テイク-19【超キュートだって確信して】
真花がイケメンとイチャイチャ自転車夜のおデートイベント中の頃
◇◆◇◆
某テレビ局スタジオ内の控室。
鏡の前には、マジエトの各メンバーたちがヘアメイクを施されていた。
――コツ、コツ。
空間を割くように、ヒールの音が響く。
陶器のように白い肌。前髪を片側に深く流した、アシンメトリーなボブスタイル。
ベージュのミニスカートにタイトスーツ。足元のヒールだけが冷たく現実を刻んでいた。
「ちゃっちゃっとメイク終わらせて収録に向かうわよ!」
高慢な声。上から目線。場の空気がわずかに軋む。
その女の名は――小野 真理子。
年齢、四十代前半。Magie♡Etoile 専属マネージャーである。
「真理子さん、おはようございます」
セットを終えた奏が、リーダーらしく声をかける。
「おはよう奏。真花の始末、失敗したようね」
タブレットを眺めながら、目も合わせずに朝の事件を口にした。
「すみません……」
俯きながら、奏の肩がわずかに揺れる。
「奏が悪いわけじゃないわ。だけど……何故、唯に向かわせたのかしら?」
「そ、それは」
青いグローブをした手に力がこもる。そのとき――
割って入るように、唯が眉を八の字にして飛び込んできた。
「うちが由夢に頼んで、単独で行かせてもらったんス……奏先輩はなんにも知らなくて、だから悪いのは全部……」
「由夢ってことね」
真理子が言葉を切った。由夢の名を、まるで“責め札”のように。
少し離れた席。名前が出された瞬間に、由夢は目を伏せた。
「由夢先輩……」
肩にそっと触れる手。水色の髪をゆるく巻いた女が、由夢の肩に両手を落とす。
「真凛ちゃーん」
金色のポニーテールを揺らしながら、由夢が真凛と呼ぶメンバーの腹元に甘えるように抱きつく。
声をかけられた彼女は、ひと呼吸遅れて微笑んだ。
――由夢を先輩と呼んでいた。
たぶん、彼女はマジエトの“3期生”にあたるのだろう。
袖口やリボンの差し色が淡い水色で統一されていて、それが彼女のイメージカラーなのだと、自然と伝わってくる。
だがその光景が気に障ったのか、真理子はまたヒールを鳴らし今度は由夢に足を運んだ。
「アンタはもうマジエトの新しいセンターなんだから、いつまでもメソメソしてるんじゃないわよ」
「……はい」
「真花を殺るのは、唯みたいな弱い魔法少女じゃ無理なの。あの女は化け物なんだから」
「……はい」
答えながら、由夢の目に涙が滲む。
真理子はしゃがみ込んだ。冷たい笑みのまま、手にしていたハンカチでその涙を拭う。
「人気も実力もある由夢なら、わかってくれると思ったわ。今度からは気をつけてね」
優しい声色。だがその裏にあったのは、“泣かせきって心をズタボロにしたい”という本音だった。
だがそんな私情は今この場で許されない。これから始まるのは、大事な新体制の収録だから。
真理子は奥歯を噛みしめたまま、無言で立ち上がると、ヒールの音だけを残して部屋を出ていった。




