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形代の君と開かずの恋に堕つ  作者: 氷雨 ユータ
Parts3 無愛

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80/150

伊達に先輩殺ってない

 仮想世界を良い事に、不死身の人間二人を頼って怪異を攻略する。どうも卑怯な感じがしてならないが、卑怯と言い出したら攻略自体が薬だよりな俺達の方が余程卑怯だし、こうでもしないと勝ち目すらない事は忘れたくない。たとえ体に甚大な障害が生じたとしても勝つ為には必要な犠牲だったと割り切る事が大切だ。

「死なないなんて変な気分だけど、まあ元々死人だし気にしない気にしない。そのくらがりさんって奴の特徴は?」

「無機物に食欲を与えて人間を襲わせます。ただ本体はかくれんぼをしてるみたいで、一番暗い場所に隠れてるんですけど……」

 仮想世界の中ではまだ襲撃されたクラスメイトも少なく、殆どは普通に生活している。あの時俺がどうにか対処出来たのは向こうが勝手に密室を作ってくれたからだ。部屋の電気は全て消えた状態で存在した光源は塞がれた窓から僅かに漏れる月明り。極端に光源が少ない状態だったからこそ、思いつく事が出来た。今はどうだ。まだ人が多いし電気も落ちていない。一番暗い場所を作る事は難しい。

「……成程。光を持って探そうとすればするほど見つからないって事。概要は分かった。ここって仮想世界なんだから何してもいいんでしょ。岩戸、アンタは外で待機。向こうの屋敷から偽物の二年が来る可能性もあるし」

「何するつもりですか?」

 カンっと、コンクリートを金属が叩く音。三姫先輩は物置から鉄パイプを取り出すと、手首だけでぐるぐる回して、なじませるようにまた地面を叩いた。

「君はくらがりさんと戦う時に何したの?」

「あー……殺された人って偽物として平然と生活する事を知ってたんで、見分けが付けられないって事で仲間が突入して一旦全員殺してました。俺はその内に薬を使って色々やって、後は最後に直接対決って感じだったと思います」

「うん、それで正解。偽物には私達も散々困らされたし。君との現実の差異をなくすんだったら私も同じ方法を取ろうかな。とりあえず殺しながらブレーカー探すから、電気が落ちたら入ってきて」

「殺す事には抵抗ないんですか?」

「君たちが使うような便利な薬なんて私にはなかった。あったのは覚悟だけ。捨てられたのは道徳だけ。やるしかないんだって気持ちで戦ったの。その薬の事を知ってたら、ほんと、分けてほしかったな」

 先輩は冗談めかして微笑むと、俺の案内を受けて森の中へ。問題となる屋敷まではそう時間はかからない。岩戸先輩もわざとらしく笑って、とても気まずそうにしていた。

「…………岩戸先輩も?」

「あーまあー仕方ねえだろ! 俺はほら、流れみたいなもんだからさ! まあまあ? まあまあまあまあ。仕方ないっつーか? うん。そんな感じだよ」

 薬の副作用に悩まされる事自体が幸福なのかもしれない。たられば論を実現させる究極のやりなおし薬。ままならない難点は幾つも抱えているが、それでも俺はそれだけで勝敗を覆し、芽々子はそれだけで戦い続けられた。配られたカードに不平不満を抱ける立場ではない。

「二年生の死を、先輩達は知らなかったんですよね? どう思いますか? 二年生にも俺達みたいに抵抗勢力って……居たと思いますか?」

「さて、どうだろう。いなかったから瞬く間に成り代わられたんじゃない? 結局、誰が旗を振ってるかでしょ。私が死んだら丹葉は心が折れて向こうについた。情けない事にね。君も、仲間が死んだら同じ決断をしないって確信はある?」

「…………分からないけど、岩戸先輩みたいに向こうにつくって事だけはないと思いますね」

「へえ?」

「俺は外の人間です。心が折れたとしても殺されるのがオチなんじゃないですかね。薬がなきゃ勝ち目がない戦い、そんなのは分かってます。だけど、もし二人が死んでも、俺にはまだ守るべき人がいて、力になってくれるかもしれない人がいる。殺されるのは仕方なくても、その人達を裏切りたくない」

 雀子と真紀さんの存在は、想像以上に自分の中でも大きな比率を占めている。どちらがどちらより、と言う比較はない。雀子は居候させている俺に感謝をし、全幅の信頼を置いてくれている。真紀さんはどんな事があっても味方と言ってくれて、更には物理的に排除されない程度の強さまで持ち合わせている。

 裏切りたくないのは、せめてもの誠意だ。

「死んでほしくはないんですけどね!」

「……かっこいい事言うじゃん。後輩、君の覚悟は中々決まってるよ。これは、頼って正解だったかもというくらいには」

「おいおーい? お前さー、先輩を立てようって気はないのかー? 俺俺、俺をさ! ワンチャンスがノーチャンスだった俺に同調する事で相対的に評価を戻そうって魂胆だと思ったのになーんか話が違うぞっ!」

「アホはほっといて」

 件の屋敷に到着する。時刻は夜十時程。全員が眠りにつくと言いたいが、多くは勉強をやめて遊んでいるだけだ。喧噪が漏れるほどではないが、多少遠くてもハッキリと電気が点いている事が分かる。芽々子と響希は今回消えてしまったので考慮しなくていい。

「じゃ、少し待ってなさい。クラスメイトの死ぬ所なんて見たくないだろうから、背中についてくる必要はないわ」

「大人しく待ってようぜ後輩。俺も大人しく向こうを見張ってるから」

 


 間もなく、屋敷から響き渡る悲鳴。



 ブレーカーを探すのに時間がかかっているのだろう、暫くはガラスの割れる音や壁を叩く音しか聞こえなかったが、やがて屋敷全体の電気が落ちて内部のパニックは一層加速する。

 構わず中へ入って適当な個室に当たりをつけると、中に入って内側から鍵を閉めた。窓にはカーテンと、それから布団を積んで物理的に月光を遮断する。状況は違ったがこれで一番暗い場所の作成は完了だ。飴は持っていないが―――何かに使えそうだと思ったので、『くらがりさん』から貰った小さな犬のぬいぐるみを暗闇に差し出す。

「…………また俺の勝ちだ。もう暗いからお家に帰ろう」


」ぼくと あそんだこと「ある?


「ああ。また遊ぼうって約束した。このぬいぐるみは多分お揃いだろ。そして次も俺が勝った」


から」つぎは まけ「亡いまたあそぼ


「…………次があるかは分からない。お兄さんの身体はもうボロボロでさ。でも次があるなら、約束する。遊ぼう。でも次も勝ったら、今度こそ終わりだ」

 暗闇の中に小指を向けると、ふんわりとした冷たい感触が巻き付くように絡みついた。数秒、何とも穏やかな空気が続いて感触が離れていく。ここには誰も居ないし、何も聞こえないし、見えないが。やはり彼はそこに居た。遊び盛りの無邪気な子供が、そこに。

 鍵を開けて廊下に出ると、先輩から逃げ惑っている最中のクラスメイトに遭遇してしまった。仮想世界につき影響はないが、そんな事とは知る由もないクラスメイトは俺を見るや縋りつくように腰へ突っ込んできた。

「泰斗! た、た、助けてくれ! 女! 女がみんなを!」

「殺した?」

 クラスメイトが、顔を見上げた。

「お前、何でそれ」

 最後まで言葉を紡ぐ事も叶わず、目の前で知った顔が叩き潰される。見たくなくて反射的に目を瞑ってしまった。何の影響もないと言ったが前言撤回だ。返り血の生温さだけは、無事生還したとしても忘れる事はあるまい。


 ―――。


 その程度の反応で済んでしまうか。仮想性侵入藥は俺の精神性に大きな欠陥をもたらしているかもしれない。もう大きく取り乱すような事もなくなるなんて。或いはその原因は薬というよりも……現実の俺が死にかけているからかもしれないが。

「倒した?」

「はい。倒しました」

「ん。じゃあ帰りましょうか。今は綺麗だし、お風呂でも入ったら? どうせ暫くはこっちに居るんでしょ?」

「どれくらい滞在するかは俺も分かんないんですけどね。霖さんが教えてくれない事には全然見当もつきません」

 向こうから起こそうとしない限り制限時間がないのは、長所でもあり短所だ。先輩に手を引かれながら外に出ると、岩戸先輩が向こうの屋敷から騒ぎを聞きつけてきた二年生を次々と殴り殺している所に遭遇してしまった。

「…………確か二年生が全滅してたのよね。じゃあ殺す必要があるか」



「うわああああ! やめろ三姫! お前はその後輩を守れ! 俺はなんか! 死なない! 不死身の男へと昇華した!」



「うん。さっきそう説明されてたし、そもそもそれで納得したのに何言ってんの?」

 三姫先輩は鉄パイプを杖のように突きたてると、仁王立ちをして盾のように俺を覆い隠す。不死身の男の相手は時間の無駄と悟ったか、何人かは人間性を捨ててこちらにとびかかってくる勢いだ。

「先輩らしさを少しは見せてあげないとね。君はそこで大人しく私に守られなさい。先輩を敬う気持ちってのを義務的にじゃなく、本能で抱かせてあげるっ」


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