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報告書2「ジェヴォーダン」

 最新鋭の軍用機動鎧甲を身にまとい、これまた最新鋭の武器を手にした勇壮なる男達と女達が次々と駅ダンジョンから出てくる。しかしそのきらびやかな外見とは裏腹に、表情は皆暗く沈みきっている。高輪ゲートウェイ駅ダンジョンの中継でホロモニターに映る自衛軍兵士の顔は、明らかに疲れ切っていた。


「発表じゃしきりに目標の居場所を特定しただの追い詰めただの言ってるけど、本当は何の成果も上がってないのは一目瞭然ね」


 煎餅をバリバリ食いながら足を組んで見るチトセの格好には同意できないが、その指摘には同意せざるを得まい。


「それにしても、自衛軍の一個大隊で駅ダンジョン捜索しても見つからないなんて一体どういうことなんだ?本当は存在してない、謎のリソーサーじゃなくて幻のリソーサーだったってオチか?」


「ふん、あんたもまだまだ素人ね」


 ズズーと茶を飲みながらチトセが答える。いいから室内だからってイスの上であぐらはやめろ。どうしても不可抗力で視線が奪われるから煎餅落としちまったじゃないか。


「いい?自衛軍が得意としているのは拠点を防衛すること、対象を破壊すること、そして集団で行動すること。当然よね、本質的には軍隊なんだから。でもリソーサーというのはほとんどが機械で構成されているけど、その行動原理は野生の獣に近いわ。だから本当に捕まえたいのなら、大勢の軍隊よりも少数の腕の良い猟師を遣わす方が賢明ってことよ」


「なるほどな。さすがはチトセ、元自衛軍。それはそうと……ちょっくらゴメンよ」


「テーブルに潜って、何してんのよ」


「何って、煎餅落としちまって……」


「堂々と人の下半身覗こうとしてんじゃ無いわよ、このど変態が!」


「おぐぁ!」


 思い切りチトセに顎を蹴り上げられ、テーブルに頭をぶつける。視界に星が飛ぶというのは比喩じゃなくて本当に飛ぶんだな……


「おーおー、物凄い音がしたと思ったら、相変わらずじゃのう」


 力無く伸びている俺の頭を思い切りチトセに踏みつけてる状況を見ても、丁度事務室に入ってきたイクノさんは何ら思うところも無いようだ。これが暴力に侵食された日常というわけか……


「この豚には油断も隙もあったもんじゃ無いわよ。それでイクノ、そっちの調子はどう?」


「準備万端じゃ。カタナは研ぎ、ブラスターにはプラズマガスを充填、そして機動鎧甲は完璧に調整済み。すぐにでも出れる状況じゃ」


「さすがはイクノ。あとは閉鎖が解かれるのを待つだけね」


「しかしのう、あんだけ張り切っておる自衛軍がそう簡単に手を引くかのう」


「なぁに、未だに何の成果も上がってないのよ。直ぐに根を上げて山師に丸投げするわよ。まっ、そうならなくても忍び込んででも倒してやるけどね」


「そんなことしたら俺たちまで自衛軍に追われる身だぜ。一体どうしたんだ?」


 チトセの踏み付けから何とか頭を引っ張り出し尋ねる。一文の得にもならないどころか損しかないことを進んでやろうとするなんて、全くらしく無いからな。


「これはもう単なるリソーサー騒ぎじゃないのよ。一線を越えちゃってる事件なのよっ」


「ていうと?」


「実はのう……今回のリソーサー被害は駅ダンジョンに潜ったスペキュレイターだけじゃなく、駅ダンジョンを囲む隔離壁を越えてエキチカシティまで被害が出ておるのじゃ。幸い死者は出てないらしいがのう」


「壁を越えて被害って、でもイクノさん、ニュースではそんなこと全然……」


「駅ダンジョンを囲む隔離壁の外にまで被害が出るというのは自衛軍の沽券に関わること。パニックを防ぐという名目のもと、そこに住む人間は"そういう扱い"をされてしまうものなのじゃ」


 チトセは子供時代をエキチカで過ごしてきたという話しだ。こんなにハッスルするのも道理というわけか。それにしても隔離壁を越えて、外にまでリソーサー被害が及んでいるなんてこれは穏やかじゃ無いな。自衛軍も大慌てで一個大隊を繰り出すわけだ。


「とにかくこうしちゃいられないわ!ちょっと行ってくる!」


「行くってどこにだよ。まさか本当に隔離壁越えて忍び込むつもりじゃないだろうな?」


「いずれはそうなるかもだけど、まずはエキチカに聞き込み調査よ。謎のリソーサーを退治しようってんだから、じっとしてても仕方ないわ。まずは情報集めよ」


「なるほどね。怒りのあまり1人で突撃しかねないと思ったが、案外冷静じゃないか」


「私はいつだって冷静よ。それで、あんたはどうするの?」


「はいはい一緒に行くよ、行くに決まってるだろ。目撃者に話を聞き、現場で痕跡を探し、そして獲物を追い詰める。"腕の良い猟師"ならそうするもんだろ?」


「当然よ。それじゃあイクノ、留守番をお願いね。何かあったらすぐに連絡してよね」


「了解じゃ。あ、そうじゃ。ちょっと待つのじゃ」


「何よ?」


「これを持っていくのじゃ」


 そう言ってイクノさんが差し出したのは、キレイに包装された菓子入れだった。


「手土産じゃ。相手はリソーサーの被害にあった一般住民じゃ。くれぐれも丁重にな」


「分かってるわよ。私を誰だと思ってるの。エキチカで生まれ、ストリートで育った女よ」


 ストリート育ちだから心配なんだが……まあ大丈夫だろう。エキチカ住人の心が一番分かるのはエキチカ住人だ。

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