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大人達とあそぼ!

 教室の扉を閉めると、三姫先輩は廊下から見えない位置に座って胸の下で腕を組んだ。

「未来の私の情報によると、先生たちは放課後も残って何かをしているという事。そっちでは部活を目安に発見したけど、学校の業務と無関係ならテスト期間中も同じ事が行われている筈。こっちの私はまだ知らないから、悪ふざけで残った人はもう少し時間を置かないと現れないかな」

「そいつに関しては隠れ場所が悪かったか、失念してた何かがありそうじゃないか? 引っ越したって事はバレたか、もしくは姿を現して助けを求めないといけなくなったかのどちらかだ。まあこの学校にはないが……例えば何処か危ない場所に挟まって動けなくなったかとかな」

「だからかくれんぼですか」

 しかし学校でかくれんぼなんて小学校の頃にやったきりだ。それも校内宿泊という変わったイベントがあったから出来た事で、その時は全校鬼ごっこもやったけど学校には意外と隠れ場所がない。語弊があるか、ここは流石に誰も来ないだろと思えるような場所は大抵誰かが来ると言った方が正しい。同じ発想をする人間はいつの世も居るのだ。

 公共施設に隠し部屋なんてのは滅多に存在しないし。仮にあってもそれは生徒側より遥かに教師側が把握しているだろう。生徒だけが把握していて教師が全く存在を知らない部屋なんてのはない。そして校内の見回りがあるなら人間の心理としていかにも隠れやすそうな場所は重点的に探されるだろう。教師の誰にも見られたくないなら尚の事意識は、隠れやすそうな場所へと向く。

「隠れ場所に当てはありますか?」

「あったらこんな会議じみた事はしねえよ。三年生はある程度目をつけられてるっぽいのも含めて、露骨には探せなかった。一応お前の意見が聞きたいと思ってな」

「隠れ場所ね……外は駄目ですよね。あの録音曰くカーテンで中を隠すから校内に居ないといけない。ロッカーは隠れやすそうですけど、逃げ道は全くなくて、見つかったらその時点で詰み」

 何ならロッカーを引き倒されるだけで脱出手段を失って後は如何様にも料理出来るまである。ロッカーの背中に人が乗るだけで殆ど拘束は完了したようなものだ。力ずくでロッカーをどかしたら大勢に囲まれていたなんて笑えない。

「……外部からの意見ですが、本気で見つからないようにしたければ事前に仕込みをして誘導をする事が単純明快且つ、可能性の高い方法でしょう。問題は時間制限などなく、仕込みはかえっていつもと状況が違う事を相手に教えてしまうだけです」

「いつも何か集まりがあったとしても、怪しい事が起きたなら今日は中止ってやればそれだけで私達の苦労は水の泡だしね。勘弁してほしいわ本当。バレないって言っても隠れてるかもしれない事すら悟らせないなんて、無茶苦茶」

「隠れるなんて発想すら思い当たらない場所があればいいんですけどね。木を隠すなら森の中って言いますけど、教師になりすますなんてのも出来ないでしょうね」

「木を隠す…………あ、そうだ。逆に考えてみましょう。隠れてる事さえ悟られずに隠れないといけない……つまりそもそも大人側に隠れようという発想が出てこない場所に行けばいいの」

「三姫。だからそんな場所ねえって。厳しいだろ」

「場所がないのはバレないって方向でしょ。私が言いたいのは、大人達が隠れ場所として認識してなければそこがたとえどんな場所でも関係ないんじゃないって話。だからさ、職員室なんてどう?」



「はあ!?」



 声を上げたのは岩戸先輩だったが、同じ意見だ。職員室に隠れるってどうやって。一方で確かに隠れられれば、探そうとは思わないだろう。職員室には常に誰かが常駐しているし、生徒側の視点に立とうとしても、やっぱり他にまず場所があるとなる筈。

「不可能という点に目を瞑ればって奴か? 不自然さもなしに隠れられる場所じゃねえぞ」

「付け入る隙はあるよ。悪ふざけで誰かが残ろうとして失敗したって所。この学校はまともじゃないけど一応まともを装うつもりはあるから、例えば部活までに残ってる生徒には早く帰れって注意で済ませるだろうし、部活が終わった直後も忘れ物を取りに来たとかで猶予はあると思う。じゃなきゃ私達以外にももっと多くの人が不自然さに気づく筈だから」

「つまり……まだ注意だけで済む内に誘導を行って職員室に入るって事ですか?」

「そういう事。勿論偶発的に起きてくれる方が一番いいけど、そんなのは計画とは言わないから私達の内誰かが引き受けるべきね……霖さん? 完全な部外者である貴方にお願いしたいわ」

 霖さんは帽子を少し持ち上げると、口から上の部位が存在しない事を俺たち全員に再確認させた。

「……邪魔はしませんが、介入すると不都合ですよ。いずれの仮想においても私という存在は例外処理が行われていますからね」

「そ。じゃあ丹葉。一番デカいアンタに頼む」

「俺ぇ!?」

「文句ある?」

「いや、ないけど! お前からの好感度を挽回するチャンスだと思えば前向きに取り組めるさ。じゃあ俺がやるとして、注意だけで済まされるような仕込みってなんだ? 正直全然思いつかないぞ」

 あまり大仕掛けにしすぎると今日はおかしな事があったぞという警戒をされかねない。するのは飽くまで日常的にあるような不自然さ。かつ、それで大勢の職員を一瞬でもつり出せるような方法。中々どうして無茶な提案だが、今回は前向きな意味で何事にも例外がある。むしろ俺にはそれしか思いつかなかった。

「あの―――今はテスト中なんで部活の騒動とかは使えない訳ですけど、部活とは無関係に外で遊ぶのはどうですか?」





















「岩戸ぉ! お前三年生の癖になにやってるんだ!」

「いやあすんません! すんませんほんと! だってみんな進路相談とかで遊んでくれなくて暇だったんすよ~!」

「遊ぶのはいいが、学校で壁打ちをするな! 一階の窓を無差別に割りやがって、どうしてくれるつもりなんだ!?」

 勝手に遊んでいる分には先生達も黙認で済ませるしかないが、それで学校の備品を破壊しようものなら注意せざるを得ない。だがそれは学生生活上起こり得ても仕方ないようなリスクであり、それが理由で教師が岩戸先輩を引っ越させる事はあり得ないのである。

「この事は親御さんに報告させてもらうからな! お前の進路にも……変化が…………」



「早く行きましょう」



 岩戸先輩がリスクを背負ってまで割った場所には校長室や職員室も含まれる。破片掃除の為に職員は一時的に別室……というか先輩を問い詰めに行った。職員室近くの教室に身を潜めていた俺達はその気に乗じて職員室に侵入。ただし職員室からグラウンドの見通しは悪くないので遠目からでも立っていれば俺達の姿がみえてしまう。しゃがみつつ隠れ場所を探す。

「こ、これ何処に隠れますか!? な、なくないですか!」

「ロッカーは良さそうだけど二人分も入らないし、多分今に使いそうだからなし。引き出しは物理的に入れない。思いついたはいいけど思った以上に隠れ場所ってないね。でも大丈夫よ。この学校、宿直の概念があったなんて知らないけど、仮眠室が奥の方にあるみたい。ま、大方後始末をする人が必要なんでしょうね。俺ら先に帰るからお前教室掃除よろしくな、みたいな?」

 だがそこは仮眠室というよりも空きスペースと言った方が正確だ。入り口から死角になるように職員室と地続きだが、窓は見当たらないし粗末なパイプベッドの上に敷布団が一式乗せられている。明かりもないから真昼間でも薄暗い。職員室からの残光のみが頼れる光源なんて―――寝るだけなら確かにそれでもいいだろうが。

「この下、詰めれば二人隠れられそうじゃない?」

「で、でもベッドのタイプ的に透けてますよ。布団を敷いてくれないとこれは―――」







「誰も敷いてないのにそこを動かしたら誰か隠れてますって言うようなもんでしょ。ここは賭け。人間の視界なんてのは曖昧でね。そこに隠れてるって発想がなければ見えていても気づかないなんて事はザラにあるわ。ここはあからさまだから隠れる筈がない。そもそも見えるし―――そんな認知が目の前の景色を歪ませる。まして職員室と地続きなら猶更、生徒の事なんて考えもしないわ。ここしか他の部屋がないなら別だけど―――幸い学校には、ミスディレクションの役割を果たしてくれる隠れやすそうな場所がごまんとあるから」

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