報告書70「ハイブリット戦」
ガレージでの祝宴から一日、朝日が昇り今日も一日が始まる。全く、毎朝ワンワン吠えたてるバーゲストのせいですっかり規則正しい生活が身についちまった。肝心のバーゲストは……と、人の布団の上でだらしなくへそ天で寝てやがる。
「朝だぞ寝坊犬。最近は俺の方が早起きだな」
<<もう食べられないワーン……むにゃむにゃ>>
何度目だこの寝言。鼻ちょうちんまで膨らませやがって、こうなったらリソーサーでも変異型憑依個体でも無い、ただの犬だな。
ピピピピ……
ようやく目覚ましか鳴ったか。ベット脇の時計のアラームを止めようと手を伸ばした瞬間、一人でに消えた。時計だけじゃない、通信機から何まで電子機器の表示が一斉に消えたのだ。
「なんだ……?」
と同時に物凄い勢いで開かれる扉。また蹴破ったのかという勢いで入って来たチトセは、機動鎧甲を身に付けた完全武装状態だった。なんだなんだ?今日は朝から駅ダンジョンに入る予定なんて無かったはずだぞ……?
「緊急事態よ!ヨロイを着て事務室に集合!3分……いや、1分で!」
「な、なんだ朝っぱらから一体。一体何がどうした?」
「問答は後よ!急いで!」
とにかくチトセに急かされるまま、寝ぼけ眼のまま訳も分からずガレージへと急ぎ機動鎧甲を装着、キ影を手に持ち事務室へと入ったが、食らいつくようにディスプレイを覗き込むイクノさんと、多目的ランチャー“クニクズシ”に弾頭を捩じ込むチトセの姿からも、どうやら只事じゃあない事が起こったようだ。
「イクノ、状況は!?」
「ダメじゃ!複数の拠点から並列で侵入路が開かれておる!この事務所の防御パイプラインじゃ同時に対応できん、既にネットワークの半分が掌握されておる!」
「情報戦からの電子戦の後に突入……ハイブリット戦てわけね。新興企業相手に、向こうさんも随分張り切るじゃない……!」
「な、なんだなんだ?まるで襲撃……」
「そのとおり襲撃よ!テレビを見なさい!」
低空でも飛んでいるかのようなヘリの轟音に遮られる事もないチトセの叫びを聞き、何が何だか分からないままテレビを見ると……
<<速報です。エキチカシティの一角を拠点に、企業テロ活動を繰り返していたとされる軍事資源回収企業に、いままさに強制捜査が行われようとしています。市民の皆さんは決して現場に近づかないようご注意ください>>
「ふーん、この見慣れた街並みからしてこの近くか?随分とこの辺も物騒に……」
<<現在、私は問題のMM社上空に来ています!包囲している企業連盟所属の警察部隊によりますと、連続企業テロ犯が複数名、未だ社内に立て籠り説得にも応じていないとのことです!>>
アナウンサーが指差す、あの見慣れた小汚い建物は……
「うちじゃねぇか!企業テロって、チトセついにやらかしたか!?」
「違うわよ!私達はまんまと嵌められたってわけ!どうやら向こうさん、“バレット・トレイン”の一件も含めて再編派は知り過ぎた私達を闇に葬る気になったって事ね。それもド派手な方法で」
まじかよまじかよ。画面には我らが社屋を囲む、装甲車やパトカー、それに機動鎧甲を着込んだ人員が見えた。
「どうするチトセ?おとなしく降伏……」
「はぁ?するわけ無いでしょ?いざとなったら、仕掛けてある特大の爆轟弾を……」
「え……」
一瞬にして全身の血の気が引いていくのを感じた。特大の爆轟弾って、今までそんな中で俺たちは生活していたのか!?
「冗談よ。何にしても、陰謀に嵌ってただ捕まるって気は無いのは本気だけどね!」
「はぁぁぁ……驚かすなよ……」
一瞬止まった分をまとめて出すが如く、思い切り息を吐く。こいつならやりかねないからな……本当に冗談か?なんて思考はイクノさんの絶叫で掻き消された。
「ダメじゃ!社内ネットワーク完全掌握まであと少しじゃ!突入を防ぐ手立てが無くなるぞ!」
イクノさんが齧り付いているディスプレイを覗き込むと、社内ネットワークに繋がるノードに向かって赤いパケットが次々と飛んできてはマルウェアを感染させ、画面の8割近くを赤く染めていた。万事休すか。キ影を握る手に力が入る……間の抜けた声が聞こえてくるまでは。
<<むにゃむにゃ、朝っぱらからうるさいワンね……一体何の騒ぎワン……?>>
「バカやろう、寝ぼけてる場合かっ。俺たちもついにお尋ねもの……」
<<ワフッ!?フリスビー遊びワンね!?01を仲間外れにして遊ぼうたって、そうはいかないワン!!>>
「一体何を……!?って、ぐわぁ!」
あろう事かバーゲストが大きく跳ねたかと思いきや俺の頭を踏み台にして、イクノさんの見ているディスプレイへと飛び込んで行ったのだ。
次の瞬間、ドット絵調の黒い犬がディスプレイの中に現れ、飛んでくる赤いパケットをキャッチする度にノードは緑色に戻り、そして投げ返された赤いパケットは光の矢となって発信元の拠点を撃ち抜いていった。
イクノさんは目を見開き、声を震わせた。
「な、なんじゃこの黒犬は!?感染したノードの復旧と、逆感染を同時に……!?ありえん!」
チトセは呆気に取られながらも、苦笑混じりに息を吐いた。
「我が社の守護霊は犬だったようね」
俺は、相棒のいつの間に習得した能力に驚くと同時に、不思議と誇らしい気持ちになった。
「バーゲスト……お前……それでこそ俺の相棒、バカ犬だ!」
真っ赤に染まっていた社内ネットワークは、正常を示す緑色に戻っていく。それとは逆に、ハッキング元と目される複数の拠点は徐々に赤く染まっていった……
<<ワンワン!早く次のフリスビー投げてだワン!>>




