テイク-34【微妙な距離の僕達は】
【極秘文書】
件名:対象“桜庭真花”に関する戦略的観察および利用方針について 閲覧階級:白の塔第5階層以上限定 発令者:皇 新陽(文化防衛省 演出統括官)
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【Ⅰ】対象の観察継続に関する基本方針
対象“桜庭真花”は、以下の理由により現時点での排除対象には含めず、むしろ自律的行動の継続を許容する戦略的放置を推奨する。
1. 対象はすでにMagie♡Etoileを脱退しており、表向きの影響力は限定的である。
2. 現在、民間人複数名(男)との接触履歴あり。記録取得および追跡は継続中。
3. 対象の行動原理は“国家への復讐”に基づくと推定されるが、その過程において得られる「特殊被験体(男)」との融合記録は、魔導技術的価値が極めて高い。
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【Ⅱ】利用目的の明文化
対象“桜庭真花”を、“自律型サンプル生成母体”として観察・利用する。
対象が発現する魔力は、従来の“魔法少女因子(♀)”とは性質を異にし、男性因子との適合性を有する極めて稀少な魔力構造である。
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【Ⅲ】予想される展開と誘導戦略
対象は今後、恋愛感情・保護欲・革命思想等の内的動機に基づき、自発的に複数名の“魔法少年”を育成・形成していくと予測される。
国家はこの動向を制止するのではなく、逆にこれを「擬似育成機関」として逆利用する。
対象の“血液による適応誘導”と、“男の肉体強度”との融合成功例を収集・解析。 得られたデータは将来的に、「若年永命軍(仮称)」への応用を目的とする。
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【Ⅴ】最終目的と定義
> 女(器)を使い、男(本体)に永遠の魔法を与える。
桜庭真花は、“新時代の魔導神化”に向けた生産工場である。
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排除すれば、それで終わる。 だが――泳がせれば、永遠が手に入る。
対象の生存は国家魔導戦略上の必然であり、 いずれ“回収・解剖・再現”のフェーズに移行する。
その時までは―― 勝手に、踊ってもらえばよい。
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「デュフフ♡ デュフフ♡」
空気を滑るように、粘ついた笑いが天井に届いた。
でっぷりと膨らんだ腹。 頭頂部だけハゲあがり、サイドにだけ残された白髪が、ロール状に巻かれている。 貴族を真似たつもりなのだろう、艶のない整髪剤の光。
水色とピンクのパステルストライプスーツ。 手には花がらの紅茶カップ。
あまりに悪趣味。あまりに気持ち悪い。
椅子をクルクルと回転させながら、ご機嫌は上々。
年齢62。
男の名は――天ノ宮 邦康。
防衛省次官、魔導兵器課 統括官。
《Magie♡Etoi》という国家魔導兵器の、事実上の最高責任者。
この日の彼は、やけに上機嫌だった。
理由はひとつ。 先日起きた「ヘンタイダー事件」。そして、桜庭真花の名が記された極秘情報。
なにより―― その真花が、また“動いた”こと。
「僕ちゃまの真花たんが、こーんな凄い凄いことに関わってるなんて……えらいえらい屋さんだなぁ〜♡」
机の上には、黄ばみの浮いた真花のフィギュア。 指先でその頭を撫でる。
大きな瞳。小さな鼻。 そして――ふっくらとした胸元。
視線がそこに吸いついたまま、邦康は甘く息を漏らした ───
(今日も真花たんで……)
トン、トン。
木製の扉をノックする音。
「誰だ、いまから僕ちゃまは真花たんで――」
「失礼します」
「なんだ、桂くんか。何事だい?」
「資料はお読みになられましたか?」
「読んだよ……で、真花たんを捕らえるのはいつ? いつ僕ちゃまは真花たんの遺伝子をつかって、すーぱーひーろーに変身できるのかな?」
「その件ですが……皇と協議した結果、もうしばらく様子を見ようと」
「なっ……真花たんが、他のきっちゃないオスとイチャイチャしてるなんて許さん! 断じて僕ちゃまは許しません!!」
机の下で足をジタバタと暴れる。 これが、防衛省次官。魔導兵器課のトップの姿だというのか。
桂は、無言のまま眼鏡を押し上げた。 慣れ切っている。何一つ、驚きも嫌悪も見せない。
「……それに、あの衣装」
「君の愛娘が関わってるかもしれない?」
「その可能性は十分にあります。現に、娘とは連絡が取れません」
「人質か……あるいは、協力者か」
「いずれにせよ、Magie♡Etoileと同等の性能を持った装備となると、あの子達だけで止めるのは難しいかと」
魔法衣装を着用しての反旗。 それは未だ、前例がない。
しかも、相手は真花―― 最強格の女。制御不能の血魔法。
桂は理解していた。
あの力は、魔法少女が一人や二人で束になった程度で止められるものではない。
「じゃあ、こっちの衣装も。あの子達も。もっともっと強くしないとねぇ♡」
天ノ宮の声は、どこまでも他人事だった。
「それが君の、お仕事だろ?」
「はい。仰る通りです」
「それじゃあもう下がっていいよ。僕ちゃまは、愛でることでお忙しいのだ」
ひらひらと手を振って、退出を促す。
「それでは、失礼します」
バタン。
───
静寂。
肩の力が抜けた。正晴は袖で眼鏡を拭く。
レンズを戻した視界は、ひどく平坦だった。
あまりに何も変わらない――それが、腹立たしかった。
(萌……君は……どこに……行ったんだ……パパがいなくて、毎日泣いているんだろう……おのれ、あのイカれ女……絶対に許さん。殺してくれと泣き叫んでも、殺さずに――命が枯れるその瞬間まで……お前の魔力を、絞りとってやる……)
こんな作品にアクセスしてくださってありがとう
中途半端ですがここで完結にします。




