報告書52「格納庫」
外見からは、ここ立川駐屯地跡がネットワークに負荷を掛け、インターネットを壊した原因となった理由は分からない。となれば、中に入って原因を調べるしかない……果たして、蛇が出るか鬼が出るか。
「こんなに格納庫があるんだから、どれかには何か手掛かりが残ってるでしょ。とりあえず、入れる場所を探すわよ」
「おっ、おう。こうなりゃ矢でも鉄砲でも持ってこいってんだ」
格納庫の入り口はどれも閉められていたが、攻撃を受けたのか大きく穴の空いた一角を発見、そこから中に入る事にした。中には放置されてボロボロになったヘリ、散乱した整備用の道具と、想像どおり……でも無かったか。
「何だこの、隅に積み上げられたガラクタの山は……」
「放棄された装備品……では無いわね。これ、よく見たら全部リソーサーの残骸よ。もったいないわね、資源は回収されずにそのままよ」
<<この駐屯地の防衛時に倒したリソーサー……とは思えんのう。だとしたら、残骸は格納庫の外に捨てるはずじゃ。まるで外の目から隠すように、格納庫の中に積んでるのは何でじゃ……?>>
再編派が悪さしてると思ったが、まさかリソーサー狩の拠点にでもしてたのか?いや、それこそ対機師団がこそこそとそんなことをやる理由が無い。
「他には特に何も無いようね……次に行ってみましょう」
「次って言われても、隣の格納庫は入り口は封鎖せれてたし、壁に大きな穴も無かったしで、どうやって入るんだ?」
<<今ようやく駐屯地の設計図を見つけてきたとこなんじゃが、近くに隣の格納庫に繋がる点検及びケーブルを通すためのトンネルがあるはずじゃ。グレーチングを外せば入れるはずじゃぞい。少し狭いと思うが、何とか通れるじゃろ>>
「さすがイクノ、了解したわ」
「グレーチング?灰色の何かか?」
「金属製のあみあみのことよ。いいから足元にあったら剥がしなさい」
あみあみ?あれの事か。少し先の足元にあった金属製の格子蓋を外し中に入る。そこは身体を横にすれば何とか入れる幅の、狭くて暗いトンネルだった。
おまけに壁には血痕のように飛び散った油、天井には引きちぎられたように垂れ下がるコード、床には散乱するリソーサーの手や足……嫌な場所だな。その時、突然途切れ途切れの電子音が聞こえてきた。
<<ザザ……ザー……ピッー、ピッ、ピッ、ピー……ザザ……>>
「何だ……混線か……?」
「いえ、これは救難信号……のようだけど、おかしいわね……形式が微妙に違うわ」
<<こちらでも聞こえたんじゃが、出所は不明……専用の短距離通信機器にP2P接続、エンドツーエンド暗号化を組み合わせとるんじゃ、割り込みなんてできるはずがないんじゃが……>>
不気味だ。だが、今はとにかく先に進むしかないな。狭かった通路が終わり、あみあみの天井が見えてきた。どうやら二つ目の格納庫に着いたようだ。
上に登ってみて、声を失った。一つ目の格納庫と雰囲気が全然違う……のはいいが、何だこの異様な光景は。床に並べられたリソーサー……エイプ、ムジナ、スネークそれにムジナ……多種多様なリソーサーの残骸は、そのどれもが鎖で拘束された上で、それぞれ違った攻撃を受けているようだった。あるものは斬られ、あるものは撃たれ、またあるものは潰されているのだから。
「何だこれは……鎖で拘束しているあたり、わざわざリソーサーを捕まえてきて、ここで攻撃して機能停止させたのか?何のために……」
「さあね……でもこの様子だと、何かの実験でもしてたようね。イクノ、ここ見て。演算核にケーブルが挿さってるわ。生憎、ケーブルと繋がってたであろう端末は跡形も無いけど」
<<うむ、見えるぞい。チトセの言うとおり、何かの実験の跡に見えるの……リソーサーの演算核と言えば、バイオコンピューターにノイマン型又は光ニューロ型コンピューターを組み合わせたハイブリッド演算体なのは判明しておるが、中のコードに使われている言語は独特で、しかも複数使用されておるから解読は不可能と言われておるんじゃが……まさか……>>
まさか……って何だ、嫌な予感がするな。
「おい、メタ犬はどう思う?」
<<……ワン>>
「?さっきからどうした、珍しく黙り込んで」
<<ここは……“違和感”を感じるワン。それだけワン。今は何も喋る事は無いワン>>
何だ何だ、いっつも無駄吠えばかりしてるバカ犬がダンマリかよ……こりゃいよいよヤバい場所に踏み込んじまったかな?
<<ザザ……ザー……>>
「何だ、また通信不調か?」
さっきから、奥に行くほどノイズが増えてる気がするが、気のせいか?
「待って……この無線、何か人の声みたいのが聞こえない?」
「え……?」
<<ザザ……ザッ……実験No.105、RAT032へノ刺激投与ヲ開始……キィィィン……コードノ再構成反応確認……ブツン……ザ……ザー>>
いやいやいや、明らかに人の声が入ってる。しかも何だ、この不気味な内容は?しかし、肉声というよりは何か録音って感じの声だったが……
「イクノ、これって……」
<<分からん……じゃが内容からするに、何らかの実験時の音声だったようじゃが……>>
心霊現象ならぬ電霊現象とでも言うのか、いくら何でも怪奇現象が多過ぎるだろ。背筋が寒くなってきたぜ。残る格納庫はあと一つだが、この分だと、何が待っているのやら。出てくるのが蛇や鬼より怖いものなんて、想定してないぞ。




