テイク-25【右打ちだよ♪】
《リーチ♪》
明るい女性の声と同時に、ライオン、象、キリンの群れが画面を横切った。
「キタキタキタ!! これは激アツリーチよ!!」
「なけなしの1万でなんとか当たってよかったよ……」
真花の隣で、龍二が椅子にもたれながら肩を落とす。安堵が吐息に混じった。
《ボタンを押して!》
画面の向こうから、爽快すぎる声がせっついてくる。
「いっけぇぇぇ!」
ポチ。
…………。
結果は――
7 8 7。
まさかのハズレだった。
「う、嘘でしょ……」
唇が引きつり、頬がわずかに震える。
「あーあ負けちゃった」
「萌に殺さ……れる……」
視界の端がにじみ、機械の枠が揺れたように見えた。相当効いている。
龍二は軽く息を吐き、財布から一万円札を抜き出す。
「ほら、俺のヘソクリ使って」
「龍二♡ やっぱ持つべきものは古参よね〜」
目の奥に光が戻った真花が、札を迷いなく奪い取る。
泣いても笑っても、これがラストチャンス――そう思った瞬間だった。
「走る者が望むものを得るのではなく、また速く走る者が勝つのでもない。すべては時と機会による、この最後の5玉にかける――アーメン」
隣から、意味不明なフレーズが流れ込んできた。
視線を向ける。
欧州の血を感じさせる彫りの深い顔立ち。長い睫毛。金髪のウルフヘア、左目は完全に隠れていた、毛先はチャラく外ハネが無造作に広がっている。
黒の神父服――ただし、シャツの襟はゆるく、袖もぞんざいに捲り上げられていた。
(こんなIKEMEN隣にいたなんて♡)
頬が熱を帯びる。目を逸らす間もなく、彼はレバーを握り、玉を発射させた。
1、2、3――。
残り5玉は、迷路のような釘の海を……抜けられなかった。
「何故だ……オレの予想だとこの台は設定激甘なハズ……しくじった、これではぶち殺されるだろう」
独り言のように呟き続ける神父。
「あのー」
桃色がかった吐息混じりに、真花が声を掛けた。
「なにかお困り?」
「あぁ、今とっても……困っています。神父なのに我ながら情けない」
(神父とか関係なく突っ込みすぎなだけだろう)
龍二がぼそりと吐く。
「差し支えなければ、オレにそのお札を恵んでくれはしないだろうか!?」
真花の手を包み、琥珀色の瞳で迫ってくる。
「だ、だめよ! いくらイケメンでもあたしだって生活がかかってるんだから!」
「そこをなんとか!! この台あと1回転すれば当たるんだ! 神がそうお告げをしているんだ!! 当たったら君に半分渡す! 約束しよう」
言葉は強気でも、眉は困り切っている。龍二の胸中では「諦めて帰れよ」が渦巻く。
「そうねー」
真花の口角が、じわりと上がる。獲物を見つけた時の癖。
「他には何をしてくれるの?」
「他とは?」
「人のお金を使うんだもん、他にもなにかしてもらわないとこちらとしては納得いかないわ」
(それは俺の金だ真花さん)
神父は一瞬迷い、すぐに答えを返した。
「うちの教会に来てもらえれば、VIPな聖書読み聞かせコースを堪能すると誓おう! シャンパン片手に大きなベッドでスクリーンに映し出された最高のオ・モ・テ・ナ・シ!」
「イケメン神父との二人きりの愛のお勉強ってことね! いいわよ!」
「いや、よくないから!!」
黒髪イケメンが割って入るが、真花の耳には届いていない。
「では、ありがたくちょうだいしたこのマネーで一発逆転だ」
神父は再びレバーを握る。
玉は真ん中の穴に吸い込まれ、画面が弾ける。
そして――777。
「やっぱり……オレの感は間違ってなかった! ありがとうイエス様ありがとう! ありがとう!」
隣で真花も爆上がりしていた、その時――。
ドッシャーーーン!!
虹色に輝いていた台が、轟音と共に吹き飛んだ。
「誰がなにしとんじゃー!!」
白目を剥き、額に青筋を浮かべた真花が横を向く。
「ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅー」
耳障りな笑いが空気を裂く。
「え、そ、その姿……」
青白い肌。真っ黒な瞳。腕や脚の一部が緑色に変色している。
「ヘンタイダー……? なんで絶滅したはずじゃ」
「びっくりしただろう? ヘンタイダー改め、おんれの名はギャンブルスキー。桜庭真花、お前の命いただくタイダー」




