表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

聖女サマの世話係。

 

 ――視界に映るのは、見慣れた自室の天井。


 朝を告げる、聞き慣れた鳥の鳴き声。


 オレは、死んだ。


 死んだ、はずだ。


 寝ていた布団から上体を起こそうとする。


「――おわッ…!」


 バランスを崩す。

 いつもあるはずのものがない。


「――そういや腕ごともってかれたな…」


 徐々に思い出してくる。


 あの砦で戦ったこと。

 負けたこと。



 ――皆、逝ってしまったこと。



「なんでオレは生きてんだ…?それとも夢でも見てんのか…」


 自室を出て、階段を降りる。


 軋む階段。


 降りていくにつれ鼻腔をくすぐる美味そうな匂い。


 キッチンには鼻歌を歌いながら料理を作っている小さい人影。


「――聖女、サマ?」


 オレが呼ぶと聖女サマが手に持っていた物が床に落ちる。


 こちらをゆっくりと振り向く聖女サマ。

 その瞳には今にもこぼれそうな涙があって。



 ――嗚呼…もしも、これが夢なら覚めないでくれ。



「――約束、守れたかな。聖女サマ。」


「――…ッ!おかえり、なさい。」



 そう言って抱きついてくる聖女サマ。



 きちんとした感触がある。


 夢じゃねェのかな。



 いけねェ。視界がぼやけてよく見えねェや。



「――ただいま。」




――――――――――――――――――――




 話を聞いた。


 どうやらナール国は負けたらしい。

 それも全面降伏。従属という形で、だ。


 なぜ一回の負けでそこまでいったのか。

 想像の倍々くらいにお偉いさん達が腐っていたからだ。


 あの戦で負けた貴族達は我先にと自身の領地や王都のタウンハウスへ逃げ帰った。


 そしてそこからは自分たちを守ることに注力するのみで、王都を民を守ろうという考えになる者たちはほぼいなかったらしい。


 それだけ国としてもう終わっていたということだ。


 だからこそ王都が包囲された際、その事実に慌てふためいた汚職まみれの官僚たちが降伏することでさっさと合意。


 そうして長きにわたる隣国との戦争は、あっけない終幕を迎えた。




「――なんか今までが馬鹿らしくなるなァ…」



「あら!戦争終わったんだからいいじゃない!私とおじぃさんはやっと終わったわねって喜んだところよ!」



 ――ところかわって修道院。



 聖女サマと再会したオレはしばらく休養した後、また聖女サマの世話係として働いているというわけだ。



「そうじゃそうじゃ!ワシだってこれで毎日嬢ちゃんと会えるというもの!」



 王都が包囲されたとは言え、すぐ降伏となったことでジイさん達は何も変わらず元気なままだった。


「ジイさん…聖女サマにしつこくて嫌わてないといいけど…」


「――…ッッ!!え…?ワシ、しつこい…?」



 なんだか絶望の表情になっているジイさんを見ていると、遠くから怒鳴り声のようなものが聞こえてくる。


「――聖女……様!!早くこちらの方を治療……してくださいませんか!」



 聖女サマは怒鳴っていた人物を見ると一言。


「貴方達で、やって。」


 戦争前とでこの修道院が唯一変わったこととして挙げられるなら、聖女サマの立場だろう。


 隣国にとって聖女という存在はとても大切にされる存在で、それは敵国だろうと関係ないということだった。

 なんでも建国した際の王妃が聖女と呼ばれていたことが理由らしい。



 そんな訳で聖女様の立場というものは俺なんか霞むくらいに偉くなっちまったってことだ。



 まぁそれでも聖女サマの態度なんてもんはこれっぽっちも変わらない…、いや、聖女サマをこき使ってたヤツらには前とは違う態度だが。



「聖女殿ッ!聖女殿はいるか!」



 聖女サマがバカどもの相手をしていると、修道院の扉が勢いよく開く。


 よく通る声で聖女サマを探すのは、なんと隣国の王子サマだ。

 まぁ、王子サマといっても、まだまだどっちも子供だが。


「今日はそなたの為に花を選んできたのだ!この花などまさしく聖女殿の様に可憐で美しく――」



 話しかけられている聖女サマは、王子サマの話の途中から誰かを探すような仕草。


 ――これはマズイぞ…そっとその場を立ち去ろうとしたその時。


 後ろにクンっと引っ張られる感覚。


 まさか、と思い恐る恐る後ろを見るとオレの服の裾を掴んでる聖女サマがいた。


 それを見てニヤリとするジイさん達。


『おぉ!どうやら聖女様は、この世話係のあんちゃんの方が気が合うようじゃ!やはり聖女様は世話係のあんちゃんと一緒に、ここにいるべきですな!!』



 オレは大きくため息を吐く。



「はぁぁ…。聖女サマ…まじか…。」



 聖女サマはオレがため息を吐くと、目を閉じ頬を膨らませそっぽを向く。

 その姿は、歳相応で。そんな聖女サマをみる皆の目はとても優しかった。




「おま……。大丈夫だ。あっち行けなんていわねぇよ。ほれ、目ェ開けろ。行くぞ。」



 聖女サマはゆっくりと目を開けて、花が開いたような笑顔をオレに向ける。


 同じ様な会話をオレが世話係に任命された時にした気がする。

 その時はこんな笑顔が見れるなんて思っていなかった。



「全く…。聖女サマがこっち来るたびに、オレがすげェ王子サマに睨まれるんだからな…?」 



 聖女サマに小言を言っても聖女サマはにっこにこだ。


 まぁしょうがねェ…。

 甘やかし過ぎかもしれねェが、聖女サマの嫌なことはしてほしくねェし、やりてェことは、たっくさんやってほしい。



「王子サマ…ほんとすみませんね。ただ、聖女サマが嫌がってるなら無理強いはしないほうが良いと思いますよ。」



 聖女サマが困っているなら助ける。


 危ねェ目にあうなら護る。


 やり過ぎなら止める。


 俺は何があっても聖女サマの味方だ。


 聖女サマ最優先だ。



「また貴様か!毎度毎度、聖女殿と私の邪魔をするんじゃあない!大体、貴様は聖女殿の何なのだ!」



 ――なぜかって?聞かなくたってわかるだろ。


 だってオレは――






「あー、オレは、聖女サマの、




 ――世話係だ。」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ