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報告書20「蒼雷葬(アジュール・サージ)」

 すっかり人格も身体の主導権もヘルハウンドに奪われたカヤベさんと対峙するが、蒼雷葬による残骸爆破と槍による近接攻撃そして盾による鉄壁の防御を織り交ぜた戦闘スタイルに押される一方だ。くっそ、魔犬の騎士で魔法騎士でもあったのかよ。1人で渾名を欲張りすぎだろ。


「何が蒼雷葬だ、見せびらかしやがって。こちとらかくれんぼが上手くなる能力しか無いってのに」


<<ワンワン!01の能力を馬鹿にするなワン!こちらは奴の固有能力を一度受けているからタネを知ってるけど、向こうはこちらの能力をまだ知らないはずだワン!もっと頭を使うワン!>>


 奴の固有能力のタネはつまり……さっき受けた時の警告からも、機動鎧甲やリソーサーの残骸内のバッテリーに過電流を流して自在に爆破させることに違いない!だからだからその流れる電流さえ止めれば……となれば……!


<<ようやく分かったみたいだなワン!配られた手札を嘆く暇があったら、駆け引きのタイミングを考えるんだワン!>>


「ゲームの指南とは、とんだ遊び犬だぜ!」


 またまた性懲りも無く一気に駆け出す。もちろん迂回無し、奴との最短距離をだ。当然のようにその途上にはリソーサーの残骸が横たわっている。それもデカいのが。こいつが爆発しようものなら、タダでは済まないだろう。


「<所詮はウェイスター!追い詰められると錯乱する!最適な選択ができない!泣き喚き許しを懇願しろ!>」


 硫黄の匂いの中、煙を登らせ火花を散らす残骸はもう爆発間近、今から横に転がろうが後ろに跳ぼうがもう間に合わないだろう。なら進むしかない。俺は残骸にキ影を突き立て、その柄を強く握り締めた。


「刀身急速吸電だ!奪雷!!」


 それ自体が通常では考えられない量の電気を吸蔵できる俺の自慢の愛刀、キ影。ともなれば、残骸に残ったバッテリーから無理やり蒼雷葬で捻り出された電気を吸い取るなんて、訳ないのだ。その証拠に立ち上る煙も、火花も、消えたではないか。


 そして吸った電力はただ溜め込むだけじゃない。刀身は常に微細な超振動を纏い、さらに追加で荷電粒子ビームを沿わせることで、実体刃にもう一枚の光刃を重ねる事で、絶大な攻撃力を発揮する……!まっ、機能については全部イクノさんの受け売りだけどな。


「上手くいったな!」


「<だがそれがどうした!>」


 そのまま間合いに入り、太刀キ影による渾身の一撃を放つが盾で防がれ、その流れで左逆手で抜いた小太刀ヒトマルの一撃もランスで止められた。このままではこれまでと同じ……だが今回は違う。俺は、攻めているのだ!


「おらぁ!」


「<ぐふぁ!こんな原始的な攻撃……!>」


 頭突きをお見舞いした。頭の鉢金型防具兼用のスキャナーにはバッキバキにヒビが入り、視覚補正機能に異常をきたし画像が乱れるほど強烈なやつを。だがそれは向こうも同じ、兜のように前頭部を覆うタイプのスキャナーにヒビを入れてやったのだから。


「<スキャナーが……!だが甘いな!複合センサーとネットワークで繋がっているのだ、そこからの情報をフィードバックすれば、視覚が無くとも貴様の位置なぞ簡単に……>」


「見せたがりな能力者、言いたがりな策士、聞きたがりな相談役は二流だぜ!」


 奴の背中に回り込み、光刃を纏わせた渾身の一太刀は、機動鎧甲を易々と切り裂いた。


「<バカな……いつの間に……>」


 倒れ込むカヤベさん……いや、ヘルハウンド。勝負ありだ。あらゆるセンサーに探知されなくなるメタ犬の能力・闇黒外装の発動を止めつつ、ほっと胸を撫で下ろす。


<<知り難きこと陰の如しだワン。どんなに強い能力でも考え無しに使えば見切られ、どんな能力も使い所を見極めれば最強となるんだワン!分かったかワン?>>


「チトセ!無事か!?」


<<聞けワン!>>


「やったのね……私は大丈夫……ヨロイは壊れちゃったみたいだけど……」


<<何とかこちらで強制的に全機能停止できたから良かったものの、危ういところじゃった。ところで、カヤベにPTネットワークの権限を取り上げられリンクを切られたんじゃが、どうやって復帰させてくれたんじゃ?>>


<<ワンワン!01がやったんだワン!ナデナデしてワン!>>


「さっ、さぁ?そんな事より先にカヤベさんの容態を!」


<<そうじゃのう!>>


「カヤっち……!」


 倒れ込むカヤベさんを抱き起こすチトセ。弾け飛んだ機動鎧甲の下には生身があるはずだ、人間の肌が。だがそこにあったのは、大部分が機械化され、無機物で構成された上半身だった。小さく呻く声だけが、まだ生きている事を感じさせた。


「カヤベさんは無事ですか!?」


<<今全身スキャンを掛けておるから少し待つのじゃ!>>


「カヤっちがこんなになったのは私のせい、全部私のせいなの!お願い……助けてあげて……!」


<<ふむ……身体が機械化されておったのは不幸中の幸いと言うべきかの……命に別状は無いようじゃ……じゃが、肝心の内部情報を見たくても大部分がブラックボックスになっておって見れんのう……これでは無事なのかどうか分からんぞ>>


<<それは分かるワン!ヘルハウンドはまだこのウェイスターの中にいるワン!消滅させようにも並大抵のプログラムじゃ奴には効かないワン!>>


「ヘルハウンド……カヤベさんに取り憑き、おかしくさせた奴はまだカヤベさんの中にいる。奴は自分がKM社の重要物品・最高機密であり、どんな惨劇を起こそうとも、処分されずに次の実験体に移されるだけだと知っていた……」


「そんな……カヤっちを助ける方法は無いの……」


「1つ思い付いた。チトセ……俺は今からとても酷いことをカヤベさんにするが、助けるにはそれしか方法が無いんだ。俺を信じてくれるか?」


「ふん、私があんたを信じなかったことがあった?」


「バカな質問しちまったな!」


 キ影をカヤベさんの機械化された腕に突き立て、強く強く握り締める。走る稲妻、体中を駆け巡る衝撃……何度やっても慣れないなこれだけは。

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