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報告書56「敬意」

 チトセの奥の手、必殺の多目的ランチャー“クニクズシ”が命中、地に落ちたヌエ。奴に引導を渡す、絶好の機会が到来したという訳だ。


闇黒伝播ノクタリウム・カスケードの準備だ、バーゲスト!奴に指向させるのは……」


<<……!了解だワン!闇黒ノクタリウム粒子生成開始だワン!>>


 機動鎧甲から溢れ出した“闇”がキ影を包み込んだのを確認した俺は、地に倒れもがいているヌエに駆け寄り……


「もう苦しまなくてもいいんだ……!」


「<ヒョロロロ……>」


 その身体に深々とキ影を突き刺した。刀身から溢れ出した黒いコードが見る見るうちにヌエを包み込んでいくと同時に、身体を構成していた残骸は次々と崩れ落ちていった。


<<終わりの無いループの最後だワン……シャットダウンだ、ヌエ……ワン>>


 そして最後に残ったのは、元の残骸の山だった。倒したのか……いや、倒してしまったのか……?これでは俺も奴らと同じ……


<<!?あれを見るワン!>>


 俯いていたところに響いたバーゲストの声に反応し、残骸の山の方を見ると、そこには……


「お前ら……」


 残骸の上に立っていたのは、無数の電霊コード達であった。その中には、あのマウスとハウンドもいたが、みんな欠損も破損も無い、キレイな身体をしていた。そして次々と、光の中に飛んでいき……


「……!」


 気のせいだろうか……そんな彼らが、まるでお礼でもするかのように、こちらに一瞥したのは……そして後に残されたのは、青く光る、キューブ状の情報体だけであった。


「成仏したってわけか……ありがとなバーゲスト。“成仏”を闇黒伝播ノクタリウム・カスケードで指向させるなんて、難しかったろうに……」


<<難しかったワン……でも電子の背中を守るのが、このバーゲストの役目だろ……ワン。というわけで、ご褒美タイム突入だワン!安定化キューブ、いただきますワン!!ガリガリガリ……>>


 もの凄い勢いでカッ飛んでいき、これまた凄まじい速さで安定化した情報体に食らいつくバーゲスト。ヌエに持ってかれた片耳も再生し始めた辺り、きっとコードを取得しているのだろう……傍から見ると、食い意地の張ったバカ犬にしか見えんが……と、そこにチトセが寄ってきて声を掛けてきた。


「やるじゃない。あの巨体を一撃で仕留めるなんて」


「よせやい。全部誰かさんが強烈な一撃で撃ち落としてくれたから、できた事だろ?」


「まっ、それも十二分にあるかしらね?それで……揺らぎは、まだある?」


「無いと言ったら、嘘になるな。でも、俺はこんな事をした奴らとは違う。チトセの言うとおり、いつだって生きるために狩ってきたんだ。だから忘れやしないさ、恐れ、感謝……そして敬意を」


 チトセの問いに、目の前で夢中に情報体にむしゃぶりつくバーゲストを見ながら答える。そして俺は……未だ刀身に残る闇黒ノクタリウム粒子を振って払い、鞘に納刀、小さな礼にせめてもの敬意を込めた。


「それじゃ、私も私なりに敬意を示そうかしら?」


 そう言うと、チトセは散らばる残骸から、まだ使えそうな資源を選んでは、コンテナに放り込み始めた。全くこいつらは……それを見た俺は、もちろんチトセの隣で手伝うことにした。


<<二人とも朗報じゃ!立川駐屯地跡を起点に起きておったトラフィック輻輳が解消されたようじゃ!おかげで、このとおりリンク品質も戻ったわい!>>


「ここまで来た甲斐があったというものね。これでネットワーク問題は解決かしら?」


<<ただのう……リソーサーの出現密度に比例して再送と遅延が増え、各エリアで輻輳のスパイクが出とる。今回は潰せたが、全体としては帯域が飽和して恒常輻輳に移行……つまり、インターネット崩壊へ向かう流れじゃろう……>>


 インターネット崩壊の未来は不可避か……仕方ない、リソーサーの出現により俺たちの世界は何もかもが変わってしまったんだ。一度変わった世界、過ぎた時間を巻き戻すことなんて、一体誰にできようか。


 俺たちは資源を詰めるだけ詰めたコンテナと、ついでに腹一杯になったのかその場で寝てしまったバーゲストを抱え、立川駐屯地跡を後にした。


 外は今にも雨が降りそうな曇り空だが、コーギー号の中は気のせいだろうか、ここへ来た時に感じた重苦しい嫌な空気は消え、今やずっと軽くて明るくなったように感じる……あの音が聞こえてくるまでは。


「雨音に混じって何か聞こえるわ……この音は……セキブネ……?」


「レーダーにも機影ありじゃ。熱紋からも、中型汎用トランスポーター“セキブネ”で間違い無いのう。自衛軍所属だとしたら、こんな所に何の用事じゃろうか……」


「起きろバーゲスト。何だか嫌な予感がする……」


<<むにゃむにゃ……もう食べられないワン……>>


 骨を咥えたままだらしなくシートで横になるバーゲストを揺するが、一向に起きやしない。段々近くなるローターの音に、辺りを眩しく照らすライトの灯……どうやら、“気のせい”とはいかないようだ。

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