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神異風

「先輩、難しい顔してるね?」

「…………雀子にも分かるか」

「短い間だけど、一緒に暮らしてるもん、ボクを何だと思ってるのっ」

 真紀さんからの条件を受けた後、解散して部屋に戻った俺は早めの夕食を雀子と楽しんでいた。今日は怪しまれない為のバイトを入れていたが、対処しようと思った矢先に俺が殺されて成り代わられたりしたら話にならないので芽々子に代わってもらった。彼女が別で動かしてる自分を派遣してくれるらしい。

  

 ―――誰が死んで誰が生きてるのか。


 把握する方法はない。目の届かない所、今なら自宅の外だが、こうしている間に誰か死んでいても俺達はそれに気づく事など出来やしない。二年生が丸々偽物でも誰も気づかなかったように、それは言葉で言うよりも何十倍も難しい。

「本物と確信出来るのは、お前と芽々子だけだよな……」

「え、何が?」

 雀子は同じ屋根の下で暮らしているから変化に気づきやすく、そもそもこの太く長い尻尾を掻い潜って殺すのは難しそうだ。芽々子は本人が一番気を付けていると思うが、スペアボディが何体かあるので殺される事への耐性がそもそも高い。複数いる内の一体とすり替わっても彼女だったら個体番号を振るなどの対策をしているだろうから、誰が信じやすいかと言われたらこの二人になってしまう。

「…………いやさ、聞いてくれよ。殺して人間と成り代わるまずい奴が居るんだ。人形怪異ってのはどいつもこいつも隠れ方が悪質なんだな」

「また変なのと戦ってるんだ。ボクには関係なさそう。名前はなんて言うの?」

「それが本当の名前を口にしたら殺しに来るって言うんだ。倒し方がなんか、本来の身体を見せる? 教える? 事らしくてさ…………ん?」



「「え?」」



 雀子の前で言ったからこそ、二人で顔を見合わせる。箸も止まった。

「サソイ゛ノ ミハって……確か名前を知ったら駄目なんじゃなかったか?」

「そうだよ! ボク、それから逃げてきたんだ! う︿︿╱ん、どういう事?」

「確か……お前は逃げてきたんだよな。何処かに閉じ込められてて、その名前を知ってるかと言われて名前を教えられて……お前は実体がない事も知らなかった。でも、食べられそうな予感だけはしてた」

「そうっ! その名前は、あの芽々子って人が勝手に言っただけで聞かされたのは違う名前だけどそうなんだよ。周りは真っ暗闇だったけど絶対に近くにいるって確信してた! 先輩のお家に来てからその気配が全くない理由は分かんないんだけど、でもなんか、似てない?」

「確か芽々子は呪いの言葉とか言ってたから、実体があるっぽい事は確認出来てるし同一の存在じゃなさそうだが……無関係とも思えないな」

雀子がこの部屋に来てからというもの、それに準じたトラブルは起きていない。彼女が来たせいで常日頃何かに襲撃されていたなら話は違ったが、だからこそ忘れていた。そして、この島を取り巻く状況の根深さを再確認した。


 そう、何も見えていないのだ。


 出てくる怪異に対処をしているだけで根本的な問題を解決する事が出来ない。仮想現実においては世介中道会が崇める怪異を見つけたが、そいつに発見されたとたんこの島は崩壊した。だから手が出せない。

 やり直したって勝てない? 考えてみれば当然の話。俺達は負けない為にやり直していただけで勝とうとは思っていなかった。だからいつまでも勝負が終わらない。

「ねえ先輩、その調査、ボクも参加していい?」

「何? でもお前は狙われてる筈じゃ」

「いつまでも逃げてたら世話ないでしょ? 先輩にだって迷惑を永遠にかけたくないし。性質が似てる相手なら対処法も同じように出来るんじゃない? ボク結構強いから、役に立つと思うんだよね!」

 雀子はぴょんと座った状態から跳ねて立ち上がる。よくもまあそんな器用な事が出来ると思ったが、種明かしをすれば単純。足元で尻尾がばねの様に積みあがって体を突き上げたのだ。

「思えば先輩にご飯くらいしか恩返し出来てないし、一回だけどう? この尻尾の使い道が出来るだけでもボクはとっても嬉しいんだけど」

「ああ…………いや、うん。無理はしないって約束してくれ。確実に信用出来る人間を喪うのは精神的にきついものがある」

 昔はやり直す事でそれを防げたが、今はもう、そうはいかない。使える物を何でも使うと決めたなら危ないかもしれないなんて下らない気遣いをしている余裕はないだろう。俺にはその余裕を維持する能力も、知識もない。対症療法と言われても目の前で起きた事、たった今生まれた方針に向かって全力で取り組み解決するだけだ。

「やった╲/╲︿_/︺! センパイ、よろしくね!」

「頼りにするからな」




















「…………一度帰ったと思ったらこれか。お姉さん、役目を失ったなら惰眠を貪りたいなあ」

 人形が一体。名前は国津守芽々子。今回の仲間は雪乃響希と天宮泰斗で、現在は死亡者なし。島の活性度は三〇パーセントのまま。

「私が後悔するというのはどういう意味?」

「そのままの意味だよ~。事件解決結構だけど、それで果たして君が得する事はあるのかなあって言いたいの。一人でわざわざ訪ね直したのは、思い当たる節があるからなんじゃないのお?」

 武装無し、身体は本体による遠隔操作で、破壊行為に意味はなさそうだ。敵意もなければ悪意もない。不思議な事に。

「……腹を隠しあってても仕方ないわ。私、記憶がないの。だから思わせぶりな態度を取られても分からない」

「記憶がない? それはまた面白い冗談だねえ。記憶がないならここまで上手く事は運べていないような気がするけど」

「…………」

「芽々子ちゃんがつまみぐいした世界の私が何回目の繰り返しかは分からない。案外五〇回目くらいかもしれないし、ひょっとしたら二〇三四回目かも。記憶がないって言うのが本当なら、どうして私は多くの世界で全く同じ結末を見ないといけないのかなあ」

「そんなの知らない。記憶がないの。始まりの記憶が……どうしてこの島に怪異が存在しているのか。私の身体が人間で、怪異も何もいない時代は確かにあった筈なのに思い出せない。思い出そうとすると、みんなが死んだ景色ばかり頭に浮かぶ」

「守り人なんだから、仕方ないでしょ」

「…………?」

 疑問点の解消を得る。原理は違えど仮想ノードを移動するような科学力があれば不思議はなかった。人形にされた? いいや、人形になる予定が最初からあったというべきだ。人ならざるその体は、初めからこの為だけに用意されていた。

「う~ん。そっかあ。やり直しはもう出来ないんだっけ? だから私の協力が欲しいってそういう話だったよねえ」

「ええ」

 冷蔵庫の中から缶ビールを一本取り出すと、正気に戻る為の一口を呷り―――脳に施された医療術式を麻痺させる。

「………………神異風カムイフ計画を失敗させる絶好のチャンスだ。やり直せないなんて今まで一回もなかった変数だし、オールインも悪くないか。無関係だったのに計画に巻き込まれた泰斗君を―――そろそろ助けたいと思ってたんだよ」

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