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報告書39「異常電波原因調査」

 再編派の捜査をしようにも、利権・情勢・力関係……諸々の絡みで直接には動けないという観察処……代わりに実働を担って欲しいというのが、我らがMM社への、“協力要請”であった。


「御助力ねぇ……外部委託てことは、危なくなったら知らぬ存ぜぬで切り捨てる気なんでしょう?」


<<もちろんだ。俺たちはそれぞれの目的のために動く対等な立場。ギブアンドテイクな助け合いはあっても、一方的に援助する仲じゃあ無いだろ?>>


「ふん……その正直な物言い、気に入ったわ。いいわ、やるわよ」


<<これで交渉成立だな。契約書はもちろん無しだ>>


 チトセの鶴の一声で俺達の方針は決まった。もちろん反対なんてありゃしない。再編派が憑依型リソーサーを集めているとなれば、こいつは俺にとっちゃ他人事じゃあ無いわけだからな。それに……ササヤさんを見つける、これは俺達の絶対命題なんだから。


「それで、次はどこに行けっていうの?」


<<話が早くて助かる。横須賀駅ダンジョンエリアにある、旧横須賀基地跡を知っているか?>>


「元々は自衛軍と米軍の基地があった場所じゃろ?米軍はリソーサー災害の折に安保条約が改定されて撤退、自衛軍もリソーサーからの防衛を諦め遺棄したそうじゃから、今や無人地帯、リソーサーの遊び場になっておると聞いておるが……」


<<その無人地帯のはずの場所で、ここ最近、異常な電波が観測されている。しかもそれが、対機師団の部隊が非公式に展開し始めてからとなれば、再編派の意図を調べない手は無いだろう?>>


「確かに怪しいけど、駅ダンジョンへの出入を管理してるのは自衛軍なんだぜ?そんな怪しいところ、入れてくれんのかよ?この前の博物館動物園駅跡はたまたま無人だったから入れたけど……」


<<それは手を打ってある。こちらから出所が分からないようにして依頼を出すから、それを受注する形で行ってくれ。幸い、異常電波に引き寄せられて様々なリソーサーが蔓延る危険地帯に今やなってるんだ、再編派も非公式で展開している以上、形式さえ整っていれば入れるはずだ>>


「危険地帯ねぇ……これは報酬に危険手当分を上乗せして貰いたいところね」


<<そのがめつさはガッツの現れだと受け取っておく。それじゃあ異常電波発生原因調査、よろしく頼んだぜ>>


 通話終了……横須賀駅ダンジョンかぁ。横浜駅ダンジョンに比べれば小規模らしいが、隣接する基地跡は広大らしいからな。こりゃ今までと勝手が違いそうだ。


「早速S.O.U.R.CEから来たウチ御指名依頼の受注完了じゃ。すぐに出るんじゃろ?」


「もちろんよ。補給物資とお菓子をコーギー号に詰め込んだら出発よ」


「お菓子?」


「行き先が横須賀駅ダンジョンとなれば、少し長旅になるんだからお菓子は必須でしょう?」


 この図太さ、全く頼りになるぜ。毎回言ってる気もするが……そうだ、良い機会だ。棚に隠してあるチトセのチョコレート系お菓子全部持ち出してやる。


「いつまで寝てるんだ。そろそろ起きろ」


 床でへそ天鼻ちょうちんで爆睡してちるメタ犬を足で揺り動かす。所詮は映像、データでしか無いから感触は無いが、ちゃんと揺さぶられている様は表現されるんだから、全く技術を感じるぜ。


<<むにゃむにゃ……こんなに海産物は食べれないワン……いや、違う、食べてくるワンッ!? ……ワンッッ!?こ、ここはどこだワン!? ……夢か……夢のくせにやけにリアルだったワン……>>


「なに寝ぼけてるんだ。にしても、夢の中でも食い意地の張った奴だな」


<<バカにするなワンッ!01の夢は情報解析の宝庫ワン! あれはただの食い意地じゃなくて、未来予測型アルゴリズムが見せた警告だワン!>>


「分かった分かった、とにかく行くぞ。頼むからコーギー号の中ではオシッコするなよな」


 機動鎧甲を着込み、コーギー号に乗り込んだらいざ出発。かつてはカレーにハンバーガーで有名だったらしいが、今となってはそれらは夢のまた夢か。全くリソーサーのせいで名物も今や幻か。


「元は横須賀駅ダンジョンエリアは海辺という事で海洋系のリソーサーが多いようじゃが、あの通信でも言っておったとおり、異常電波のせいで最近は生息域に変化があっての、見慣れないリソーサーの目撃事例が増えておるようじゃ。それも中々手強いのもいるとか……」


 運転しながら喋るイクノさん。さすが準備に余念が無いな。それに対して、出発早々にお菓子の袋を開けるチトセの行動の早いこと。おわっ、投げてよこすなっ。


「リソーサーは数多くいるけど、電波に引き寄せられるリソーサーなんてのは大抵電子戦を仕掛けてくるものよ。気をつけなさいよあんた」


「……何で俺に言うんだよ」


「あんたが電子戦とサイバー戦それに精神攻撃に弱いのは周知の事実だからよ」


「悪かったな。そういうのは俺に向いてないの。でもまあ、次からは仕掛けられる前に叩っ斬ってやるぜ」


「はいはい、威勢だけじゃ死ぬわよ。弱点があるってのは悪い事じゃ無いわ。悪いのはそれを自覚できていない事よ。自覚できているのなら……動きようもあるんじゃない?私達はチームなんだから」


 んなこと分かってるわ……分かってるっての……はぁぁ、精神攻撃にサイバー戦で死に掛けたのは何度もあるから、チトセの指摘にはぐうの音も出やしねぇ。


 車外を眺めていると、ふと肩にのしかかるような疲労感に襲われる。そのまま目を閉じかけたその時……バーゲストが突然吠えたかと思うと、助手席の窓に飛びかかってガリガリ始めやがった。


「ぬおおお!そこに骨付き肉データがあるのにィィィワン!!」


 ……あのバカ犬、また見えない“何か”に涎垂らしてやがる。外には何も無いってのに。


「……もう寝よう」

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