報告書66「首輪だワン」
ナカセのサイバーウィップを逆手に取り、バーゲストを送り込む事に成功した。後はあいつがオル兄ぃ……オルトロスを助けられれば、万事解決だ!信じてるぜ……相棒!
あいつのためにも時間を稼がなくては!義手を拘束されながらも、右手だけでサイバーウィップによる連続攻撃を何とか防御でいなし続ける。
「ふふっ……坊や、自分の能力の源を切り札にするなんて、どれだけ追い詰められてるのかしら?でも無駄よ。私の内側は軍用グレードの要塞……野良犬一匹に爪を立てられる隙なんて存在しないの」
「ふん、お前はあいつ……バーゲストはただの“バカ犬”じゃ無いって事、知らないようだな」
背後から聞こえてくるイワミの声は、珍しく自信に溢れていたワン……バカ犬とはなんだバカ犬とワン!とにかくウィップの中を全速力で走り、いっけ好かない女の中に入ったが、早速高い高い“炎の障壁”がお出迎えしてきたワン。
<<チープで陳腐な壁だワン!こんなので01を止められると思ったのかワン?……オシッコで消してやるワン!>>
そびえ立つ巨大な炎の障壁、ファイヤーウォールの前でぐるぐると回ったかと思ったら、片足を上げるバーゲスト。チョロチョロと出てくる黒いオシッコ。
「……やっぱただのバカ犬かも」
その直後、オシッコの当たった場所がガラガラと音を立てて派手に崩れたではないか!一体どうなってるんだ!?
「なっ、何が起こってるの!?軍用グレードの多層障壁が数バイトごと消滅!?あ、あり得ない……コンマ一秒で中に侵入されるなんて……!」
そうか、闇黒粒子を使いやがったんだな!?軍用グレードでも難なく崩壊させちまうとは……どんだけ汚いオシッコなんだよ……
さらに先へ走っていくと、今度は無数の目玉や耳が並んだ不気味な通路に着いたワン。気味悪いワン……こんな所はさっさと通り抜けるに限るワン!
「おかしい……なんで監視センサーが何も反応しないの!?トラフィックの逸脱検知や正規IDの照合もゼロ反応!?全くの無反応ってどういう事なのよ!?あり得ない!」
闇黒外装を纏ったバーゲストはいかなるセンサーにも探知されない。それがまさかデータ空間での検知アルゴリズム相手にも機能するとは……
通路の最奥にあったのは鎖が幾重にも巻き付いた巨大な鉄の扉だったワン。幾何学的なコードが浮かび上がっては消える大きな南京錠が一つぶら下がってるあたり、ここはデータ暗号化層だワンね。
「……ふっ、ふふ……ここは突破できないわよ、野良犬ちゃん。最新の量子暗号よ、破る事なんて不可能……」
突然鼻を地面に押し付け、あちこちフンフンと嗅ぎ回り始めたバーゲスト。そして何かを見つけたのか、一心不乱に地面を掘り始めた。そのまま物凄い勢いで掘り進め、出てきたのは……扉の向こう側だった。
「ふざけないで……!これは軍が誇る量子暗号層、鉄壁の砦よ!それを……まさか裏口を嗅ぎつけるなんて……!野良犬らしい汚いやり口ね……!」
暗号化層の先に、扉が半開きになり中から光が漏れてる部屋が一つ……きっとあそこだ、あそこにオル兄ぃがいるんだワン!扉をぶち破り、中に入るとそこには……
<<オル兄ぃ……!>>
壁には拷問器具が所狭しと並べられ、床には骨コードと化した機械生物の残骸が転がる部屋の中心にいたワン。壁から伸びた幾本のも太い鎖が繋がった“首輪”をはめられた、片目は赤く、もう片方の目は白濁した黒い犬……オル兄ぃが。
<<待ってろオル兄ぃ!今助けるワン!>>
こんな鎖、すぐにでも食いちぎってやるワン!……かったぁ!なんだこの鎖、硬すぎだろワン!?
「オルトロスを首輪から解放できそうかバーゲスト!……てか、そもそも“首輪”ってなんだ?」
<<ワンワン!立川駐屯地での“骨コード解析実験”を忘れたかワン?大量のリソーサーを“苦痛誘導環境”に晒して、そこから抽出した“痛覚アルゴリズム”と“恐怖フィードバック回路”……それを体系化した成果物こそが、この“首輪プロトコル”なんだワン!>>
「あー……何だって?」
<<つまり機械生物を恐怖で支配するプロトコル……それが“首輪”の正体ワン!>>
「なるほど分かったぞ!何としても助け出すんだ……お前の大事な兄貴を!」
こいつ絶対分かってないワン。神経連鎖中なのに、分からないとかよっぽどだワン。でも……オル兄ぃを助ける、この一つが共有されてる、これは大きな力ワン!となればもう一度アタックだワン!
<<ガジガジッ……にしてもなんて硬さだワン!ただの鎖じゃない、救援意図を嗅ぎ取って締め上げ、挙げ句にオル兄ぃへ痛みを返す仕組み……助けようとするほど逆に罠が牙を剥く、まるでチャイニーズ・フィンガートラップ型アルゴリズム……これは悪魔の首輪だワン!>>
「何だって?」
<<こっちはまだ時間が掛かるって事だワン!何とか保たせてくれワン!>>
「任せろ!時間を稼ぐ!」
まずはオル兄ぃにフィードバックされる“痛みコード”をこっちで引き受けるワン!そうすれば……そんな時、イワミとのやり取りを聞いていたのか、オル兄ぃの耳が少し動いたワン。
<<バー……ゲスト、ヤメロ……オ前モ無事デハ済マナイ……>>
<<やめないワン!絶対にオル兄ぃを取り返すワン!>>
01はイワミのバカの中で色んな事を理解したワン……奪われたら奪い返す、それが山師の掟ワン!




