」
「了解じゃ!」
「仕事場で思い切り暴れられるなんて、夢のようだ!」
<<ワンワン!>>
端末を抱えたイクノさんを守りつつ、ガレージへと降りていくチトセ。窓を破って入って来るであろう相手を待ち伏せか……何故だろうな、無性にワクワクするぜ!
<<ガガガ……ピー……突入!>>
無線傍受により流れてきた合図と同時に、上の階からは爆発音が響き渡る。こちらはと……窓ガラス代わりにはめられたガラスディスプレイが割られ、次々と手榴弾が投げ込まれてきた。スタングレネードか、見飽きたぜ!
<<ワンワン!こんなに遊び相手がいるなんて、久しぶりだワン!>>
「バーゲスト、これは遊びじゃ……いやお遊び、大遊びだ!派手に遊んで鬱憤を晴らそうぜ!」
<<やったるワン!!>>
神経連鎖により断界空間に入った事で、視界が変わっていく中では広がる閃光が単なる情報の羅列として流れていく。壁の向こう側をラペリングで降りてくる突入部隊の動きも、手に取るように分かる。
「来るぞ!」
突入してくると同時に3人がかりで組み付いてくる部隊員を横薙ぎ一閃、まとめて斬り伏せる。死にはしないだろうが、機動鎧甲はオシャカだろう……なんて思う暇も無く、次から次へと入ってきやがる。
「くそっ!文字どおりの力押しかよ!」
<<任せろワン!“蒼雷葬”起動だワン!>>
端から青い放電を撒き散らしながら爆発、倒れ伏す部隊員たち。この技は見覚えが……
「って、これはあのヘルハウンドの技じゃないか!何でお前が使えるんだよ!?」
<<前に言ったとおり、あの野郎から手に入れた骨コードの欠片を解析すれば、技のコピーなんて朝の散歩前だワン>>
「て事はまさか……」
しでかした事なんて、まるで事も無げだったかのようにのたまいやがるバーゲストに驚いたのが不味かった。四方を回り込まれ、一斉に斬りかかられちゃ対処できない……!
<<後ろの角に飛ぶワン!>>
「角って……!」
考えるよりも先に、後ろに思い切り飛ぶ。バーゲストめ、とち狂ったか?壁に背中をぶつけてお終い……とはならず、次の瞬間には別の角、それも先ほどの奴らのちょうど死角となる場所に出たのだった。
「これは思い出したくも無いが……ティンダロスの“五次元情報地形の角”もコピーしてたってのか……?」
<<バーゲスト第二形態……>>
「いや、それはいい」
バーゲストがどこからか出してきたサングラスとキャップを押し留め、部隊員の死角から攻撃、全員を気絶させてやった。しかしいちいち相手にしてたらキリが無いな……
「なら、最後を決めるのはやはりあれだな!“恐怖よ這い寄れ、闇の如く……”」
<<“混沌よ広がれ、闇の如く……”>>
「<“我こそは闇を司る者、バーゲストなり!”>」
機動鎧甲の胸元に意匠された黒犬の横顔の目がカッと赤い閃光を放ち、全身から吹き出した闇は瞬く間に建物全体を包み込んだ。
<<な、なんだこの暗闇は!?何も見えないぞ!?本部、応答しろ、本部!ガガ……ピー……>>
<<ガガ……な、何だあれは……犬が……黒い犬がああああ……!ガガ……>>
<<やめろ、来るなああ……ガガ……ピー……>>
あちこちから木霊する恐怖に引き攣った叫び、悲鳴、阿鼻叫喚。バーゲストのお得意の闇黒伝播が、機動鎧甲と神経接続しているとは言え人間相手にもここまで効くとは。
「お前がここまでやるなんてな。全く、今までサボってやがったのか?」
<<01単独の力では無いワン!お前とのより深層での神経連鎖により、使える演算資源が増えたお陰だワン!それにしても、もう終わりかワン?たかがこれっぽっちじゃ、全然遊び足りないワン!>>
まさにバカ犬無双だな。一匹のバカ犬が世界を救うなんて、頭がどうにかなりそうだぜ。
<<バカ犬とはなんだワン!お犬様と呼べワン!>>
すぐ調子乗るし……




