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報告書57「特殊作戦群」

 中型汎用トランスポーター“セキブネ”と言えば、自衛軍はもちろん大企業でも採用されている、操縦性と積載量のバランスが良いという人気のモデル。それが一体俺たちに何の用だって……


「……危ない!」


 チトセの叫びとほぼ同時だった。上空を飛ぶセキブネからけたたましい音が響き渡り、光の尾を曳いて次々と飛んできた光弾が目の前の地面を抉ったのは。凄まじい轟音、幌を支える鉄枠まで揺らす衝撃波、そして舞い上がるコンクリートの破片……実弾なのは間違いない。それを見てイクノさんが急ハンドル、コーギー号は大きく曲がりながら停車した。


「いきなり一体何なのじゃ!?」


「あいててて……借金取りにしちゃ派手過ぎないか?」


「しっ!静かにっ。イワミはいつでも出れるように準備。イクノは伏せてて」


<<ワフッ!?ここはどこワン?……01の骨コードどこいったワン!?>>


 そして、立ち往生するコーギー号の前に、周囲に凄まじい風圧を浴びせながらゆっくりとセキブネが降りてきた。胴体側面の日の丸と、全体を覆う濃緑と茶色の迷彩からして陸上自衛軍の御愛用カラーだが、部隊章も機体番号も見当たらない。本来あるべき位置には、不自然な塗りムラがあるだけだった。


 着陸も待たずに開かれた両側のドアから、次々と降りてくる完全武装の機動鎧甲を着込んだ自衛軍兵士。やたら動きが良く、あっという間にコーギー号の周りを囲むあたり、普通の奴らじゃないのは一目瞭然だ。


「あの装備、機動鎧甲“ノボリハシゴ”じゃない……“対機師団”の特殊作戦群が出てくるなんて、どうやら勝手に駐屯地跡に入ったことの“事情聴取”って訳では無いようね」


「って、一体どうするんだよここから。走って逃げようにも、囲まれちまったぜ」


「まずは相手の出方を見ましょ。ドンパチは後よ……必要あればね」


<<クンクン……この匂いはワンッ!?>>


 完全に着陸したセキブネから出てきたのは……あの顔、あの機動鎧甲……見間違いはしない。対機師団の汚れ仕事担当、“隷犬の騎士”ことナカセだ。


「包囲は完了してるわ。さっさと降りてきて、おとなしくひざまずくか、それとも私の手で地面に這いつくばらされるか選びなさい。どっちを選んでも、みっともなく終わるのは同じだけど?」


 右手にもった剣を肩に担ぎながら、これまた高圧的な口調……まるで今の曇り空みたいな、嫌な女だぜ。


「出るしか無さそうね……イクノはこのまま伏せてて。もちろんエンジンは掛けっぱなし、足はアクセルでね。行くわよイワミ」


「わっ、分かったのじゃ。気をつけるのじゃぞ」


「せっかくの晴れやかな気分が台無しだぜ。あの野郎、何が目的だ?」


<<オル兄ぃ……>>


 チトセに続いてコーギー号から降り、ナカセと正面から対峙する。


「はいはい、降りたわよ。一体何だってのよ?速度違反の取り締まりにしちゃ、ちょっと大袈裟なんじゃ無い?」


「ふふ……やっぱりMM社って、くだらないお喋りばかり。評判どおりね。登録スペキュレイター、イワミ。あなたのその義手、今すぐ差し出しなさい。勘違いしないで。拒否なんて、最初から選択肢に入ってないのよ?」


 ナカセの視線が俺の左腕で止まる。その目の奥に、一瞬だけ獣じみた赤い光が揺らいだ気がした。


<<本当に嫌な奴だワン!>>


「へっ?俺の義手?いや、何でだよ。理由を聞かせてもらおうじゃないか」


 突然の御指名、そして要求に、思わず驚いてしまった。義手を寄越せだ?意味分からん。


「何で?ふふ、理由をあなたごとき坊やに答えるとでも?もちろんそんなつもりは無いわ。イエスか……死か。選ばせてあげるだけ、ありがたいと思いなさい」


「死って……あー、そうだな。間を取ってこんなのはどうかな?」


 左手の義手を前に突き出し、思い切り中指を立ててやった。


「こいつは俺の体の一部なんだよ!生憎、売りもんじゃ無いんでね!」


 俺の言葉を合図に、背後から電磁ロッドを振りかざし襲いくる自衛軍兵士に対し、抜き放ったキ影で応戦する。何が“手を寄越せ”だ!“手を貸してくれ”でもお断りだ!


「あぁもう!いつからそんなに喧嘩っ早くなったのよ!?」


 一斉に放たれたブラスターの射線を避けるためコーギー号の裏に隠れ、スモークグレネードを投擲しつつチトセが叫ぶ。


「へっ!要求が、“全財産を寄越せ”だったら、先に手出したのはそっちだっただろ!」


「出さないわよ、手なんか!野蛮ね!……ブラスターは出すけどね!」


「それでこそチトセだ!」


「とにかく、こうなったら脱出よ!イクノ、後ろの奴らは排除するから、道が空いたら私達に構わずすぐにバック!」


「了解なのじゃ!」


「イワミ!コーギー号が動いたら、何が何でも飛び乗る!」


「分かった!」


 自衛軍兵士がバチバチと音を立てる電磁ロッドを押し込んでくるのを、キ影で抑えつつチトセに答える。こいつら、特殊作戦群所属だけあって相当の手練れだ……だが……!


「これがスペキュレイター……山師の戦い方だ!」


 キ影の柄を握る左手を離し、相手の右手を掴み取る。そしてフルパワーで機動鎧甲が軋みを上げるくらいに捻り上げてやった。たまらず電磁ロットを落としたところを思い切り蹴飛ばし、肩口に峰打ちを喰らわしてやった。


「やれやれ……結果なんて最初から私の掌の上よ。それでも足掻くなんて、哀れを通り越して笑えるわ」


<<演算完了……勝率、百パーセント>>


 それを見て、まるで呆れたかのような素振りをするナカセ。そして手の中にある剣が、分節化し鞭となった。


 いつの間にか降り出した雨が、激戦を予感させた。

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