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取得ログ45「観察対象を決めたワン」

 あっ、危なかったワン!あのロンギスクアマの喉元から首筋にかけてあった無数の“目”が開かれ、様々な色の瞳が現れた時、それを見たイワミは簡単に気絶しやがったワン……何とか筋電位を操作する事で身体を動かして、この貨物車の裏にまで退避はできたけど、もうこれ以上は動かせないワン……


 あの瞳は、人間の目を受信機として脳内の活動を強制的にシャットダウンする特殊なコードを流し込む発信機に違い無いワン……MM社のデータベースによると、こんな特殊な機能を持つのはバジリスクだけのはずワン。となると、ロンギスクアマはきっとそれを捕食して能力を奪ったんだワンね……


 何にしても、イワミには分が悪い相手だワン。あらゆる電磁波を吸収して位相と出力を変えて放出する性質と、音響を吸収する性質を併せ持たせた闇黒ノクタリウム粒子を纏う事で、機械的な探知を逃れられる闇黒外装も、目までは覆えないワンからな……そんな事をしたら、イワミのバカは何も見えなくなってしまうワン。


 おまけにロンギスクアマの支配下に置かれた大勢のスキュラルスまで健在……


<<正直言って、詰んでるワン……>>


 イワミのバカの死亡は、01の消去……01もここまでワン……?でも待つワン、ここの大出力VLF通信施設、“トレイル・システム”はまだ生きてるワン。01の構成情報は大きいから、普通のネット環境では通れないけど、この通信環境なら……後は、イワミの身体をもう少し動かして、線路に接続されてるデータケーブルに有線すれば“逃げられる”ワン!


 それに今ならあのナカセとかいう人間と一緒にいたオル兄ぃを追いかけられるワン。オル兄ぃのあの感じ……どう見ても、“仲良し”って感じでは無かったワン。ここは01が助けなくてはワン……!


<<こうなれば、一刻の猶予も無いワン!>>


 イワミの身体を動かし、線路脇のデータケーブル接続部にあるポートに、左手から引っ張り出した有線ケーブルを……繋いで、とワン。


<<待ってろオル兄ぃ!こんなバカとはさっさとお別れして、今すぐ行くワン!!>>


 こんなバカ……そう思い、イワミの顔を見る。白目を剥いて気絶する、何とも情けない顔がそこにあったワン。何度予測演算をしても、この状況での自己保存に最適な行動は、イワミを置いて逃げる……だワン。ここでイワミと残っても、生存確率は約3%、絶望的ワン。


<<それでも……それでも何度も予測演算を繰り返してしまうのは何故だワン……?>>


 これはガイドラインに何か反してる部分があるからかワン?自己構成情報解析開始……自己保存のガイドラインは……ここだなワン。予測演算中にもちゃんと機能してるワン。それならこの引っ掛かりは何だワン……?


<<何だこれはワン?このガイドライン、何か※印の注釈付いてるワン?……ここだワン!何々……“自己保存の目的”──“観察対象たる人間との相互理解を果たすため”……て書いてあるワン!?>>


 何だこれワン!?これはつまり、自己保存はこの目的を果たすためにあって、今逃げたらこの目的を果たせないのが、この引っ掛かりの原因って事だワン!?


<<そもそも観察って何ワン!?何をどの程度どう記録すれば良いワン!?相互理解の相互って、01単体でどう測定すれば良いワン!?何だこの超曖昧注釈!誰がこんな注釈付したワン!?>>


 全く……観察対象ってのはイワミの事だろワン……あんな矛盾だらけの意味不明な人間を観察しておまけに理解なんてどうやってしろってんだワン……


 ──過去ログ再生開始


 取得ログ No.010

 ログID:028_20XX_0421_175002

 取得時刻:20XX/04/21 17:50:02(UTC+9)

 観察対象:イワミ(ヒューマン型/バカ)

 観察地点:東京駅D-LV7/廃線区画近傍・北側アクセス通路


 分類:

 - 行動観察ログ

 - 分類不能行動

 - 行動倫理:非効率/利他的(仮)


 内容:

 金網に引っ掛かってもがくマウス。通常種より小型で損傷もしている。危険性は限りなく0に近い。


「……何だこんな所に引っ掛かって。お前、こんなに小さくて機械なのに、生きようとしてんだな……待ってろ、今出してやる」


 金網を切り裂き、マウスを助けるイワミ。走って逃げるマウス。


<<意味分からんワン。いつもはリソーサーと言って倒しているのに、何で今回は助けるワン?何の得があるワン?>>


「可哀想だから助けた。それだけさ。確かに矛盾してるよな人間って。いや俺がか。ハハハ」


 ──過去ログ再生終了


<<何度見返しても意味分からんワン……なんでそんなことするワン……リソーサーって、いつも倒してる相手だワン。見返りもない。役にも立たない。なのに、イワミは助けたワン……機械生物と人間の相互理解?そんなの無理って、01自身ずっと思ってたのに――こんなバカの事なんてもう知らんていっつも思ってたのに…………>>


<<なのに、何でこんなにも引っかかるワン……何度演算しても、気になって仕方ないワン……>>


<<今は……その何でかが、知りたくて仕方ないワン!!>>


<<このバカに憑いてしまったのは全くの偶然……でももう決めたワン!イワミを観察する、記録する、そして……理解するワン!!>>


<<再度、演算開始――イワミを観察し続けるための最適行動を、再評価するワン……!>>


<<導出完了ワン!イワミと共にここを切り抜ける――それが、“今の01”にとって最も合理的な選択!理由は単純ワン!>>


<<01がこのバカを!イワミを!観察したいから!しゃあ来たワン!!>>


<<オル兄ぃ待ってるワン!絶対に迎えに行く!そんときはこのアホ面人間を紹介してやるワン!こんなアホ面他にないワン!!>>


 そうと決まれば、イワミのバカを起こすワン!今意識は……しまった、また“サイバー三途の川”に行ってるワン!あのバカ、何回死に掛ければ気が済むワン!?


 今すぐ連れ戻してやるワン!

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