テイク-21【キミと一緒がいいの】
「ハァ……ハァ……」
荒い息、喉からもれる水音のような声。
どこか背徳の匂いすら滲んでいた。
「龍二ぃ……ん、ハァ……スゴ……あーすごいよ」
真花が息を吐き出す。
「真花、俺もう!!」
その叫びと同時に、視界がぐらりと傾く。空が、ひっくり返ったように広がっていた。青空だけが脳裏に焼きつく――どうやら、龍二は倒れたらしい。
「なによー、だらしないわね」
逆さになった真花の顔が、視界に差し込む。前髪が重力に逆らいながら垂れ下がっていて、その下で、にやりと笑う唇。
「まだ2回しか魔法発動できてないわよ」
「って言っても、俺つい数日前までただの一般人の引きニートだったんですけど」
上半身を起こして膝を立てる。肘に砂がついたのをはたきながら、龍二はぼやいた。
「凄いって褒めてあげてるんだから、馬のように奮い立ちなさい」
「馬は余計だろうよ」
地面に押し付けられていた右手をゆっくりと開く。その掌に、薄く土がこびりついていた。
(でもまぁ、確かに守るって約束したもんな……俺がしっかりしないと……ん? まてよ)
「真花は魔法使わないのか?」
「魔法?」
きょとんとした目。すぐに腕を組み、軽く跳ねるように答える。
「あー、そうよね。言い忘れてたけど、あたし魔法衣装がないと魔法使えないのよ」
「へ?」
「だってそりゃそうでしょ? 何のためにマジエトのみんなが魔法衣装着てると思ってんのよ。普通に衣装なしで魔法放ってる龍二のほうが異常なんだからね?」
「異常!? 俺がぁ!?」
「そもそも男が魔法使えてるのもヤバいことなのよ? 魔法っていう謎のエネルギーはね、女しか使えないの」
「へ、へぇ〜」
口が閉じきらないまま、龍二の脳が沸騰した。白煙でも見えそうなほどに思考がぐるぐる回っていく。
「きっと神様が、彼奴等に罰をお与えなさいとくださった力ってことにしとこう! うん! そうしよう!!」
意味不明な理屈を唱えながら跳ねる真花。その横に、静かに車椅子の音が滑り込む。
「朗報と悲報がある。……どちらから聞きたい?」
つぶれたような声。目を向ければ、いつものアライグマ面がこっちを向いていた。
「朗報からきくー!」
真花が、両手をわっと伸ばしながら答える。
「お主らの住むところが決まったぞ……すぐに引っ越しじゃ」
「あたしと龍二と未来のイケメンたち、みんなで住む愛の城ねー♡ 楽しみだね龍二♡」
喜びを爆発させながら龍二の腕にしがみつく。
「妾も共に行く」
「それが悲報?」
「真花よ、ぶたれたいか? よいのだぞ? 新しいアジトの契約を破棄しても」
「そんなこと言わないでよ〜 お許しください萌様〜」
「よろしい、では悲報を述べるのじゃ」
その声に、真花と龍二の喉が同時に動いた。乾いた音。唾を飲む。
「資金不足じゃ」
ズコーーン!!!
二人して派手に崩れ落ちる。地面に広がる足音と叫び。
「そんなこと、なら萌の財力でいけるっしょ?」
「阿呆。妾は親に金を管理されてるのじゃぞ? 毎月多額の請求がきたら怪しまれるじゃろて」
「資金不足ね……」
顎に指を添え、真花が何やら考え始める。
「こりゃ、思ったより大変かもな……」
龍二が、半笑いのまま天を仰いだ。




