報告書42「トレイル・システム」
チトセにこき使われながら、スキュラルスの資源を一匹残さず回収し終えた。普段ならこれだけで一仕事終えたから、もう帰ろうとなるところだが、今回に限ってはそうは問屋が卸さない。
「いいわね、このコンテナの重み。お金の音がジャラジャラ鳴ってるようじゃない」
<<骨コード付き肉データも一杯でウハウハだワン!海産物系は独特な“歯応え”があって、やめられないワン>>
「金も海産物もいいが、休みも欲しいぜ全く」
<<お楽しみのところ悪いんじゃが、調査して欲しいのはその少し先に行ったところの線路なのじゃ>>
イクノさんがスキャナー上に示した矢印の先には、確かに線路が。ここは駅から大分離れてるはずだが?
「何でこんな所に線路が?」
<<かつて物資運搬用に使われていた線路じゃ。地上だけじゃ無く、地下にも相当数走ってるのじゃぞ>>
なるほど、歴史のある軍港だけあって、昔は貨物列車で砲弾やら物資やらを運んでたって訳か。
「それで、線路の調査ってのは何すればいいわけ?異常電波の発生源の調査なら、通信塔でも探した方がいいんじゃない?」
<<普通の通信なら高い塔を立てれば済む話じゃが……通信相手が、例えば水中奥深くにいるとしたら、話は変わるじゃろ? そうなると、使う電波もアンテナの構造もまるで違ってくるというわけじゃ>>
何のこっちゃ?
<<とにかくじゃ、イワミのスキャナーに磁場可視化フィルムソフトをインストールしたのでの、磁場の発生元を見てくれんかの>>
「うわっ……磁場が視える!?これ、線路沿いに……光が走ってる!?」
<<やっぱりじゃのう。となれば、お次はチトセじゃ。スキャナーの多機能センサーでその磁場の周波数スペクトルを調べて、ついでに構造スキャンじゃ>>
「オッケー、今読み取り中……スペクトルデータ、送信っと。構造は……あら? これ、線路にデータケーブルが直結してるわよ。おかしいわね……」
<<そうじゃろうそうじゃろう……これはもう、線路そのものをアンテナにしたVLF通信施設が再稼働したと見て間違いないようじゃ。“トレイル・システム”実在しておったのか……>>
「“トレイル・システム”って何ですか?普通の通信とは違うんですか?」
<<“トレイル・システム”というのは、物資運搬用線路を電波受信用に流用したアンテナ構造じゃ。通常の通信じゃ届かん深部まで波を通すためのもんじゃよ。計画倒れと聞いておったんじゃが、完成しておったとはのう……>>
「まっ、無い無い言って実はあるなんて、あるあるじゃない?特に軍事施設ならなおさら。それで、こんな大規模な施設が勝手に動き出す訳ない以上、動かした奴がいるはずよ。イクノ、その犯人がいそうな場所の見当つくかしら?」
<<うむ、候補は二つじゃの。一つは司令部跡。制御室があるとしたらそこじゃろう。もう一つは地下にある第六搬送線の終端部。他に比べて特に電波が強いのじゃ。何か潜んどる匂いがするわい>>
行き先は二ヶ所か。普通ならこんな何が出てくるか分からない場所だ、二人で一ヶ所づつ順に回るところだが……
「手分けしていくわよ。相手は再編派、つまり人間なら現場を抑えたいもの。となれば、時間との勝負よ」
「そう来ると思ったぜ。それでチトセはどっちに行く?」
「司令部跡に行くわ。地上の建物なら、いざとなったら爆破解体できそうじゃない?」
全く末恐ろしい考えだが、全くもってチトセらしい。
「となれば、俺は地下にあるという第六搬送線の終端部とやらだな。イクノさん、ナビお願いします!」
<<任せるのじゃ。スキャナーを通してガイドを表示したので、それに沿って進むのじゃ>>
「それじゃ出発ね。何かあったらすぐ連絡するのよ。と言っても、電波が強い所に行く以上、通信が切れるかもしれないから、そしたら無理しないのよ!」
「分かってるっての。そっちこそむやみやたらに爆破するなよ!」
司令部跡方向に向けて駆け出すチトセの背中を見送る。単独行動なんて久しぶりか?俺も行くか……と思い足元を見ると、またメタ犬がへそ天で寝てやがる。
<<現在処理ちゅー……もう食べられないワーン……>>
「全く、珍しく静かだと思いきや、寝てたのかよ。ほら行くぞ」
揺さぶっても起きやしないので、仕方なく手で担いで行く事にした。全く食い意地の張った犬だな……にしても、こいつ何を食ってるんだ?……いや、“何かを食っている”なんて感覚、どこから湧いた?こいつはデータ上の存在のはずなのに。
頭に浮かぶそんな疑問を払いつつ、イクノさんが表示した矢印を辿って行くと線路はやがて地下に入り、暗いトンネルをさらに進むと、放置されたと思われる貨物車が何台か停まっている、だだっ広い地下空間へと行き着いた。
「基地の地下にこんなだだっ広い空間があるなんてな。線路がたくさん並んでて車両基地みたいだが、これが電波が強まってる原因か?」
なんて思っていると、奥に人影が見えたので慌てて隠れる。こっそり見てみると、人影が身に付けているのは、片方の肩に黒い犬の頭のような意匠の追加パーツが載ってる以外は、あの灰色の装甲は最新鋭の自衛軍正式採用の機動鎧甲“ノボリドウ”だな。何やら端末を操作しているようだが、ぎりまだ見つかってない、と思っていたが、その人影がこちらに振り返り、その美人でありながらどこか冷たそうな顔が見えた。
「やっとお出まし? ……まあ、予定通り観測範囲に入ってきただけだけど」
やべっ、見つかった!?こうなれば、出るしか……
「ぎゃあっ眩しっ!? 目がぁ!なんで!?なんで七色!?これ絶対目に悪いって!!」
あまりにも突然の眩い七色の光に目が潰れるかと思った。暗視装着が自動でシャットダウンしていなければ、完全に失明一直線だったぞ!
あまりにも神々しく輝く光に対して手をかざしながら目を開くと、そこにはあの日見た、懐かしくも目新しい存在がいた。
「ササヤさん……のそっくりさん!?」
だがその存在は、驚く俺には一瞥もくれず、奥の人影に冷たく言い放った。
「中枢代理ユニットより通告。再編派構成体ナカセ、行動目的および通信施設起動の意図を明示せよ。未応答時は観察対象として分類を更新する」
「断ると言ったら? ――AIなんて、考えてるつもりで実際は用意された選択肢の中を回ってるだけよ」
再編派と中枢の代弁者、因縁のある二人が対峙する……完全蚊帳の外の俺を置き去りにして。




