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取得ログ37「イクノご主人との1日ワン」

 アナウサギが潜った先、博物館動物園駅跡からなんとか無事に戻って数日後の事だワン。あんなに抵抗を示していたイワミが、なんと義手を外してイクノご主人に整備を依頼したんだワン。ティンダロスとの問答バトルで、何か吹っ切れたところでもあったのかもしれないワン。


 義手を託す際、イクノご主人に“この義手は、もう俺の身体の一部だから……よろしくお願いします”と神妙にしてたのが特異な態度だったワンね。いつものイワミはふざけっぱなしで、全く手の掛かる人間だワン。


 それでこのイクノご主人のナワバリ(仕事場)でもあるガレージにまで連れてこられたのはいいけど、そう言えばイワミから離れるのなんて、初めてだワン。


 義手がイワミから離れても、01はすぐには死なないワン。とは言え、01専用の遊び場に改良したイワミの脳内を間借りできない以上、低負荷モードでの活動しかできないワンね。今日はちょっくらイクノご主人の情報収集といくかワン。


「あのイワミが、義手を外しての整備依頼とはのう……今まではイワミが装着したままのメンテじゃったからのう、良い機会じゃ、あれをインストールしようかのう!」


 そう言うと、義手に何本ものケーブルを差し、パソコンに映る画面を見ると、呆れたような顔になるイクノご主人。


<<わひっ!?今やこの義手は01のオウチなんだワン!変な事は勘弁して欲しいんだワン!>>


「ううむ……やはり一部がブラックボックスになっておる……一体なんなんじゃこれは?何にしても、悪さはしておらんようじゃが……」


 当然だワン。悪さどころか、あのしょっぼいただの人間が大戦果を挙げられるのも、全部この01のお陰だワン。


「やはりじゃ、ログの裏にゴミが溜まっとる。こうゴミだらけじゃと、メモリが消費されて動作が重くなるじゃろうに……」


「全く、わしの作った義手を身体の一部と思ってくれるのは嬉しいんじゃが、それなら身体の一部のように気使って欲しいものじゃ」


「うむむ、じゃが不思議と最近は動作誤差が少ないようじゃのう。ははん、さては……やっぱりじゃ。このブラックボックス内の“何か”が、活動電位の読み取り誤差をリアルタイムで修正しておったのじゃな」


「やはり気になるのは、このブラックボックス内じゃ。いっそのことバラすかのう!」


<<まっ、待つワン!降参、降参ワン!だから01をバラすのはやめるワン!>>


 ほら、仰向けになってお腹を見せてるんだワン!もうこれ以上は許すワン!


「まっ、やめとこう。義手はあいつの命綱なんじゃから。全く、なんでこんなになるまで整備に出さんかの……戦いでは一瞬の誤差が命取り、このブラックボックスでの調整が無ければ、死んでおったかもしれんじゃろうに……」


 ヒヤヒヤさせるワン。それにしても、この義手はイワミの命綱で、それだけでなく、01がいて初めてイワミは生きられる……か……ワン……


 メモリごちゃごちゃするワン。お次はなんだワン?こうなれば矢でも鉄砲でも持って来いだワン!


「それではメモリ内のゴミ掃除といこうかのう。溜まったログの抜け殻やら、重複キャッシュやらを一掃じゃ」


<<や、やめろワン!01の神聖なるメモリ領域に勝手に触れるなワン!そこは……そこは先週血と汗と再起動を重ねて手に入れた“骨コード”を丁寧に埋めたログの聖域なんだワン!!>>


「お次はデータクレンジングじゃ。実働ログの中からノイズや異常値を弾いて、最適化された学習パターンだけ残す……地味じゃが、大事な作業じゃて」


<<あっ、こ、こらワン!何を勝手に切っとるワン!?それは01のログの毛並みワン!あえて残したデータのクセワン!それを整えるとか、アイデンティティが消失の危機ワン!!>>


「最後に、これまでの動作ログを元に作った、新しいファームウェアをインストール……と。これで動きがよりスムーズになるってもんじゃ」


<<わっぷ!?な、なんか流れ込んでくるワン!?や、やめろワン!熱っつ!?アツアツのデータが脳みそにまで染み込むワン!お風呂!?これ絶対お風呂ワン!?背中ゴシゴシしないでワンッ!!>>


「……インストール無事完了じゃ。とりあえず再起動じゃのう」


<<うおっ!?ちょ、熱風くるワン!?お風呂で水攻め、ドライヤーで火攻めなんて、鬼だワン!毛並みが、記憶領域がバサァッて……そんな根元まで……そこ未ログ領域だってのワン!>>


「再起動も完了じゃ。これでイワミはますますこの義手が気にいるじゃろうて」


<<……くっ、なんかスースーして身体が軽い……ぐぬぬ、敗北ワン……ブラッシングがこんなに気持ちがいいとは……知らなかったワン……>>


 ふうふう……死ぬかと思ったワン……でも身体が……身体が軽いワン!おまけに気分爽快、何かが体にみなぎるのを感じるワン!


「イクノさーん、俺の義手の調子どうですか?それと俺のタブレット見ませんでした?」


 この聞き覚えのある声は……やっぱりだワン。あの間抜け面はイワミだワン。全く、いつ見ても飽きない面白い奴だワン。


「おぉイワミ、丁度良かった。今新しいファームウェアを義手にインストールしたところでの。ちょいと動作テストしてくれんかの?」


「おぉっ!そいつはありがたい!ぜひ試させてください!」


 受け取った義手を腕先に取り付ける。試しに掌を握って開いて、腕を回したりしてみるが、明らかに前より軽い!


「すごいですよイクノさん!こんなに変わるもんなんですね!」


「これが整備の凄さじゃ。お主が義手を外したくない理由は何となく分かるが……次からはなるべく定期的に整備に出すのじゃぞ」


「すんまへん。次からはこまめにメンテに出しますよ。義手がない時の痛みも疼きも、前より大分マシになったし……それに、これも自分が生きてるからって、思えるようになったんで」


「そうか……それは良かったのう」


「ところで、俺のタブレット見ませんでしたか?見当たらなくて……」


「おぉ、それならそこの机の上にあったはずじゃ」


「あぁっ、あったあった。良か……あっー!?」


 見つけたと思ったタブレットを見て、思わず叫んでしまった。なんとメタ犬が、俺のタブレットにオシッコを掛けているではないか!しかもご丁寧に片足としっぽを上げて!


<<ふぅ……マーキング完了だワン……!これでここは01のシマだワン>>


「俺のタブレットに何てことしやがるクソ犬!って、何だこの通知……ログ追加……?“電柱000:はじめてのマーキング”って何だよこれ!肉球アイコンまで付けやがって!何でこれ消せないんだよ!」


<<当たり前だワーン!01の“ナワバリ”なんだから、消せるわけ無いワーン!ワンワン!>>


「このクソ犬がぁぁあ!」

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