表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/56

報告書21「精神とデータ」

 上半身のほとんどを機械化しているカヤベさんのその腕にキ影を突き立て、持ち手に力を込め強く握り締める。それに感応してカヤベさんの身体から放出され、刀身を走り俺の体を駆け巡る電撃……そして絶叫の中で俺はまた意識を失った。


<<ワンワン!起きるんだワン!>>


 メタ犬の耳元で吠えまくる声で目を覚ますと、そこはいつか見た電子部品が無数に転がり、情報が流れるあの河原だった。現実でないのは一目で分かる。だがはっきりとした意識が、これが夢でも無いことを直感的に認識させた。


「うぅ……何度やっても慣れないな……ここは三途の川か?それとも電子信号が見せる夢か?」


<<どちらも違うし、その両方でもあるワン!脳機能を補助するために設けられたヘルハウンドの演算核が見せる意識の揺らぎを表した仮想空間だワン!お前がバカやったせいで、こんな所まで来てしまったんだワン!>>


「何言ってるのかさっぱり分からんが、とりあえず無事なのか。良かった良かった。前にメタ犬の意識を吸い出せた要領で、ヘルハウンドの意識も吸い出せないかと思ったんだが、こうも上手くいくとはな」


<<そんな悠長な事を言ってる場合じゃ無いワン!自分が何をしたのか分かってるのかワン!?ヘルハウンドは既にカヤベの精神と結びついたデジタルゴーストになってるワン!そんな簡単にいくわけないだろワン!>>


「えっ、そうなの?つまり俺がやったのは……」


<<あのヘルハウンドと自分の意識を直接繋げたんだワン!何かやる時は最初に言うんだワン!>>


「ふん、言ったら協力したか?」


<<噛み付いてでも止め……来たワン!>>


 そうメタ犬が叫んだ時、薄暗い空の一点に青い炎が灯ったかと思えば、その炎が徐々に広がっていくという異様な光景が頭上に広がった。


「な、何が起こっているんだ?」


<<ヘルハウンドが接続したお前の身体を掌握しようとコードを書き換えているんだワン!掌握の完了と同時に五感を乗っ取られてお前が次の人狼だワン!>>


「何ぃ!?食い止める手立ては無いのかメタ犬!」


<<何も考えずにやったのかワン!?お前はアホアホだワン!もう捕捉されたから接続を切って逃げることもできないワン!とにかく01は侵食を少しでも遅らせるワン!お前はヘルハウンドのコードを破壊するんだワン!>>


「ヘルハウンドのコード……つまり奴の本体だな!」


<<あそこだワン!>>


 そうメタ犬が鋭い目線で指し示した先には、メタ犬と同じように黒い身体ながら、目が青い炎のように揺らめく一匹の大きな犬……ヘルハウンドの姿があった。


<<よこせ……おおおお前の身体をよこせえええ!>>


「おいでなすったか!」


 駆け出し、息をつかせぬ連続攻撃を繰り出すがその全てを避けられた挙句、逆に口から噴き出した青い炎に追い立てられてしまった。


「あちちちあちあちっ!くそっ!ちょっとじゃないくらい強いぞ!?」


<<奴は機械化が進んだカヤベの処理能力をフルに使用できるんだワン!ほとんどが生身のお前とは処理能力が違うワン>>


「何だと!?じゃあどうすんだよ!」


<<考えるんだワン!01は侵食を食い止めるのに全リソースを使用中……侵食率20%だワン!>>


 考えろって言ってもなぁ!奴の素早さ、牙の鋭さ、そして噴き出す青い炎の熱さは尋常ではなく、こちらから攻撃を仕掛けるどころか避けるだけで精一杯という有様だ。


「はぁ……はぁ……いくら何でも強過ぎるぞ……!」


<<侵食進行率が30%を越えたワン!まずいワン!早くそいつを倒すワン!>>


「しかも制限時間付きかよ!」


「……カタナを突き刺したと思ったら、その態勢のまま気絶って、このバカは一体何をやろうとしているのよ!?」


<<どうやらキ影を通してカヤベとリンクをしているようじゃが……>>


 この声は……チトセとイクノさんの声だ!そうか、気絶はしているが感覚は生きてるのか。


「うぅ……」


「カヤっち!イクノ、カヤっちが目を覚ましたわ!あっ、この刺さってるカタナは……とっ、とにかく今はこのバカを信じて!何をしようとしてるのか皆目見当付かないけど、カヤっちを助けようとしてるのは確かよ!」


「分かってるよチーちゃん……彼は、イワミさんは私を助けるため、私が人狼になった原因……ヘルハウンドと戦ってくれているの。でも今の彼ではヘルハウンドには勝てない……」


「戦ってるって……何とか加勢出来ないの?」


「一つだけ方法はあるわ……イクちゃん、私の中にあるカリング・プログラムを探して」


<<えーとカリング……カリング……これじゃな。かなり厳重なロックが掛かっておるが中身は……ダメじゃダメじゃ!こんなものは実行させられん!」


「イクノ、カリング・プログラムって……」


<<カヤベの機動鎧甲とスキャナー内の記録はもちろん、補助記録媒体内諸共脳内の記憶まで抹消して修復できなくするもの、早い話しが脳破壊プログラムじゃ!>>


「なっ……!どうしてそんなものが機動鎧甲にあるのよ!」


「ヘルハウンドは、KM社も参加する一派の最重要機密……同業他社の手に渡って情報漏洩するくらいなら実験体ごと抹消するのは当然……でもこれでヘルハウンドを破壊できるはず……」


「そんなこと絶対にさせない!カヤっちは私達と一緒にここから出るのよ!」


「私はこの手でもう何人も仲間を殺してしまってるの……ほんと救えないわよね。ヘルハウンドの支配から抜けて、ようやく自分の手が血塗れな事に気がつくんだから。そしてチーちゃんまで……だから私は生きていてはいけないの……」


<<罪を自覚するのなら生きて償うのじゃ!ここで死んだら何もかも闇に葬られて企業の思惑どおりになるだけじゃ!>>


「イクノの言うとおりよ!とにかく今は全員が助かる事を考えるのよ!」


 カリング・プログラム……まさにスペキュレイターを代替可能な消耗品程度にしか考えていない奴らが考えそうな"安全装置"だ。確かにそれを使ってカヤベさんごと消去すればヘルハウンドは消えるだろう。


「だがなチトセ!カヤベさんを消去させるなんて絶対するなよ!」


<<ワンワン!侵食進行率40%!早く何とかしないとヤバいワン!>>


 カヤベさんの存在を消させる訳にはいかない。だがこのままではヘルハウンドを倒すことはできず、俺自身が人狼になってしまう。いつも言ってる気がするが、万事休止か。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ