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報告書13「渋谷駅ダンジョン再び」

 そしてそして到来したカヤベさん率いるKM社所属チームとの共同受注の日。俺たちはコーギー号に乗って、因縁深い渋谷駅ダンジョンへとやってきた。ここへは以前にリソーサーに包囲された自衛軍兵士を助けに来たことがあるが、その際チトセが爆轟弾で"ちょっと"破壊してしまってからは来るのは初めてだ。あの時の自衛軍兵士、アラセ隊長は残念だったが、ヒナガとコハレは元気にやってるだろうか。


<<そろそろ約束の時間なんじゃが……>>


「場所はこの西口前でいいのか?バスの残骸とリソーサー以外は人っこ1人見えないぜ」


「そのはずなんだけど……っと、来たみたいね」


「来たってどこにも……この音はまさか」


 近づくエンジンの轟音。上を見上げるとそこにはトランスポーター"テッコウセン"の姿が。従来の回転翼で飛行するヘリ型のものと違い、噴射角を変えられる4発のイオンエンジン装備で速度も安定性も段違いという最新鋭機種で直接乗り付けてくるとは、さすがは大企業、登場から差をつけてきたな。着陸したテッコウセンのドアから伸びたステップを降りてくる3人も気取ってやがるぜ。


「お待たせして申し訳ありません。私がこのチームのリーダー、カヤベです。本日はご足労いただきまことにありがとうございます。後ろにいるのはシベツとセセキ、それぞれガンナーとヒーラーを担当しています」


「あっ、あぁ……はじめまして、イワミだ。よろしく」


「よろしくお願いします。あなたがイワミさんですか。チーちゃん……チトセさんがよく話してました。私達ら学生時代から一緒だったんですが、よく虐められていた私はその度にチーちゃん……チトセさんが助けてくれて……」


 随分と丁寧な挨拶の中にすかさず挟み込んでくるチトセとの深い関係アピール。それにしても以前見た記録よりもずっと美人だな。目元に影があるのが少し気になるが。だが気になるのは顔よりもその格好だな。黒い外套……マントで機動鎧甲を隠しているのだから。


「はいはい、お堅い挨拶は抜きにしてもっと気さくに行きましょう。なんたって今日の私達は同じパーティー、仲間同士なんですから」


「ふふ、相変わらずねチーちゃんは。イクちゃんは今日はオペレーター?」


<<久しぶり……というほど時間は経ってないかの。とにかく今日はよろしくのカヤベ>>


「よろしくね」


 業務用フェイスだったのがチトセと話した途端、はにかんだ女の子フェイスになった。こりゃ仲良いのは一目で分かる。


<<どうも匂うワン!獣臭いワン!>>


「獣臭い?そりゃ自分の匂いだろ。最近風呂入ったか?」


<<オイル風呂は嫌いだワン!>>


 こうして総勢5人とオペレーターになったが、ササヤさんがいなくなってからずっとチトセと2人でやって来たから何だか落ち着かないな。見知らぬ顔とPTネットワークを繋ぐ……PTを組むなんて、そう言えば初めてか?なんて考えながら歩いていると、あっという間に渋谷駅ダンジョン8番ゲートへと到着した。ここは……懐かしいな、ワン公は元気かな。と言っても銅像なんだから元気に決まってるか。


「さて、渋谷駅ダンジョンは以前に謎の大規模爆発があったお陰で内部の構造が大分複雑になっていて、まともに出入りできるのはここくらいね」


「"謎の大規模爆発"ねぇ……本当に謎よね」


 しらばっくれやがって。よく言うよ。


「それより!中に入るよりも先に今日のミッション内容のおさらいといきましょ!」


「そうね。セセキ、説明して」


「了解しました。今回我々が追うのは謎のリソーサー・人狼です。人間と狼から得た遺伝子情報がどちらも中途半端だったリソーサーがワーウルフですが、人狼は人間から多くの遺伝子情報を得たことで、より人間らしくなったリソーサーだと言われております」


「天下のKM社が共同受注とは、よっぽど厄介な奴なんだな」


「はい、何でも人間に偽装する事ができるそうです。そして標的が油断したところで本性を現し、襲うのが常套手段らしいのですが、その強さはワーウルフの比では無いようです」


<<補足すると、その姿を見て生きて帰って来たものはおらず、スキャナーや犠牲者に残った痕跡だけが唯一の手掛かりという謎のリソーサーじゃ>>


 犬だか狼の謎のリソーサーねぇ。どっかで聞いた話だ。最近そんなんばっかじゃないか。


<<一緒にしないで欲しいワン!>>


「また電波を発生するデコイで誘き寄せるのか?」


<<だからやめろワン!>>


「デコイ?いえ、私が情報部に居場所を特定させたのでそこを重点的に探します。駅ダンジョンの最奥、地下5階なんだけどこの人数なら行けるわ。それじゃあ質問が無ければ出発よ」


 カヤベさんを先頭に、俺たちは渋谷駅ダンジョン内部を進んだ。前来た時も複雑な構造だったが、今ではあちこち崩壊し、道だったはずのところが塞がり、壁だったところが崩れて道になっていたりと、輪をかけて難解になってやがる。前まであったマップは役に立たない、提供されたマップも途中までしか無いしで、完全に迷路になってやがる。周囲を警戒していると、肩を叩かれた。


「よお、あんたがあのジェボーダンを倒したっていうイワミか?」


「ええと……シベツさんでしたっけ?あれは倒したっていうか何というか……」


「またまたご謙遜だな。あんた達の噂は聞いてるぜ。"MM社の爆弾娘と犬畜生"のコンビ、有名だぞ」


「MM社のい……犬畜生?」


「ああ、何でもかんでも爆発物で解決する女ガンナーと、犬のような機動鎧甲を着け、犬のようにリソーサーを追い回し、犬のように一度噛み付いたら離さないアタッカー、業界じゃその悪名は轟いてるぜ。聞いた話じゃこの駅ダンジョンの崩壊にも関わってるらしいじゃねえか」


「ハハハ、何のことやら」


「だがそんな悪名も俺たちのリーダーの名声には敵わねぇな。なんたって"魔犬の騎士"様なんだからよ」


「魔犬の騎士?カヤベさんが?」


「おうよ。マントで隠れてるがあの人の機動鎧甲は最新鋭の試作品でな。過去にはPTメンバーを何人も失い、最後の1人になろうとも凶悪なリソーサー共を仕留めてきたって話だ。あの凄腕に俺たちも大分楽させてもらってるぜ」


 カヤベさんにどこか影を感じたのも、PTメンバーを幾度も失うなんて哀しき過去のせいか。それにしても魔犬の騎士とは……それに比べてなんで俺の通り名が犬畜生なんだ!?ちくしょう!俺もカッコいい名前が欲しい……!

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