テイク-6【おしもおされぬ愛が見つかる】
「続いての芸能ニュースです」
女子アナの声が、部屋の中に滑り込んできた。青い壁、星柄のカーテン、閉め切ったままの窓。朝の気配はあっても、ここだけ時間が止まっているみたいだった。
「Magie♡Etoile1期生の桜庭真花さんが卒業を発表されました」
布の向こうで光が動いている。けれど、部屋の空気はまだ眠っていた。
「ん……」
名前を呼ばれた気がして、瞼がゆっくりと持ち上がる。
見知らぬ天井。青白い光が、視界の端をぼんやりと揺らしていた。
「ここどこ……?」
柔らかい。ベッドの上にいると、肌がそう告げてくる。
視線の先、少し離れた場所に子供用の木製の勉強机。そこには黒いパソコンと、やけに大きなモニター。それを静かに見つめているのは、黒髪の――男の子? いや、男。
何も喋らず、ただ画面を見ていた。パソコンの映像だけが、部屋の奥まで青く染めていた。
「突然のことで驚きましたね、まさかあの真花ちゃんが体調不良で卒業だなんて」
耳が反応する。
司会の声。番組で何度もお世話になった、今田の声だった。
卒業――その単語が胸に落ちてきた。
「卒業って…… あたしのこと……?」
声に出ていた。自分でも気づかないうちに、喉が震えていた。
昨日あんなことがあって、その翌日にはもうこれ。
ニュースで、自分の人生が処理されていく。
「最低…… 絶対殺す、皇新陽」
呟いた瞬間、男がゆっくりとこちらを振り返った。
「あっ…… もう大丈夫なの?」
「う、うん 身体は割と平気 昨日助けてくれたの、君?」
「そ、そうです…… えと…… 俺の名前は矢部龍二と言います」
視線を泳がせながらも、ちゃんと名乗ってくれた。
その顔を見た瞬間、真花の思考が止まった。
オドオドしてるとか、陰キャっぽいとか、そういうのは関係ない。
単純に、驚くほど――
「イケメン♡」
「え?」
反射で声に出ていたらしい。男がわずかに身を引いた。
「龍二だっけ? すんごいイケメンだね」
「そ、そそんなことない….よ」
身丈に合わない椅子に三角座りしてる。その姿に、真花も反射で体を起こした。
「マジエトじゃなかった…… あたしの名前は桜庭真花! よろしくね」
「君、真花って言うんだ…… よろしく」
「そう! 真花って言うの!! あのモニターに映ってる、正真正銘のアイドル――桜庭真花だよ♡」
ベッドの上で、腰に手を添えてポーズ。髪を払って、少し首を傾ける。
笑顔も、目線も、完璧に決めた。
この距離、この状況。落ちない男なんているわけない。
そう確信していた、けれど――
「冗談がうまいね、桜庭真花にソックリなのは認めるけど君は桜庭真花じゃないよ」
「いやいや、あたし桜庭真花ですから」
「俺は真花をこの5年間ずっと見てきたんだ 本物と偽物の区別ぐらいつくさ」
そう言って、龍二が手にしたのは――机の上に飾られていたアクリルスタンド。
真花は思わず、視線を巡らせた。
その瞬間、瞳の奥に映った光景が――