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報告書18「PTネットワーク」

 俺を人狼だと言い、有線接続によるスキャンを試みたカヤベさん。だがその実やろうとしていた事は、悪性のプログラムを送り込み、俺を犯人に仕立て上げることだった……とメタ犬は言う。となると、カヤベさんこそが人狼だったというわけだが、では何故同じPTメンバーのシベツさんとセセキさんを殺したのか?だが今はそんな事を考えている場合では無い。この瞬間にもその人狼は、チトセと2人っきりなんだからな!


「くそっ!手錠も足錠も外れそうに無い!」


<<何か考えるんだワン!チトセご主人が危ないワン!>>


 手錠をガジガジ齧るメタ犬の言うとおりだが、電子ロックされている手錠をどう外せってんだ。と言うかお前は幻影なんだから、齧った所で外れるわけ無いだろ。


「あぁくそっ!チトセは無事なのか!?リンクを切られているから通信も繋がらないし……そうだ!メタ犬お前、おもちゃで、複合センサーで遊びたいって言ってたよな!?」


<<それがどうしたワン!……遊びたいワン!>>


「そこの複合センサーを踏み台にしてPTネットワークに侵入することはできないか!?そうすれば通信だけでもできるかもしれない!」


<<なるほどワン!やってみるワン!>>


 幸い後ろ手ではなく前で手錠をかけられていたため、左手の義手からケーブルを引っ張り出し複合センサーに接続する事ができた。当然の如くパスワードは変更されているらしく、前のは弾かれた。全く抜かりが無いぜ。後はもうメタ犬のハッキング能力だけが頼りだ。


<<ワンワンワン!パスワードは……ワン・ワン・ワンだワン!>>


「パスワード認証確認、ネットワーク接続完了!やりやがったなメタ犬!偉いぞ!」


<<こんなのは朝の散歩前だワン!>>


「ところでパスワードは本当に111だったのか?」


<<そんな訳無いだろワン!いいからさっさと通信を試すワン!>>


 通信は……ダメだ、繋がらない。PTネットワークに接続しているのに大部分の機能使用が制限されていやがる。


「メタ犬ダメだ!通信できないぞ!」


<<不正アクセスがもう検知されて、排除されつつあるワン!イクノご主人の作ったプログラムは優秀だワン!>>


「イクノさんが優秀なのは最初から分かってた事だろうが!何とか対処できないのか!?」


<<舐めるなワン!二人の近くに設置されている複合センサーに潜り込めたワン!音響感知が拾った会話を聞けるワン!>>


「この際聞く専でもいいから、とにかくそれを回せ!チトセの安否が知りたい!」


 耳障りな雑音の後、チトセとカヤベさんの会話が聞こえてきた。チトセの声が聞こえてきたって事は無事ということだが、早くここを抜け出さないとその身が危ないことには変わりない。


「イクノと通信できなくなったと思ったら、今度はネットワークに不正アクセスが検知されたって、一体どうなってるのかしら……カヤっち、やっぱり今は1人でも戦力が必要よ。私、あいつが人狼だとはどうしても思えないし」


「チーちゃん、今はもうそんな事はどうでも良いのよ。ようやくこうやって2人きりになれたんだから」


「どうでもって……一体どういうことよ?」


「覚えてる?私とチーちゃんが最後に会った日のこと。そして自衛軍に入隊するから当分会えないというから、私が勇気を出して自分の気持ちを伝えたことを」


「もちろん覚えてるけど……あの時はごめん、私ちょっと混乱しちゃったというか……」


「ううん、チーちゃんは悪くないわ。勇気を出せば結果は付いてくる……そう思ってた私が甘かっただけだから。屋上から飛んだのに、終わりにできなかったのもそうね」


「飛んだって、あんたまさか……」


「醜くも生き残った私は、所属していた企業の実験体に……身体を半分近く機械化され……そして、そんな身体が“丁度良い”と、そこに入れられたの」


「機械化されたって、だからビーチでも上着を……入れられたって、あいつらに何をされたのよ!?」


「いつも私を守ってくれた、チーちゃんのように強くなれる“心”を戴いたのよ。それ……"ヘルハウンド"の言うとおり人間を、ただ他者を利用し、浪費するだけの存在を始末する度に私は強くなれた。そしてそれはこう言うの……過去と決別するには、その原因を断たねばと……」


「カヤっち何を……したの……身体が重くて動かない……」


「ごめんなさいチーちゃん……一緒になりたかった……でも過去を乗り越えるにはこうするしか無いって……」


 響き渡る爆発音、轟く金属音。俺の放った斬撃を盾ですかさず受け止めるとは、やはり只者では無い。


「<貴様ぁ!>」


「失恋の逆恨みはカッコ悪いぜ魔犬の騎士様よ!」


「イワ……ミ……?」


「大丈夫かチトセ!すぐ助けるからちょっと待ってろ!」


 何とか間に合ったか!指向性地雷をわざと起動して、その爆風で手錠を吹き飛ばすなんて我ながら正気を疑う手だが、上手く行ったんだから結果オーライだ!


<<上手くいったのは01が爆発の威力を操作したからだワン!>>


「あぁそのとおりだな!その勢いでイクノさんのリンクを回復してチトセをサポートさせるんだ!」


<<おっと合点承知の助だワン!>>


「<ふん……有線接続した時に微かだが感じたぞ……貴様の中にも"いる"んだろ?>」


「だったらどうした重レズ姫騎士が!」


 聞こえてくるカヤベさんの声は、もはや人間のものではなかった。発せられる声はまるで機械の音声のような耳障りな音で構成され、その言葉も狂気に彩られていたのだから。どうやら正体を現したようだ。


「<どうもしないさ……どのみち殺すんだからなぁ!>」


 始まる、魔犬の騎士対犬畜生が。

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