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報告書61「コバヤ」

 作戦は決まった。対空兵器の注意を逸らした隙にバレット・トレインに乗り込み、立ち塞がる障害物を全て排除して義手を、バーゲストを取り返す。シンプルにして大胆不敵、そして無謀。だが今回の俺は、先に何が立ち塞がろうと、ただ指を咥えて取られた腕をそのまま見送るつもりは無い。


「それじゃあ準備といきましょうか。分かってると思うけど、時間は無いわよ」


「任せておけ。何なら刀一本で斬り込んでやるっての」


「あー……その前にちょっといいかのう……」


 ガレージでの準備のために、事務室から出ようとするチトセと俺を呼び止めるイクノさんは、何か言いたそうであるが、どこか言いにくそうな感じであった。


「どうしたの、イクノ?あんたも例の“あれ”、用意しないと……」


「そうなんじゃが……さっき診察した時に、イワミの身体についてちょっと気になる点を見つけての……ちょっと言うか、かなりなんじゃが」


「俺の身体について……?」


 持っていたタブレットを操作し、表示された脳のCT画像を指差すイクノさん。


「これはイワミの脳じゃが、ここを見てくれ。高輪ゲートウェイ駅ダンジョンでの一件以来、前まではこの部分が異様に活動してたんじゃが、それが今や活動休止、まるで空白部分のようになっておるのじゃ……」


「……?つまりどういうことよ、イクノ?」


「断定は出来んのじゃが、イワミの脳は義手……というか、義手のブラックボックス内の“何か”を前提に作り替えられているので、それ無しじゃ保たない可能性があるのじゃ……」


「保たないって……どうなるのよ……?」


「脳の場所的に、段々行動に障害が出てきて、最終的には……」


「ちょっと!それってどうにかならないの!?こんな事してる場合じゃ無いわ!まずは病院に……」


 慌てるチトセの肩を持つ。俺より先にチトセが取り乱してどうする。


「いや、このまま行こうチトセ。義手を取り戻し、また腕に付ける……それで解決するんだ、何の問題もない。それでイクノさん、その障害って、どれくらいで出てくるんですか?」


「うーむ……軽い行動障害はすぐにでも出てくると思われるのじゃが……最終的なリミットは……24時間といったところじゃろうか……」


「24時間……?上等!行って帰って食事してもまだ余る」


「ふん、急に頼もしくなっちゃって。どういう心境の変化?」


「さぁてね」


 チトセにはトボけておいたが、あの日バーゲストが俺の身体に来た時から、俺たちは一蓮托生な比翼の鳥で運命共同体。そんな事は分かっていたんだ。


 ガレージで補給物資を棚から引っ張り出し、腰の小物入れに入れていくが、片腕じゃ全然捗らない。ドヤ顔強気発言は、早まったかな……?


「イワミや、これを使うのじゃ」


 そんな俺を見かねたのか、イクノさんが奥から持って出てきたのは……


「これは……新しい義手!?」


「うむ、予備にと作ったんじゃが、結局今まで出番が無かった代物じゃ。ロケット噴射ノズルは無しの汎用モデルじゃが、お主用のファームウェアに書き換えておいたからのう、同等とまではいかんが、“それなり”には動くはずじゃ」


「ありがとうございます、イクノさん!イクノさんの傑作義手、必ず取り戻しますよ!」


 予備の腕を肘に装着、神経接続も問題無くいったが……何だろう、何か違和感を感じる。動作が遅れてくる感じがすると言うか……だが、片腕で列車に飛び乗る訳にもいかないんだ、とにかく今はこいつに慣れるしか無い。


 そして作戦決行時間を迎え出発の時が来た。それにしても、チトセとイクノさんが言っていた、“あれ”とはまさかこれの事だったとは……


「BH社脱出に使った軽輸送トランスポーター“コバヤ”をまさか今の今まで隠し持ってたとはな。どうして俺には黙ってたんだ?」


「どうしてって、決まってるでしょ。あんたに教えてたら、任務の行き帰りに乗らせろってうるさくなるからよ」


「当たり前だろ!何のためのトランスポーターだよ」


「もちろん、いい買い手がいたら売り払うためよ!」


 半ば廃墟群となっているエキチカとはいえ、高速でコバヤを飛ばすもんだから、建物の影が迫る度にヒヤヒヤする。イクノさんの操縦技術は本当に圧巻の一言だ。何せ……


「前、雑居ビルよ!」


「おおっと、面舵一杯!……回避成功じゃ!」


「イクノさん、安全運転を……!」


「なぁに、訓練シミュレーションは何度もやっておる!これも一緒じゃ!」


「何度もって、あんたいっつも最後には墜落して……ちょっと、そんなに揺さぶらないでよ!」


「一度こんな風に、空をかっ飛ばしてみたかったのじゃ!」


 操縦桿を握った途端、性格が変わったように飛ばしまくるんだからな!この作戦の成否は、このコバヤに掛かってるんだけどなぁ!


「イクノ、あれよ!“バレット・トレイン”!」


「見えておる!」


 チトセが指差す先には、地を這う鉄の龍……廃墟群を貫くように作られた鉄路を突き進む列車が見えた。


「レーダー照射警告!撃ってきますよ、あいつら!」


「ふふん、警告無しで射撃とは、駅ダンジョンの敷地内なら何をやってもええってことじゃな?ならこっちもそうさせてもらおうかのう!」


「って、ミサイル攻撃来たわ!」


「任せるのじゃ!」


 イクノさんの操作による急激な回避運動で、こちらまで思わず身体が斜める。コバヤから雨のように散布されるフレアが空から降り注ぎ、ミサイルが軌道を変えて爆発、何とか一発目は防いだようだ。


「イクノ、予定の地点まであと少しよ!保たせられる!?」


「任せるのじゃ!」


「二発目ミサイル接近!フレアの残量0です、イクノさん!」


 バレット・トレインから降り注ぐ無数の光弾に混じった一筋の煙、ミサイルが真っ直ぐこちらに飛んでくる!もうダメだ!ミサイルの形までが見開いた目に映る距離に来た時……


「引き寄せて……引き寄せて……今じゃ!」


 一瞬、視界が上下逆転したかと思ったらそこから渦巻きの如く回転した。


「バレルロールでミサイルを回避なんて、技術者にしておくのは勿体無いわねイクノ……」


「なぁに、フライトゲー……訓練用シミュレーションで練習したからのう!と、予定ポイント動力車前方に到着!並走飛行に……ありゃりゃ、各所に被弾!姿勢が制御できん!」


 空中で火を吹きながら、ガタガタと左右に揺れるコバヤ。こりゃまずいぞ……!


 メインローターから火を噴き出したと思った瞬間、対空ブラスター砲の猛連射を受けたコバヤは炎に包まれ、次の瞬間には爆発四散したのだった。

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