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報告書17「判定」

 カヤベさんは言った。シベツさんとセセキさんを手にかけた犯人……それは喰らった人の記憶を利用し、自分自身をも騙す事であたかも本当の人間のように振る舞う人狼であると。そしてそれがこの俺だと……


「白黒付ける方法は1つだけあるわ。私の機動鎧甲とそいつを有線接続して、直接スキャンするの」


<<じゃがこちらでもモニターしておるが何も異常はないぞ。やはり思い過ごしじゃなかろうか>>


「そうよ。ここへ来る前だって機動鎧甲を装着する時の姿を見たけど中身はもちろん生身の人間だったわ」


 俺自身が揺らいでいる時に、2人の援護は本当に心に染みる。俺が着替えを覗いた時はブラスターを乱射した癖にお前は俺の着替えを覗くのかチトセなどと思う暇もなかった。


「ふうん中身はねぇ……?有機物を多く得たリソーサーなら肌を偽装するなんて訳無いわ。それに遠隔スキャンなら、ダミーの情報を噛ませることも可能よ。だから正確な情報を得るには、有線接続による直接スキャンしか無いのよ」


「分かった……スキャンでも何でもしてくれ。それで答えが出るのなら俺も望むところだ」


「随分と潔いのね。いいわ、やりましょう」


 有線でも何でもスキャンをすれば、とにかく俺が生身の人間であること、それは確実に分かるはずだ。本当の問題はその先、俺の精神、記憶、人格なんだが……


「あうっ!」


 これでとりあえずの身の潔白は証明できる、そう思っていたが、事態は全く逆の方向に進んでしまった。カヤベさんが自らの腰元から伸ばしたケーブルを俺の機動鎧甲の腰元のソケットに差し込んだ瞬間、激しい火花が散りケーブルを弾き飛ばしたのだから。


「……決まりのようね」


「イワミあんた、何で……」


<<遠隔接続も弾かれ、モニターできなくなったんじゃが……>>


「いや、待ってくれ!俺は何も……」


「この期に及んで言い訳とは見苦しいわね」


 背中から槍を取り出し、一歩また一歩と近づいてくるカヤベさん。完全に殺る気だ。勢いに押され後退りするが、後ろは壁だ。


「待って!待ちなさいよ!このバカがスキャンを拒んだのは事実だけど、人狼だって証拠が無いのも確かだわ!殺すなんて、私は絶対認めないわ!」


「チトセ……!」


<<そのとおりじゃ!ずっと一緒にやって来た仲間なのじゃ!>>


「イクノさん……!」


「こいつに寝込みを襲われてからじゃ遅いのよ!」


「私たちは同じ屋根の下で暮らし、同じ釜の飯をたべてるのよ!?最初から人狼だってんなら、今まで何度もチャンスはあったはず。それなのにした事と言えばせいぜい着替えを覗いたくらいだもの」


「同じ屋根……同じ釜……ねぇ……?分かったわ、取り敢えず拘束して処断は救援が来てからにしましょう。それまで逃げていなければの話だけど」


 俺を庇ってくれたのはとても嬉しいが、気のせいだろうか、チトセの一言が火に油を注いだ気がするのは。もはや抗弁も抵抗もできない状況となり、俺は手錠に足錠をかけられて地面に転がされ、チトセは何度もこちらを振り返りつつも、カヤベさんに手を引かれて半ば無理やり連れて行かれてしまった。


「それとイクちゃん、こいつはきっと有る事無い事言って誘惑してくるわ。だからPTネットワークから外してリンクを完全に切って」


<<しかし……>>


「いいから早く切るのよ!手遅れになる前に!」


 リンクを切られた。もう誰とも通信できない、助けも呼べない。駅ダンジョンのど真ん中で拘束され、そして仲間もいない状況なんて、心細さで押しつぶされそうだ。俺はここまでなのか?たった1人で、こんな場所で……それとも人間としての俺はもう死んでいて、今あるのはデータ化された記憶だけなのか?


<<1人じゃないワン!さっさと拘束から抜け出す方法を考えるんだワン!>>


「ふん、都合が悪いとズッと引っ込んでいたメタ犬が今更何の用だ」


<<何者かが遠隔接続による侵入をしてきたから、それを防いでいたんだワン!遂には有線接続をしてきたから噛み付いてやったワン!>>


「よく言うぜ。スキャンされたらお前が人の身体でやましい事してたのがバレるからだろ?お前のせいで俺は人殺しだぜ」


<<スキャン?何言ってるんだワン!あいつは強力な、それこそ機動鎧甲を通じてウェイスターを狂わせる悪性のプログラムを流し込んでお前を犯人に仕立て上げようとしたんだワン!>>


「え?それってどういう……」


<<よく考えるんだワン!あいつの推理は所詮は推測、作り話だワン!そんな事は想像力が及ぶ限り幾らでも言えるんだワン!それを当事者が信じ込んでどうするんだワン!>>


「じゃあ、シベツさんとセセキさんを殺した本当の犯人って……」


<<最初からどうも怪しかったんだワン!気が付いて無いのは、睡眠薬を盛られた本人だけだワン!>>


 睡眠薬……?あの時の苦い苦い紅茶か!そう言えば確かにあれを飲んだ直後だった。急速に眠くなって……起きたらシベツさんが死んでいたのは。


「それを知ってて何でもっと早く言わなかったんだ!?そうすればこんな事にはならなかったかもしれなかっただろ!」


<<クゥンクゥン……寝たのをいい事に、ちょっと身体を拝借してあのおもちゃ……複合センサーで遊ぼうと思ったのがバレるかと思ったんだワン……>>


 こんのクソ犬が……!人の身体で好き勝手しようとしてるこいつも同じ穴の狢じゃねーか!ああもういい!狢の魔犬退治といこうじゃないか!


<<狢じゃないワン!>>


「うるさい!」

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