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カラダサガシ

 食堂にあるマップを見れば一先ずこの階については把握出来るだろう。芽々子では身長が足りないようなので、マップを剥がすのは俺の仕事になった。パソコンというと制御部門のあれが目に浮かぶようだが、部門が違う以上、有用な情報があるとも思えない。わざわざ外に行くのも億劫というか……

「何でこの研究所、時計が何処にもないんだよ」

 外の時間帯さえ不明だ。朝も昼も夜も変わらない。真っ白い壁に囲まれているから何も気にならない。クラスメイトは生活出来ているだろうか。現在、教師陣はほぼ機能停止状態に陥っているが、それでまともな学校生活は送れるのか? 自問しておいて何だが、それはコンピュータ次第だろう。異常事態に対応するコマンドが出力されていなかったら歪な学校生活が外で始まっているだけだ。

「…………このエリア管理室というのは何?」

「エリア……分からないけど、パソコンがありそうと言えば有りそうだな」

「研究所全体はとても変わった構造をしているけど、この部屋は中でも出来るだけ奥に配置されているみたい。記憶があれば良かったんだけど、もう知らないわ」

「行きたいなら行ってみよう。大丈夫、相手が今度どんな手段を取ろうと俺達ならやれるさ!」

 怪異の特殊能力を条件付きで行使出来る『白夢』と、一部分でもあればその怪異に向けた特攻武器を作り出す『黒夢』。俺達が幾ら素人とは言ってもこれだけ強大な武器があれば立ち向かえる。銃の撃ち方を知らない素人が銃を持っていても、怖くないなんて言わない筈だ。

 まして俺はついさっき使ったばかりで、その感覚はまだ手に残っている。今度は、大丈夫。誰も犠牲にしない。

「……それは相手だって同じ筈よ。あの放送を相手も聞いてるなら貴方にはまだ味方がいる事は把握出来ても私とは思われていない。とはいえ、その鞄が貴方の手に渡った事くらいは把握出来ているでしょう。怪異を使った実力行使というだけならどうにかなっても、それ以外は……どうかしら」

「それ以外?」

「例えば、この研究所全体を爆破して私達を生き埋めにするとか」

 …………物理的な排除か。

 それなら確かにどうしようもない。だが極端すぎる例だ。車を運転していて突然隕石が落ちてきたらどうしようなんて想像する奴はいないように、それは考慮しなくていいだろう。

 死体の波は撃破したかもしれないが残党が残っている可能性は否めない。食堂から気を緩ませる事なくゆっくりと目的の部屋まで歩いていく。どうという異変はないが、横目で彼女のポニーテールの揺れを見ていると、視線が合ってしまった。慌てて話題を振り、誤魔化す。

「…………記憶を適宜渡されるってあんまりイメージ出来ないんだけど、渡されてから没収された記憶って思い出せもしないのか?」

「説明が難しいわね。記憶は本来蓄積する物だけど、私は飽くまで貴方達を誘導する為の都合の良い情報を渡されていただけだから、蓄積も何もないの。電池を入れたり抜いたりするのと同じ。その電池の中身が残っていても、抜いたらおもちゃは動かないでしょう? 電池があった頃にこっそり電気を吸い取っていたなんて起こらない。そんな感じだから―――何もないの」

「そっか。いや、当てにしてた訳じゃないんだ。お前が味方になってくれるだけでも十分だよ。一人で戦うつもりだったけど、仲間がいた方がより強いのは当たり前だし……何より、お前と肩を並べて戦えるのが嬉しいし!」

 …………これ以上欲深くなるのはいけない。

 俺がまともに動けている事すら、過ぎた幸運ではないか。霖さんが居なければとっくにゲームセット。これはその前提を踏まえた上での再起だ。道中の襲撃を警戒したが、一度もそのような事はなく、無事に目的の部屋まで辿り着いた。理由があるとすれば道中の監視カメラが完全に破壊されており、俺達を見つけられないからではないだろうか。俺にはその記憶がなく芽々子も覚えがないというからには霖さんがやった? あの人は本当に、どうやって行動しているのだ。

 エリア管理室の中に入れば、その言葉の意味が分かった。エリアとはこの島の外部―――つまり元々の生活圏を指していた。複数のモニターに映し出されているのは外の映像であり切替先も含めれば島全域を映すことが可能になっている。カメラの位置から逆算するに全て隠しカメラだ。研究所は機能していないが、俺達の気持ち程度の隠密行動は大分無意味だったらしい。カメラを全て見た感じ、なんと個々人の家の中まで覗けてしまうが、俺の部屋だけは例外で。

 しかも俺以外の部屋は他に住人が居ると聞いていたが中は空っぽで、あったのは奇妙な模様の描かれた部屋だけだった。映像を切り替えないといけないので頭で組み立てた限りだが、俺の部屋を囲う様に魔法陣みたいな物が組まれている。


 ―――これに気づかなかったのかよ。


 真紀さんは恐らく知っていたと思う。この部屋を俺に与えてくれたのは彼女だし。

「芽々子、アクセスキーの方はどうだ?」

「そう焦らない、一から造るのには時間がかかるわ。幸いここには機密情報の塊である『黒夢』があるから彼にも協力してもらう。部屋のロックは君が出来るから、不意打ちされる心配がないのは安心出来ていいわね」

「まあ、その為の指輪だしな…………霖さん、何してるんだろう。ここまで反応がないと不安になってきたよ」

「向こうは向こうでやる事があるのでしょう。それとも実は今狙われているのは向こうとかね」

 その考えも有り得る。結局放送を使って言葉巧みに誘導した所で一番厄介なのはこいつと思われたら心理戦など無関係に狙われるだろう。そんな事が起きたとすればそれもきっと彼女の狙い通りだ。『一人では解決できない』から俺に頼った。まだ意味は分からないが解決の手段は俺が持っているとも言い換えられる。だから、それはそれで。

「ん…………?」

「どうかしたの?」

「め、芽々子が居る。いや、みんながいる」

「へ? ……手が離せない。もう少し具体的にお願い」

「死んだはずの奴等が生き返って動き回ってる。外を!」

 俺達が離れているいつかの間だろうか、集会所の二階に溜まっていた死体が一斉に動き出し、島の人間達を殺して回っている。異常事態に対応するコマンドがない住人は為す術もなく殺されていき、殺された端から蘇って、新たな手駒として動いているではないか。

「ちょ、ちょっと待て。死体が動く? 死体が本物に成りすましてって……これ、名前を言えないあの怪異じゃないか!」

 研究所に来てから襲われる事もなかったのですっかり忘れていた。元々真紀さんに協力してほしければあの怪異を倒す事が条件だったではないか。ただ成り行きで……襲われもしなかったから話が流れていただけで。完全に忘れていた。忘れていたから最初にデータを閲覧出来た時も覚えていない。白無垢の怪異じゃなくてこいつについて調べるべきだったのに!

「ど、ど、どうしよう。本物の身体を見せるったって、まだ情報もないし、芽々子、まだか!?」

「ここに留まる必要はないけど、それにしたって二時間くらいはかかると思うわ。まさかと思うけど、外の人達も助けたいと思っているの? それは物理的に不可能よ」

「そうじゃない! そりゃ助けたいけど……違うんだ! この怪異、複数体いるっぽいぞ! 殺された端から全員操られていく。今はもう騙す必要もないから粛々と殺して回ってる。全員がここに殺到して来たら手の施しようがない! 止めないと!」


『私が時間を稼ぎましょう』


「霖さん!」


『一刀斎真紀が事前に準備していたお香を覚えていますか? あれは幻覚に惑わされたとき、帰り道を忘れないようにするちょっとした仕掛けです。逆利用して時間を稼ぎます』


「逆利用? だ、大丈夫なんですね? 死んだりしませんよね?」


『他人の心配よりも自分の心配をしてください。貴方の想像は正しい。犯人は白夢への対策として物量を選びました。対抗は出来るでしょうが、抑えきる頃には貴方の生命は吸い尽くされ死亡しているでしょう。そうですね。一時間稼ぎます。その間に有効な対処を彼女と考えて下さい』


 一時間!? 

 アクセスキーを使って怪異の情報を閲覧するにはその倍かかる。それもなしに対処しないといけないようだ。芽々子と顔を見合わせ、互いの思惑を探る。俺は多分、不安そうな顔をしているだろう。

「…………やりましょう」

「―――この鞄に入ってる怪異の能力を全部は知らない。やるだけやってみるが、『暗がりさん』だけじゃ厳しいな」

「…………ねえ天宮君。もう心配なんかしないわ。死ぬ覚悟はあるかしら」

「何? …………ああ、あるよ。全員助ける覚悟と同じくらいある。どんな事だってやるつもりさ」






「じゃあ、打ってみる? 『仮想性侵入藥』を」





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