報告書68「アポトーシス・プロトコル」
バーゲストの奮闘によりオルトロスの首輪が外れかける中、諦めの悪いナカセの顔が狂笑に歪んだ。オルトロスの首輪を締めるのではなく、バーゲストに新たな首輪を掛けようってのか!
「アハッ、アハハハ!これで私は……私は支配者に返り咲く!」
「させるか!」
踏み込みからの全力真っ向斬り、捨心を浴びせる。両手に持ったウィップで防がれるが、完全には止まらず逸れた刀の軌道が肩に入る。
「ぐっ……!」
「確かに俺……“俺たち”は野良犬だ。だがな、だからこそ自由だ!オルトロスに首輪をはめて支配しているようで、お前自身が再編派に首輪をはめられているんだろっ!」
「ふざけないで!私は支配する側よ!オルトロスだって従わせた、この力で!自由なんて笑わせる……私は何でも屈服させられる!この野良犬を連れ帰り、再編派だって支配してみせる!!」
ウィップで防いだキ影を押し返す力が増している。こいつ、支配欲が力の源とでも言うのかっ。
<<ワフッ!?01に“首輪プログラム”が侵入してきたワン!>>
「もう戻ってこい!ミイラ取りがミイラになるつもりか!?」
<<嫌だワン!オル兄ぃの“首輪”はもう少しだワン!絶対に諦めないワン!>>
<<バー……ゲスト……>>
こんの分からずやが!仕方ない、ナカセに少しでも打撃を与えれば、バーゲストへの首輪はめも遅らせられるはず……やるしかない!
もう一撃、渾身の捨心を……と振りかぶった隙をつかれ、顎に蹴りを食らってしまった。
「ぐっ!?」
「同じ攻撃が何度も通用すると思った!?」
畳み掛けるように、今度は身体を半捻りした蹴りがくる。ふらつく所を、なんとか踏ん張り、続けてウィップから剣モードに戻した得物で斬りかかってきたナカセを、逆手で持ったキ影の柄頭で殴り返してやった。
「お前のプライドは強さじゃない、弱さの裏返しだ!だから支配に縋るしかない!」
「お黙り、野良犬風情が偉そうに……!私にはこの犬共の支配が必要なのよ……!」
追撃をしようとしたが、一瞬で剣から姿を変えたウィップを首に巻き付けられてしまった。
「私は再編派に志願して、オルトロスを憑依した……でも中枢へのアクセスコード生成に必要な“相互理解”なんて笑わせる理想、私には向かなかった。だから失敗作と呼ばれた!」
キ影の一撃を左手で受け止め、そのまま背後に回り込み、俺を背負うように首に巻かれたウィップを締め上げるナカセ。
「……だからどんな汚れ仕事をしてでも這い上がる!私を失敗作と呼んだ奴らを支配してやるために!」
「うぐぐぎぎ……!」
キ影の柄頭で背中にいるナカセの脇を何度も強打するが、ビクともしやしない。鞭と首の間に入れた義手のフルパワーでも解けないとは、なんて力の締め上げだ……!
「バ、バーゲスト、まだか!?こっちもお前ももう限界だ……ぐおおお!」
<<ワンワン!もう少し、もう少しだワン!>>
オルトロスにはめられた首輪の鎖に齧り付き、何とか外そうとするバーゲストだが、中々外れない。それよりも、バーゲストの首の周囲に浮かぶ光輪が徐々に狭まってく方が明らかに早い……!
<<バーゲスト……モウヤメロ……恐怖ヲ学習シテシマッタ以上、モウ自由ナ未来ハ……無イ……>>
<<あるワン!01がずっと見てきたバカ人間は腕を失って、身分を失って、仲間を失って……それでも恐怖を抱えたまま歩みを止めなかったワン!未来が視えないなら……一緒に掴み取るワン!>>
<<……>>
バーゲストの首周りに浮かぶ光輪が、今まさにはまる……その時だった。
<<バー……ゲスト……オ前、ヤハリ機械生物ラシク無イ……>>
<<ワフッ!?オル兄ぃ、何を……!?>>
オルトロスの体当たりを受け、吹き飛ばされるバーゲスト。そして、オルトロスが光り輝き始めた……
<<ダメだワン……オル兄ぃそれはダメだワン!!>>
<<ラシク無ク、生キロ……>>
そのまま侵入経路に使ったウィップを通り、バーゲストが戻ってきやがった!
「ぬおっ!?いきなりのおかえりだな!?早速だが手を……」
「オル兄ぃ!オル兄ぃ!!すぐに戻すワン!01を戻すワン!」
暴れるバーゲストだが、何故かサイバーウィップを経由した回線は閉じられてしまっている……オルトロスがやったのか。
「何をしているのオルトロス!?もう少しで……て、それは……やめなさい!」
<<アポトーシス・プロトコル実行……>>
「やめなさい!私の言う事が聞けないの!?それを実行したら、あなた……」
力が緩み、何とか鞭締めから脱出できたが、何やら焦り倒すナカセはどうやらそれどころでは無いようだ。バーゲストといい、オルトロスは一体全体何をしようってんだ……?
「あああ!!私の……支配……」
膝から崩れ落ちるナカセ。息はあるようなのでどうやら気絶しているだけのようだが、ショックで見開かれた目からも、尋常じゃない事が起こった事が分かる。
「一体何が……」
<<オル兄ぃは“アポトーシス・プロトコル”……自己消滅コマンドを実行したんだワン……>>
その時、義手の中に微かなノイズが走った。
<<……オ前自身ガ……機械生物ノ……未来ダ……>>
「……オル兄ぃ……!」
「お前を守るためにか……バーゲスト……」
<<うっ……ううう、ワァァァン!!>>
顔を床に押し付け、声を上げて泣くバーゲスト……その姿を見て、俺にできることは背中をそっと撫でる事だけだった……
<<そっちの状況は!?こっちは全砲塔の爆破を完了したわ!>>
<<レーダーにこちらに向かう機影多数!そろそろ潮時じゃぞ!?>>
「こちらイワミ、義手は取り戻した……これから離脱ポイントに向かう……」
チトセとイクノさんの無線に答え、優しくバーゲストを抱き起こす……子犬のように泣き叫ぶこいつは、とてもじゃないが機械なんて言える存在では無かった……




