報告書43「隷犬の騎士」
ササヤさんのそっくりさん……ササヤさん(仮)と、ナカセと呼ばれた、再編派の謎の人物の対峙。ササヤさん(仮)の背中から、天使の翼……翼状に展開された、七色に光る各種ノードが生えてるあたり、“ヤる気”のようだ。それにしてもこの七色の光、ゲーミングパソコンかよ。
「再編派構成体ナカセに告ぐ。当該通信拠点の稼働は、中枢接続に対する強制介入と見なされます。
私は“あの方”の代理に基づき、これを阻止する任を負います。以降の活動継続は、観察対象から排除対象への分類更新を意味します」
「相変わらず大げさね。排除対象?最初からそのつもりだったくせに」
「対象の排除開始」
そう言って、手に剣を持ったと思った次の瞬間、一瞬にして姿を消したササヤさん(仮)が次に現れたのは、ナカセと呼ばれた人物の背後だった。瞬間移動による死角からの攻撃!?こんなの避けれるはずが……
「AIが演算で弾き出した最適な攻撃が不意打ち?……笑えるわ。安直すぎて」
背中からの奇襲にも関わらず、ナカセはいつのまにか抜いていた、なにやら妙に機械部品のついた剣で完全に防御していた。それも手だけを後ろに回し、ノールックで。なんだあいつ、後ろに目でも付いてんの?
「チトセ、イクノさん、目的地に到着したけど、例のササヤさん(仮)と、再編派のナカセとかいう人物が戦いをおっ始めやがった」
<<ササヤさん(仮)とナカセ……?ナカセって、あの“隷犬の騎士”!?対機師団もいよいよ本気ってわけね……こっちもこれから制御室に突入するところだから、イワミ!あんたは戦いに巻き込まれる前に、直ぐにその場を離れるのよ!>>
「そうはいくか。あのナカセとか言うのがイジってた端末を回収できれば、奴らがここで何をしていたのか分かるってもんだ。大体、ナカセ?隷犬の騎士ってなんだ?有名人?」
<<隷犬の騎士ことナカセ……かつて自衛軍でも指折りのエリートじゃったんじゃが、ある時を境に表舞台から姿を消し、今や対機師団の特殊部隊群所属として、数多くのリソーサーや邪魔者を血祭りに挙げているという奴じゃの。表舞台から姿を消した……つまり出世コースから外れた理由は、何らかの“実験”に参加したんじゃが、失敗したから……という噂じゃ>>
何らかの実験ね……再編派とかいう、いわゆる秘密結社のやる事だ、どうせろくでも無い実験だったのは想像に難くないな。何にしても、あの完全に人間辞めてるササヤさん(仮)と対等にやり合えてるんだ、相当の手練れなのは間違いあるまい。
テレポートで移動して死角に回り込む、攻撃を“姿を消して”避ける、はたまた分身して目くらましする……ササヤさん(仮)はやりたい放題だな。驚きなのは、それら行動に全て完全に対処できているナカセの方だ。なんであいつには、瞬間移動後の出現先がわかるんだ?
「何にしても、二人でよろしくやってる内にここは頂くもん頂いちゃいますか」
確かにあんなのに巻き込まれたら、たまったもんじゃないが……こちらには目もくれてない今がチャンスだ。そろりそろりと、ナカセがイジっていた端末に近づく。
「いい加減起きろメタ犬。再編派の端末を回収するから、お前も手伝え」
<<ふわぁぁん……もう朝ワン……?って、“あいつ”がいるワン!隠すワン!早く01を隠すワン!!>>
伸びをしたかと思ったら、驚いたように飛び跳ね、転げながら足元に隠れるメタ犬。慌ただしい奴だな。
大体、メタ犬がビビるあいつってササヤさん(仮)の方のようだが、何をそんなにビビるんだ?
「いいから行くぞ。二人仲良くヤりあってる今がチャンスなんだよ」
見ると、激しく火花を散らしながら鍔迫り合いをしている最中だった。向き合う二人の顔、あくまでも無表情なササヤさん(仮)と、冷静を装いながらも隠しきれない狂気が浮かぶナカセ……何にしてもヤバい二人なのは間違いない。
そして激しい衝撃波を走らせながら、弾け飛ぶように距離を取る二人。
「天使の形して、やることは姑息……目障りなその翼、へし折ってあげる」
その言葉と共に、ナカセが持つ剣の刀身が分節化、その姿を鞭状へと姿を変えた。ギミック武器……カッコええやんけ……
そして、身にまとう機動鎧甲の左の肩に乗る犬の頭、その片目が赤い光を放ち始め……
<<観測開始……演算中……対象ノ破壊可能……>>
何やら声が聞こえてきた。この響き、バーゲストの語り口にそっくりだが……
<<このノード署名……もしかしてオル兄ぃ!?ほんとにほんとにオル兄ぃ!?一体どこで何してたんだワン!!>>
「ば、バカやろう!どこに行くつもりだ!?巻き込まれるだろ!」
突然そう叫んだかと思うと、ナカセに向けて走り出すメタ犬を必死になって止める。クソッ、なんて力だ!義手の動作制御をイジってまで振り解こうとしてきやがる!
<<放すワン!オル兄ぃが!オル兄ぃがあそこにいるワン!01はあの時、離してしまったワン!また置いてくのはイヤだワン!!>>
暴れるバーゲストを何とか抑え込んでいたが、ふと例の二人がこちらを見ているのに気がついた。わっー!見つかっちまったじゃねぇか!
「……待機中コードに反応あり。生体内部より干渉信号、確認。この個体……内部に、憑依型が“共存”している……!?」
「この信号……ただの迷い込みかと思ったけど……あなたの中にも“いる”のね」
「あははどうも……お構いなく……」
暴れるバーゲストを抱えて、そろそろと後退りする。なんだ二人とも。俺を見ているんじゃなくて、まるでメタ犬を見ているような……そんな目付きをしてやがる。
こちら目掛けて二人がやや腰を落とした臨戦体制になる。メタ犬はこんなんだし、もうダメだ……!と思ったその時、激しい衝撃、轟音と共に壁を突き破って巨大なリソーサーが現れた。




