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報告書16「人狼ゲーム」

 柱の影で血塗れで倒れていたのが発見されたシベツさん。こんな酷い殺し方をするなんて……ついに出たのか、人狼が。


<<画像を見たんじゃが、死因は鋭利な刃物状のものによる正面からの攻撃……凄い技術と力のようじゃ。一撃で絶命させたのじゃからな。じゃがおかしいのう、正面から襲われておるのに、ブラスターライフルはせなかのまま、手を掛けられておらん>>


「情報によると、人狼は人に姿を変えられるとの事です。顔見知り……この中の誰かに化けたのかもしれません」


「いくら姿形を変えられても、センサーに引っかからずに外から侵入は無理だわ。セセキ、全てのセンサーが正常に作動しているかチェック」


「了解しました」


 俺のせいだ……俺が寝落ちしてしまった内に襲われたんだから。俺があの時起きていれば……


「何を呆然としてんのよ。ついに人狼が出たのよ、気を引き締めて掛からないと」


「俺が……俺がもっとしっかりしてれば、シベツさんは……」


「アホ!悔やんでる場合じゃないでしょ!シベツさんの事を思うのなら、仇を取るのよ!」


<<死んだウェイスターは他人ワン。悲しむ必要は無いワン>>


 クソ犬の機械的な冷たさに比してチトセの言葉の熱いことよ。そうだ、仇を取るんだ!


<<なんだとワン!?>>


「全センサーのチェック完了しましたが、異常はありませんでした。反応が無い以上、警戒線を越えたものはいないはずです」


「そう……なら人狼は既に警戒線を越えている、それでも姿が無いということは、この中の誰かになりすましている……ということかしら」


 カヤベさんの話を聞き、まさかと思い周囲を見渡す。チトセもセセキさんも同じ反応だった。この中の誰かが人狼?いやいやいやあり得ないだろ。入り口からずっと一緒だったじゃないか。


<<結論を急ぐのは危険じゃぞ。もう少しで夜明けじゃ。とにかく今は、リソーサーの襲撃に備えるべきじゃろ>>


「それもそうね……今は仲間を疑っている場合じゃ無いわ」


 イクノさんとチトセの言うとおりだ。確かに今はそれどころじゃ無い。時計の上では夜が明け、案の定リソーサーが襲撃して来たので俺たちはひたすら戦っては休み、休んでは戦うを繰り返した。その間みんなの様子を窺ったがとても人狼が化けてるとは思えない、自然な動きだった。


「人狼め……一体どうやってシベツさんを?周囲にはセンサーが張りめぐされていたのに……まさか本当に誰かに化けているのか?」


<<今は自分が生き残ることを優先するワン!とにかく周囲を警戒するワン!何者かが侵入を試みてるワン!>>


「侵入……?そりゃリソーサーは狙ってるだろ。それよりも、お前は確か俺が寝てる間なら、短時間は体を動かせるんだったな」


<<そ、それがどうしたんだワン!今は関係無いだろワン!>>


「確認しただけだよ」


 怪しい。もしかしたら……いや、まさかな。しかしこのメタ犬……バーゲストだって、今や構成情報だけになってはいるが、リソーサーには変わりない。もしかしたら犯人は……いや、考えるのはやめよう。自分が自分で無いってのは、こういう感覚を言うのか?


 そしてまた夜が来た。駅ダンジョンという名の廃墟となった地下5階ともなると、昼であろうと夜であろうと陽は差さないのだが、あれだけ活発だったリソーサーも、何故か夜は動きが鈍るようだ。再び起動した複合センサーとそれに連動した指向性地雷の存在にでも勘づいているのだろうか?


「さて、昨晩のこともあったから、今夜は1人づつ分かれた場所で休む事にしましょう。見張りは1人、何かあった時も直接声を掛けるのではなく、必ず個別通信を使うように」


「仕方無いわね……こんな状況じゃ」


「見張りの順番は初めはセセキ、次に私、その後はイワミさんお願い」


「了解です」


「分かった……」


 カヤベさんの指示どおり、皆それぞれ離れて休むことに。何にしても、少しは寝ないと。こう緊張のしっぱなしだと身体が……もた……


<<ワンワン!>>


「うおっ!?」


<<起きるんだワン!様子がおかしいワン!>>


「やっぱりお前だったのか!?俺の身体を使ってよくも……!」


<<寝ボケてる場合じゃないワン!それよりあそこを見るんだワン!>>


 メタ犬に言われ奥を見ると、何やら人影が。いや、人じゃない……目が燃え盛る炎のように揺らめいている。それもただの炎じゃない、青い色をした炎だ。あれは普通じゃないというのは一目で分かる。


「あれが人狼か……あっちは確かセセキさんがいる場所だぞ。こうしちゃいられない!」


<<待つんだワン!不用意に動いては危ないワン!>>


 抜き身のキ影を握りしめ、瓦礫の山を登り人影を追いかける。だが、丁度セセキさんが休んでいるところに着いた時には炎は消え、闇に溶け込むようにその影は消えてしまった。


「セセキさん!セセ……遅かったか……」


 そこには首元を切り裂かれ、既に事切れているセセキさんの姿が……


<<一体どうしたってのよ!何の騒ぎ!?>>


「チトセか……カヤベさんもとにかく来てくれ」


 やって来た2人も俺と同じように衝撃を受けていた。だが、カヤベさんが俺を見る目には、明らかに疑念の色が浮かんでいた。


「これはどういう事?必ず個別通信でやり取りするようにと言ったはずだけど?」


「それが怪しい人影が見えたんで、つい追いかけてしまったんだ」


「怪しい影ねぇ……?それでその手に持っているカタナで斬りつけたのかしら?そしてよく見たら、それはセセキだったと?」


「なっ、何を言ってるんだ。そんな訳無いだろう」


「そうよカヤっち、いくら錯乱したとしてもイワミがそんな事するわけないでしょ」


「確かにイワミさんならそんな事しないかもね。でも人狼ならどうかしら?人に化けるリソーサー……人狼なら」


「そんなわけないでしょ。ここ渋谷駅ダンジョンに来るのにも事務所からずっと一緒だったんだから」


「騙されちゃダメよ。そいつは最近、奇怪な行動が増えてない?幻覚が見えるなんて言ってない?それは全部リソーサーが何らかの形で影響している証拠よ。つまりは自分自身が人狼に食われたことにも気が付かず、そのコピーされた記憶だけで自分は人間だと未だに思い込んでるってこと。それにその機動鎧甲のデザイン……」


「そんなこと……ある訳……」


<<確かに最近おかしな点はあったがまさか……>>


「いや……俺は……まさか……でも……」


 俺自身は既に死んでいて、コピーされた記憶だけが未だ生存していると思い込んでいるだけだと?ちくしょう、意味がわからねぇ。だが……何一つそれを否定できる材料が無いのも確かだ。

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