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報告書26「リソーサー・ドリームエイプ」

 社長をはじめとしたBH社の重役たちや、特殊資源管理庁など関係各所のお偉いさんが集まるパーティーは、それはそれは華やかやものだった。参加者の誰もが俺を知っていて、尊敬と羨望の眼差しを向けて俺の話を聞きたがる。まさにエリートの生活。弱小零細企業で納期に追われる生活とは無縁の……


「主任っ!」


「えっ?あ、何だい?」


「大丈夫ですか?なんだかボーッとしておられたようですが?」


「あっ、あぁ問題無いよ。さっきのパーティーで酒を飲み過ぎたかな、ははは……」


 そしてパーティーの後は、秘書に案内されて流れるように高級ホテルへ。それはいいんだが、いくらデカい部屋だからって、なんで秘書と同室なんだ!?ベッドに腰掛け、なぜか上下の揺れが止まらない膝を押さえていると、美人秘書がコーヒーをこちらに差し出してきた。


「お疲れ様です、主任。コーヒー、お砂糖はいつも通り三つですよね?」


「お、おう。よく知ってるな」


「……ふふ、覚えてますよ、だって私は“あなたの一番”ですから」


 服をはだけながらやたら近づけてくる顔に、むしろこちらが仰反る。それにしても本当にキレイな顔だ……いや、それだけじゃない、この顔どこかで……


「チトセ……」


 そうだ……この顔は確か……


「……他の人の名前、呼ばないでください。あんな人たち、必要ないじゃないですか。ずっと、ずっとここにいましょう……だって、あなたはここでは“成功者”なんですよ?」


 あぁそうだ。俺は苦労してBH社に入り、出世街道を駆け上ったんだ。これは俺が掴んだ当然の報酬……そう思い、差し出された秘書の手にこちらからも手を伸ばそうとするが……左手が動かない。なぜだ、この生身の左手が……


<<は〜〜〜いはいはい、またその顔!ま〜た悩んでる〜〜!やれやれ、これだからウェイスターは救いようがないワン!>>


 ぐっ……!何だこの頭に響くやかましい声……のはずなのに、どこか懐かしい……


<<左手が動かない?……ぷっ、今さら気づいたのかよ遅っせーワン!お前のその手は、もうとっくの前にぶっ壊れてるんだワン!覚えてないのかワン?>>


「えっ……あっ、そうだ、俺の左手は……」


<<思い出したワン?お前のその左手は――血も肉もない、義手だワン。だけどそのブリキの手に詰まってるのは、過去でも夢でもなく、今のお前そのものなんだワン!>>


<<さあさあ、夢の中でピカピカの左手振ってりゃ上級国民気取りかもしれないけど、現実のお前は、ガタガタの義手で命かけて戦ってんだワン!チトセご主人やイクノご主人のため、何よりこの01、バーゲスト様のために!!>>


 そうだ、俺はいつだって戦っていた……この義手でだ!それはこんな薄ら寒い夢みたいな生活のためじゃねえ!いやお前のためでもねぇよクソ犬!?


「し・ず・か・に。せっかく作ったの、あなたのための、ねぇ、理想の檻。“チトセ”“イクノ”“バーゲスト”??なんのこと?ほら、また余計なこと考えてる……バグ、起こすよ?あなたは、ここで幸福に眠るだけでいいの。従って?」


 俺に対して美人秘書?は、首を横にして上目遣いでこちらを見る……首を横に横に、ありえないほと曲げてだ。


「チトセの顔と声でんな気味悪い事するんじゃねぇ!大体チトセはそんな下着じゃねぇ!メタ犬、聞こえるなら返事しろ!ここは一体どこなんだ!?」


<<そこは夢、お前は催眠の中だワン!さっさと目ぇ覚ませワン!お前が戻るべき場所は――そんな静かな夢の中じゃなくて、あのうるせぇ現場だろワン!?」


「ああ、もう……やだやだやだ、気づいちゃったじゃないの……っ。やっと慣れてきたと思ったのに。ねぇ、せっかく全部忘れさせたのにぃ。いいよ、ならその目ぇ、塞いであげる。その耳ぇ、壊してあげる。現実なんか二度と届かないように」


 そう言うと、チトセの顔のようなものはグニャッと歪み、その背後には、大きな……猿のような影が浮かび上がり、耳障りな甲高い金属音を思わせる声が響いた。


「貴様は、永遠に夢の中だ……!」


 目が覚める、今度こそ本当に目が覚めた。最初に視界に入ったのは崩れた天井、それと……振り下ろされる刀だった!


「あっぶねぇ!」


 慌てて転がり回避から体勢を立て直すと、その血がこびり付き、何人も斬ってきたのは明白な処刑刀を振り下ろした者の正体が見えた。そいつは……全身に生き物のような白い毛に覆われた猿のような見た目ながらも、決して生き物では無くリソーサーであることが一目瞭然であった。それは、所々隙間から覗くギアや人工筋肉でもなく、腕についた物騒な処刑器具から分かったのでもない。


 その顔面に張り付いた、薄気味悪い、猿とも人間とも言えない……笑顔からだ。


<<聞こえるかの!?駅ダンジョンに入った途端に通信に応えなくなって、一体何があったんじゃ!?>>


「イクノさん!良かった、本物ですね!」


<<何を言っとるんじゃ!?とにかくチトセ共々無事なのかの!?>>


「チトセはまだ夢の中です!このクソ猿は俺が倒す!」


 幸いメタ犬のお陰で俺は夢から抜け出せたが、催眠は自分一人で解けるもんじゃない。つまりは、このクソ猿とのケリは俺がつけるしか無いんだ。

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