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報告書6「黒犬の鎧」

 最近は悪夢ばかり見る。黒い犬に吠えられる夢、足下にまとわりつかれる夢そして小言を言われる夢。いや、夢と言うものは寝てる時だけ見るものなら、これは夢では無いということになる。なにせ……


<<ワンワン!いつまで寝てるワン!もうとっくに朝だワン!>>


「うぐぐ……分かったから耳元で吠えないでくれ〜……」


 それは起きている間も寝ている間も関係無しに発生しているのだから。あれから幾日か経って、色々と混乱もあったし、今でもしているが、やたら引き止められた病院からも退院し、何とかこうやって一部を除けば日々の暮らしに戻ることができた。がっ、こればっかりはどうしても慣れない。


「あんた本当に大丈夫なの……?独り言は増える一方だし、挙動不審に磨きが掛かっているわよ」


「はははっ……俺も疲れてるのかな。なぁに大丈夫……」


 問題は、俺が部屋から降りてきて事務所のテーブルで朝食を食う間も横でうろちょろしている、この脳内不法侵入野良犬が他の誰からも見えないし、声も聞こえないということだ。お陰で俺はすっかり変人扱いだ。


<<それは違うワン!お前が周りから警戒されているのは、いっつもスケベな事ばかり考えてるからだワン!>>


「人聞きの悪い事を言うな!俺はそんな事全く……」


<<海馬を見たけど、スケベな記憶ばかりだったワン!XX個体2人と巣を一にしているからって、これだからウェイスターは浪費することしか知らないんだワン!>>


「うっ、うるさい!データだけのクソ犬と違って、こっちは生身の人間なんだから仕方ないだろ!だったらお前が可愛い女の子の姿で出てこい!そっちの方が俺のためだし、みんなのためだろうが!」


<<とち狂って意味不明な事を言い出したワン!>>


「……だから、今日はこれから忙しくなるわよ。って、あんた聞いてた?」


「えっ!あっ……ごめん聞いてなかった……」


 やばい。コーヒー片手にチトセが、今日の予定を俺とイクノさんを前に話していたんだが、全く聞いてなかった……


「病み上がりだからってボケっとしてないで、シャンッとしてよね!」


「そうじゃぞ。アタッカーのお主とガンナーのチトセの働きが任務の成功を左右する訳なんじゃから、ちゃんと聞いておかんと後で困るんじゃぞ」


「すんません……」


<<怒られたワン〜>>


「黙れクソ犬……!」


「もう、初めからやり直しね!今日の仕事は六本木駅ダンジョンに潜っての、リソーサー・ノブスマの退治よ!」


「何だそのノブスマってのは?」


「さぁね、リソーサー・バットの変異種らしいんだけど、詳細は不明なのよ。もう何人も山師がやられてて、生存者も"突然闇が〜"と要領の得ない話ばかりだし」


「おまけにそやつが生息している六本木駅ダンジョンは、最底部が確認されている駅ダンジョンの中では有数の深さと言われておる場所じゃ。当然足場も悪く、下層に行けば行くほど視界も悪くなって尚更探し辛いと言う訳じゃ」


「何でまたそんな、厄介な場所に、厄介な奴を探しに行くようや厄介な仕事を請け負ったんだ?」


「そんなの決まってるでしょ?厄介なリソーサーほど希少な特殊資源を持っている、この業界の常識よ。はい、それじゃあ準備開始!急がば潜れよ!」


 またよく分からん諺が出たな。はっきり言って、頭の中によく分からんのが巣食ってる今の状況でそんな危なっかしい場所に行きたくないんだが……仕方ない、働かざるもの食うべからずなんて言われて追い出される訳にはいかんからな。


「おっと、そうじゃった。ガレージで昨日頼まれた例のものの出来上がりを見て欲しいのじゃが」


「へ?昨日?俺なんか頼みましたっけ?」


「なんじゃ、忘れたのかの?やたらハイテンションでガレージまで来たじゃろうが。その時聞いたアイデアが中々面白くて、ついつい夜遅くまで取り掛かってしまったわい」


「う……う〜ん?」


 イクノさんの話を聞いても一体全体何のことか全く思い出せない。昨日は確か、クソ犬の相手に疲れて早々に寝てしまったはずだが……まさか……


 疑念半分不安半分のままイクノさんについてガレージまで降りて行くと、そこには俺愛用の機動鎧甲が整備スペースに立て掛けられていた。いや、正確には"俺愛用の機動鎧甲だったもの"と言うべきか……


「なっ、なっんですか!?これはっ!」


「うむうむ、驚くのも無理はない。お主から聞いたアイデア、損傷した機動鎧甲の外部装甲にジェボーダンのをそのまま移植しようなんぞ中々思いつかんからの!」


「俺の……俺の機動鎧甲"ハチリュウ"が……」


 黒字に金色の龍のアクセントの入った、落ち着いているがどこか高貴な雰囲気を感じさせる俺の機動鎧甲は、各部にあのジェボーダンが纏っていた闇のような外装が取り付けられ、大きく損傷していた肩口には赤く煌々と光る目を持った黒い犬の横顔の意匠が模られている、全くもって不気味な外観に変貌してしまった……


<<素晴らしいワン!01の想定していたとおりの出来上がりだワン!>>


「お前にいくつか聞きたいことがある……このクソ犬……!」


<<なんだワン?あぁ身体は寝てる間に少し借りたワン!どうせ減るもんでもあるまいしワンワン>>


「遂に本性を現しやかったな!そうやって俺の身体を乗っ取るのがお前の目的だろ!」


<<ワンワン!それが出来たらとっくにやってるワン!この低品質な有機物の身体は01には短時間しか動かせないワン!>>


 "日々の暮らしに戻る事ができた"なんて言ったがあれは全て撤回する。正確には"日々の暮らしはもう戻ってこない。何もかもが一変してしまった"だ。

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