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報告書60「列車強盗」

 事務所に戻り、ガレージで左腕をイクノさんに見てもらったところ、理由は不明だが義手を斬り落とされる直前、痛覚センサーをオフにするなどのダメージコントロールがされていたそうだ。あの野郎、余計な事をしやがって……


<<診断が済んだら、事務室に集合して。義手奪還の作戦会議といきましょう>>


「うむむ……これは……」


「すぐ行く、待っててくれ。行きましょう、イクノさん」


「うっ、うむ。そうじゃな」


 タブレットを見ながら渋い顔をしていたイクノさんを連れて事務室に行くと、机の上には地図にタブレットその他必要そうな機器が乱雑に並べられており、チトセらしい準備万端という感じであった。


「さて、まずは盗られた義手の現在地が分からないと作戦どころでは無いんだけど……イクノ、おおよそだけでも見当は付かない?」


「うむむ……義手に付けておいた追跡用タグは当然のことながら、切られているようじゃしの……何か手掛かりは……」


 そう言いつつ、考え込むような顔でタブレットを操作するイクノさん。追跡用タグは切られてるか……あいつらはプロなんだから、当たり前か。机に置かれたタブレットに表示されたマップ上のこれまでの行動記録を右へ左へスワイプするが、見つかるのはバーゲストが“オシッコマーキング”と称してあちこちの通信用ノードに残した位置情報のみ。あいつめ、いつの間にこんなに残したんだ?この膨大な数を見るに、俺と任務に出る度に残してたのか。御丁寧に可愛らしい肉球まで残しやがって……ん?位置情報……?もしかすると……


「やっぱりだ!あの馬鹿野郎め!」


「どうしたのよ?何か手掛かりでも見つかった?」


「あぁ!見つかったさ、あの馬鹿野郎が残したヒントが!」


 あのバカ犬、さてはこうなる事を見越してたのか?と思わざるにはいられないぜ!興奮気味にタブレットを指差し答える。


「イクノさん、これ見てください!このマップのあちこちにある位置情報タグなんですが、これはバー……義手が近くを通った最後の日時が表示されているんです!この点を線で結んでいけば……」


「この肉球付きの位置情報タグは見覚えが……確かに、付近を通過した時刻がついさっきのがあるのう!これを結んでいった先にあるのは……“東京軍需貨物ステーション”……」


「リソーサー災害後でまともに稼働している路線の一つ、軍用鉄道のハブ駅である“東京軍需貨物ステーション”か……そこから装甲列車に載せ替えて運ぶつもりね」


「わざわざセキブネから列車に載せ替えるのか……?」


「おそらくなんじゃが、駅ダンジョン上空を通らざるを得ないような場所に運び込むつもりなんじゃろう。となると、飛行リソーサーによる襲撃の危険性を考慮しなくてはならなくなる……かつて新宿駅ダンジョンに現れた、リソーサー・ドレイクとまではいかなくても、トランスポーターが襲撃されるのは珍しく無いからの」


「となると、奴らの最終的な目的地も見当がつくってもんね」


「最終的な目的地……?」


「再編派の中核である対機師団が本拠地としている、ナラシノ基地……わざわざ鉄道を使って運ぶような再編派関連施設と言えば、ここでしょうね」


「ナラシノ基地って、あの自衛軍の最精鋭が駐屯してるって基地だろ……そんなところに持ち込まれたら、もう手出しでき無いぜ……」


 落胆する俺に、チトセが背中をバシバシ叩く。


「なーに暗くなってんのよ。“持ち込まれたら”の話でしょ。なら、持ち込まれる前に奪還すれば良いだけの話じゃない。それができるだけの猶予はまだあるんだから」


「その通りじゃ。列車への積み込みには間に合わないにしても、輸送途上なら間に合うじゃろうて」


「ふふふ、つまりは列車強盗ね。一度やってみたかったのよ。これは楽しくなってきたじゃない」


 不敵な笑みを浮かべるチトセを見て、いつもならその無鉄砲さに心配になるところだが、今は何と頼もしい事か。


「自衛軍が走らせてる車両ってことは、普通のじゃ無いんだろ?イクノさん、どんな車両か情報はありますか?」


「もちろんじゃ。今表示するからちょっと待つのじゃ」


 タブレットを素早い慣れた手つきで操作するイクノさん。机中央の投影機から、青白い車輌のホログラムが浮かび上がった。


「これが装甲列車、通称“バレット・トレイン”じゃ。全9輌編成じゃが、1番の問題は動力車の次と最後尾に連結されてる重武装車輌BT-51じゃな。この重武装車輌は前後に四連装対空ブラスター砲・対空ミサイルが装備されており、センサーアレイを積んだ戦闘指揮車両の誘導により、対地・対空へ絶大な火力を提供できるのじゃ」


 拡大される武装とその詳細な表示から、列車に接近する事は困難だというのが一目でわかる。


「おまけにリソーサー出没地帯を突っ切る路線だから、輸送任務の場合はこの“バレット・トレイン”、ちょっとやそっとの事じゃ止まらないはずよ」


「うーん……となれば、どうにかして対空武装の注意を逸らしてる内に、接近して乗り込むしか無いのか……」


 腕を組み悩んでいると、イクノさんとチトセが何やら示し合わしたように頷き合っているのが見えた。


「イクノ……“あれ”を使う時が来たんじゃない?最初の出撃がこれなのは、少し残念だけど……」


「うーむ……確かに丹精込めて整備した“あれ”を、一回の出撃でおじゃんにしてしまうのは残念じゃが……だからこそ派手にいこうかのう!」


 “あれ”とは……?何にしても、装甲列車、“バレット・トレイン”への侵入方法はなんとかなるようだ。待ってろ、バーゲスト。

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