第二話エンカウント②
「え?」
雨音混じりに聞こえた凜とした声。
声の主を辿るよう振り返る。
ベンチの端にいたのはネイビーのブレザーを身に纏った女子生徒。
すらっとした体型に黒タイツで包まれた長い足。組んで座る様はまさにスタイルの暴力。
腰までさらりと流れる黒髪は痛み一つ見えない。
「なにをじっとみつめて、アホ面晒してるのかしら?」
「あっ、はい。えーっと」
いきなり辛辣。たしかこういうときは・・・・・・。
「こ、こんにちは~」
「はい、こんにちは」
さらっと返された。とりあえずファーストコンタクト成功?
「い、良い天気ですね」
「・・・・・・ハァ?」
響く雨音。うん、セカンドコミュニケーション失敗。私の会話デッキ乏しいな。
「あなた」
「はい」
「友達いないでしょ」
「いいいいい、いっぱいいらぁー」
揺らぐ視界。少し冷めた目で見つめられる視線がかなり辛い。痛い。泣きたい。
「まっ、どうでもいいけどね」
うごご。どうでもいいならわざわざ言うなよな。初対面だぞ。顔が良ければ何言っても良いって思ってるのか。実際、顔は良いけどさ。
「あ、あなたなんなんですかっ! いきなり現れたかと思ったら毒ばっかり吐いて! 妖怪毒吐き女ですか!?」
「ネーミングセンスもないわね」
「ほら! 隙あらば言ってくる!」
ほんとになんなんだ。
「それで日隠朝菜」
「え? はい。日隠朝菜です」
「そう。朝菜」
「えっ、いきなり名前呼び・・・・・・この人こわ」
「じゃあ、モブ美がよかったかしら?」
「いや。朝菜でいいです」
謎の美少女さんはそう言って立ち上がると、こちらに近づいてきた。
「え? な、なんすか」
「どいて」
「あ、はい」
そう言われて場所を譲る。
何事かと思ったが、彼女は私の愛車に用があったらしい。
彼女の白い手がチェーンに触れようとする。
「あの手、汚れますよ」と言おうとしたその時。ガシャン。自転車が軽く跳ねた。
「え、えー?」
「はい。直ったわよ」
手をパッ、パッと叩くと一仕事こなしたかのように鼻を鳴らす彼女。
「どうもありがとうございます」
「どういたしたまして」
試しにペダルを回してみる。
本当だ。ちゃんと直ってる。
「なんでチェーンのことわかったんですか?」
疑問符を浮かべて彼女の顔を見つめる。
「見えるのよ。そういう感じ」
「見えるって?」
「息づかいみたいなものね」
変なことを言う人だなぁ。もしかしてそっち系の子なんだろうか。
「まぁ、貴女とは似たもの同士ってことよ」
「そうなんですね」
同じ括りで見ないでほしいなぁ。
ん? そういえば、雨音が聞こえなくなってきたような。
空を見上げてみると雲の隙間から一筋の光が差し込んできていた。
「雨止んだみたいですね」
・・・・・・そうだ。謎の美少女さんのお名前なんていうんだろう。お礼もしないと。
「あの、お名前・・・・・・」
そう思い振り返ってみる。
「なんていうんです、か?」
視線の先には誰もいなかった。あれぇ?
これって、もしかして・・・・・・。
「忍者かな?」
颯爽と現れて、どろんと消える。なかなかかっこいいじゃない。
***
謎の忍者美少女さんとの邂逅から何事も無く一週間。あれから何回かバス停の前を通ったが、彼女に会うことはなかった。
お礼したいんだけど、会えないからなぁ。
こういうのって、持ち主がなかなか現れない携帯も同じ気分なんだろうか?
ガラケーは次々と淘汰されていくこの時代に未だにパカパカするのはパカパカしい。
かといって、スマホは買って貰えないんだよね・・・・・・。
バイトするか・・・・・・。
放課後。私は愛車に乗って下校していた。
空模様はご機嫌斜め。灰色空にどんよりとした空気。
あぜ道をぼこぼこと走る。以前の失敗は繰り返さないように下を見ながら、おっかなびっくりハンドルをぎゅっと握っていた。
やっと危険エリアを突破しようと言うとき。 顔を上げた。それがいけなかった。
目が合った。白いくねくねしたやつと。
ぐにゃりと視界が歪む。最後に焼きついたのは醜悪な笑みを浮かべた白いやつの表情だった。
***
あれ? なんか頭が柔らかい? それになんか落ち着く。
うん・・・・・・もう少しこのまま・・・・・・
「起きたならどきなさいよ。ひねり潰すわよ?」
底冷えとしたその一声に背中につららを入れられた感覚を覚えて起き上がる。
「ごめんなさい!」
「第一声が謝罪の言葉なのは感心するわ」
声の主に聞き覚えがある。この冷え冷えとした声の持ち主は・・・・・・。
「謎の毒舌美少女忍者さん!?」
「もう一回寝とく?」
そこにはいつぞやの彼女が眉を顰めて私を見つめていた。




