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魔法少女チームを追放されたのでイケメン集めてお前ら殺します  作者: ベルガ・モルザ
一章『多分本気出してた』

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テイク-17【あたしが地球を回してるんだ】


 

「はぁ〜♡ お腹いっぱい、身体もスッキリ♡」

 

 ベッドの上で、くるん、と腰を捻る。背骨が小さく鳴って、真花は満足げに伸びをした。

 一日ぶりに浴びた湯気と、まともなごはん。それだけのことが、まるで何年も牢にいたかのような解放感に変わるのが笑えた。

 

「新しい手も順調そうでよかった」

 

 バスタオルの端で濡れた前髪を拭きながら、龍二がベッドの端に腰を下ろす。

 

 真花は光の下で右手をかざした。精緻(せいち)な関節の動き――。

 

「あたしと龍二の、愛の結晶だね♡」

 

「変なこと言うなよ!」

 

 ぴしゃりと否定する声。

 けれどその目がキリッとしてるせいで、逆にどきっとする。

 

(イケメンすぎるだろ……)

 

 心臓がちょっと跳ねた。

 

「でも、意外だったよ」

 

 ぽそりと落ちた声。タオルをもう一度握り直しながら、龍二が視線を下げた。

 

「女の子って、あんなに食べるんだ。おにぎり一個でお腹いっぱいになるのが普通だと思ってたから」

 

 悪気なんて欠片もなかった。むしろ、真面目な感想。

 

(イケメンのくせに拗らせすぎてしんどい……)

 

 真花の目元から、とめどなく滝のような涙が流れる。

 頬を伝い、枕に吸われ、さらに湧いて――あまりにくだらなすぎて、逆に愛おしい。

 

「あのさ、ほんとに……明日から魔法の特訓始める……の?」

 

 ベッドのシーツを指先でぎゅっと掴んで、龍二が問うた。

 声は普通。けれど、眉のあたりが微妙に引きつっている。

 

 背中へそっと身体を寄せる。真花の指がゆっくりと、龍二の肩を撫でた。

 

「なんか巻き込んじゃってごめんね」

 

 ぴと、と頬が背中に触れる。

 

「べ、別に大丈夫だ……よ ささ、最推しのためなら、これぐらいどうってことない……はず」

 

 頬が、ほんのり赤い。

 

「龍二」

 

 すっと手を伸ばして、もっと距離を詰める。

 

 柔らかな胸が、意図的に背中へ押しつけられる。腕は首へ絡みつき、吐息が耳にかかるほど近く――。

 

「そう言うと思った♡」

 

「は?」

 

 耳の奥で、明るい声が弾けた。

 

「だってさー、あたしの血を飲んで覚醒して、魔法使えるようになっちゃったんだから、もう普通の生活できないに決まってんじゃん?」

 

 その笑顔は、完全にゲームを楽しむ顔だった。

 

 指揮官の顔でも、ヒロインの顔でもない。

 獲物を完全に仕留めるまで、遊び倒すつもりの女王様。

 

「あいつ等全員ぶっ殺すまで、手放さないから覚悟してね、幻想イケメン男子くん」

 

「悪魔め……」

 

 こめかみに汗がにじむほどの緊張が、声ににじむ。

 

 けれど、それすらも真花にはご褒美だった。

 小さく身体を揺らす。わざとらしく、でも可愛げたっぷりに。

 

 揺れた胸が龍二の首筋に軽く触れ、指先が喉元の汗を撫でた。

 

「あっそうだー!」

 

 耳元でいきなり跳ねるように叫ぶ。

 

「今度はなにを閃いたんだ……」

 

「コンビニいこ! 自転車2人乗りで!!」

 

「なんでコンビニなんだよ?」

 

「マジエトに入ってから、コンビニなんて行かせてもらえなかったからに決まってるでしょ!!」

 

「無断で外に出て、萌ちゃんに怒られない?」

 

「大丈夫!大丈夫! 萌は地下にいるから気づかないって」

 

 跳ねるように立ち上がる。

 パーカーのジップを一気に上まで閉めて、ウキウキと足踏みを始める。

 

 真っ黒な裾が、くるくると空気に揺れていた。

 

「ほらほら、行くよ!!」

 

 小さな手が、龍二の手首を引っ張った。

 

 扉が開く。

 靴を履く間も惜しそうに、真花は先に駆け出していく。

 

 星の光に縁取られた道――

 二人だけの、最初の探検が始まった。



 ◇◆◇◆


 

「エシャ、頼むぞ」


 銀の作業台に、白い布がぐしゃりと置かれていた。


 ほつれかけた端。重なった縫い代。はみ出すように散らばる定規、裁ちばさみ、針山。布の上には蛍光色のチャコペンが迷いなく滑り、淡く滲んだ線をなぞってゆく。


 「胴体の部分はこのぐらいでよろしいですかにゅ?」


 「……あぁ、かまわん」


 柔らかく応じる声。その横で、ブラウンのチェック柄ロングワンピースの女が椅子に腰かけ、布地の質感を確かめるように指でなぞる。


 萌と、エシャ。


 二人は新たな戦闘衣装の設計と縫製に取り掛かっていた。


 ──そのとき。


 背後のエレベーターから、電子音が一度だけ鳴った。


 「萌様ー、あのバカ二人どっかいったにょ」


 どこか乾いた、やる気のない声。


 のそのそと現れたのは、白と黒を基調としたミニ丈のクラシカルメイド服を着たアイシャだった。くたびれた表情のまま頭をかき、萌の近くで立ち止まる。


 「……全く」


 小さく吐息を漏らした萌の首元が、かすかに光を放つ。


 チョーカーに走る水色のライン──“呆れ”を示す信号。


 「連れ戻しにいったほうがいいにょ?」


 「構わん。派手なことはしないはずじゃ。好きにさせておけ」


 「はーいにょ」


 返事をしたアイシャが、そのまま踵を返しかけた瞬間だった。


 机の上に置かれたスマホが、唐突に振動を始めた。


 ブブッ、ブブッ……


 無機質な振動に、三人の視線が揃って吸い寄せられる。


 アイシャが近づき手を伸ばした。


 「あ……正晴様からにょ」


 声にわずかな揺れが滲む。アイシャはスマホを両手で持ち、そっと萌に差し出した。


 萌の肩が、ひとつ大きく上下する。


 「……パパ? どうしたの? こんな時間に」


 『あぁ……愛しの娘、萌。よかった、襲われていないんだね』


 「……なんの話し?」


 『実は、魔法少女が逃げ出してね。名は──桜庭真花』


 「……そう」


 『アイツは我々の命を狙っているんだ』


 「それと私になんの関係があるの?」


 『萌は、パパの大事な大事な宝物だ。きっと奴は、萌の命を狙うと思ってるに違いない……くそ……あの化け物め。こっちがせっかく手塩にかけて……』


 「パパ、私は大丈夫だよ……それより、いつ帰ってこられるの?」


 『萌はそんなに、パパに会いたいのだな……パパもだよ。ただ、すまんがもうしばらく帰れそうにない』


 「わかったわ……もう寝る時間だから。おやすみ、パパ」


 ──チョーカーが変色する。


 無色から、紅蓮へ。


 灼けるような怒りが喉元に集まり、逃げ場を失ったかのように燃え広がる。萌の指が通話画面の“切る”ボタンに触れた、そのときだった。


 『そうだ! 萌に一つ聞きたいことがあるんだ』


 「……なに?」


 『クレジットの引き落としが、何故かいきなり二十万と通知が届いたんだがー、なにを買ったのだい?』


 昼下がり。真花に持たせるために買ったスマホ。


 その瞬間、アライグママスクの額から、ひとすじの汗が垂れた。


 「……部品を買ったの。どうしてもほしいのがあったから、つい」


 沈黙。


 微動だにしない時間の中で、横で様子を見守っていたエシャとアイシャが、まるで神に祈るように手を組む。


 『そうか、ならいい……ロボット作り、ほどほどにな。萌。おやすみ、愛してるよ』


 ツー……ツー……


 「……バレましたかにゅ?」


 「いや、バレてはおらん」


 (気づかれた? いやまさかな)


 押し込めた吐息が漏れる。萌は指先でマスクの位置を直すと、無言で裁ちばさみを手に取った。


 机に戻り、もう一度布を睨む。


 チョーカーの赤はまだ、じわじわと燃えていた。

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