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報告書41「リソーサー・スキュラルス」

 中破したスキュラスは、確かに火花を散らし、体も傾いていた。だが、完全に停止するまで油断できないのがリソーサーだ。つまり、動いてる限り生きている……


 群れが一斉に中破した個体を囲み、爆速パンチを放つ。金属が砕ける音、有機物が飛び散る音が辺りに響き渡る。そして、見るも無惨な姿になったその一体を、周りが一斉に……食い始めたのだった。バキッガリッジュルル……そんな耳障りな音を響かせながら。いや、貪り始めたというべきか。なんせこの勢い……


「あっ、な……仲間を殺して……まだ生きてた仲間を殺して喰ってやがる……!正気かよあいつら……!?」


<<リソーサーの共食い……一部の種で確認されている行動じゃが、まさかデータリンクして群体で動くスキュラルスもするとは知らんかったの……>>


「こ、こんなの絶対イカれてる……!」


<<イカれてなんか無いワン。共食いは、最も効率的な資源循環ワン。損耗して捕食しやすい個体から“材料”として再配分、そこに敵も味方も必要無いワン……人間には、見てて気持ちのいいもんじゃ無いかもワンね>>


 最も効率的……リソーサーは常に最適な行動を演算で弾きだすとは聞いたが、その結果が、この共食いだってのか……しかも、共食いした個体は外殻がより一層派手な虹色になりやがった。なんなんだこいつら一体……


「あんなん見たら、あたしだって気持ち悪いわ……でもまだ終わってない!あいつらを倒すには、群れを分解して各個撃破、それしか無いわね。イクノ、聞こえてる!?データリンクを混乱させるスキュラルス用のマルウェア、即席でいいから用意できる!?あんたなら楽勝でしょ!」


<<お、おう!任せておくのじゃ!まず必要なのは、スキュラルスの構成情報じゃな……えーと確か、旧資源庁から流出した機械種コードバンクの中に……あったこれじゃこれじゃ。エビ系群体、群体制御プロトコルは甘いようじゃのう……カスケード・フラット仕込んで演算順序を潰して、あとはトポロジー撹乱して……っと、できたわい!>>


「サンキュー、イクノ!ようしイワミ、聞こえたわね!これをどれでもいいから、スキュラルスに送り込むのよ!」


 矢継ぎ早のチトセの指示とイクノさんの高速対応が否応にも、ショックで呆然とした頭を現実へと引き戻す。


「……はっ、送る、送るって、どうやってだよ!あいつらとはネットワークが繋がってるわけじゃ——」


「その手のキ影は飾りなの!?あんたの腕なら奴の演算核に刺し込めるでしょ!あとはそれを導体にして、イクノがマルウェア送ってくれるわ!」


 そうか!理屈は知らんがキ影は導体としても優れているから、演算核に刺せばコードを吸い出せたように、流し込むこともできるはず!さすがはチトセ!……ん?いや待てよ?


「何でキ影の事そこまでチトセが知ってんだ!?」


「会社の備品は私の備品、詳しくて当然でしょ?」


「ふ、ふざけんな!これだけは俺の唯一の——」


「来るわよ!」


 くそったれめ!目の前に走り寄るシャコ三体の、ギョロギョロと左右非対称に動く気味悪い眼柄目掛けて横一文字に払う。怯んだ隙に内一体の背中にジャンプして飛び乗り、思い切りキ影を突き刺してやった……が、手応えなし。くそっ、演算核はどこだ!?


<<ワンワン!このリソーサーの演算核は、眼柄の後ろ辺り、前脚の付け根辺りだワン!>>


「やるじゃないかメタ犬!」


 背中を突き刺したシャコに早速群がる後続のシャコ。その内の一体がこちらに背中を向けて共食いし始めやがった。これはチャンスだ!メタ犬の言う場所目掛けて突きを放つ。手応えあり!間違いない!


「イクノさん、今です!」


<<任せるのじゃ!>>


 キ影に走る雷、それがシャコに流れると同時に、あの気味悪い目が不規則に明滅し始めた。


<<チトセ、マルウェア送信完了じゃ!>>


「よくやったわ二人とも!お次は視界を潰す!私のお手製グレネード、効き目は保障付きよ!」


 そう言うとチトセは、次々と腰にあったグレネードを投擲、それらは地面に落ちるのと同時に勢いよく煙を吹き出し始めた。


「私は右、あんたは左!いくわよ!」


「おっ、おう!」


 チトセと一緒に煙による完全な無視界の中に飛び込む。チトセのスモークグレネードが吹き出す煙はただの煙では無く、熱探知やレーダーも妨害するらしく、シャコは全くこちらに気が付いていない。いや、それどころかイクノさんのマルウェアが効いているのか、あらぬ方向を向いてる奴までいる始末だ。これなら正面からシャコパンチを受けずに済むな!


 煙が晴れる頃、激闘の果てに最後の一匹にとどめを刺したのは俺とチトセ、ほぼ同時だった。


<<周囲に反応無し、終わりのようじゃ……さて>>


<<わしの即席マルウェアじゃが、まずデタラメに発見信号をばらまく。それで注目を集めつつ、自己が正常であるという状態信号も同時に発信する。これで“目立つのに異常無し”という判定になって、他の個体からは排除対象にならん。データリンクで群れ全体にその情報が拡散すれば、識別系は混乱して処理が破綻する……つまり“敵がどこにいるか分からなくなる”のじゃ。うむ、即席とはいえ中々──>>


「良くやったわ二人とも。こんだけの数のスキュラルスの素材なら、まあまあの儲けになるわよ。もちろん売り値次第だけど」


「さいでっか。わしゃもう疲れたぜ」


 相変わらず現金なチトセを見つつ、キ影を鞘にしまう。とその時、妙にはしゃいでいるメタ犬が目に入った。なんだなんだ、尻尾をそんなに振り回して。


<<うおおおお!?骨コード付き肉データの山盛り大盛りおかわり付きぃ!?もうこんなに海産物は食えないワン!>>


 超振動ナイフでスキュラルスの残骸から資源を切り取るチトセの横で、何やら残骸に対してここ掘れワンワンをするメタ犬。骨コード?肉データ?一体なんじゃそりゃ。


「ぼーとしないで、あんたも資源回収手伝う!」


「へいへい」

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